第14話 会社にて後編

「鯖田くん、こないだの先物取引の話だけど、詐欺に遭うところだったのが契約しなくてすんで、損失が出なかったって」

 周囲で俺の方を見てヒソヒソ話していたのはそういうことだったのか。ところでそんなに大声で話していいんですか、部長。

「社長が誉めておられたよ。私も良い部下を育てたとほめていただいてね」

「良かったですね、部長、それでは仕事がありますんで」

 面倒くさくなりそうだ。

「まあ待ちたまえ、社長が君を食事に誘いたいとおっしゃっているんだ」

 ほーら、言わんこっちゃない。

「お断りします。それでは」

「頼むよー」

………。

「君が鯖田くんだね、この度は本当にありがとう。こんな状況なので公式に表彰はできないが、社が助かったのは、社員みんなが知っている。今晩は食事を楽しんでくれたまえ」

「はあ、ありがとうございます。社員として当然のことをしたまでです」

 そうだな確かに株式総会等でおおやけにするのは憚られるよな。

……。

「君は、ゴルフもしないらしいね。でもサバイバルゲームをするらしいね」

「はい、ゲームだけでなく、アウトドアやサバイバルに関することに興味があります」

「社でアウトドアやサバイバルのサークルを作ったらどうかね。ボーイスカウトみたいなもんだろう」

「かなり違うものと思うのですが……、私が考えているのは知識を集めたり、誤解を恐れずに言えばオタク的なものと思っています。そのためにゲームは欠かせませんし、性格的に合わない人は多いと思います。何よりもみんなでやろうというのはそぐわない気がします」

「そういうものなのか」

「私はそう思っております」

「営業への移動や昇進についてはどう思うかね」

「私は今のペースでプライベートを大切にしながら仕事を続けたいと思っています」

 正直、忙しさが許容できなければ辞職もやむ無しと腹を括っている。

「君の部下の秋田くんのことはどう思っているのかね」

「モチベーションも高くて、よく頑張っていると思います。助けられることも多いですし、何よりも自分で考えて動けるタイプですね」

「サバイバルゲームにもよく一緒に行くのだろう」

「ゲームの腕前はまだまだですね、私も自分のことは言えませんが……」

「一度ゴルフにいって見ないかね、部長や秋田くんも誘って…まあ無理にとは言わんが…これからも元気に頑張ってくれたまえ」

「はい、ありがとうございます」

……。

(鯖田さん、食事会終わったんですか、今晩は行けますか)

 慶子ちゃんからメールだ。やはりレベルアップによる高揚感が癖になっているようだ。

(終わったよ、迎えに行くから、マンションで待っていてくれ)

(了解でーす)

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