第16話 ハロウィンと打ち合わせ
町中にはカボチャやお化けの飾り物が取り付けられ、何だか甘い匂いも漂てきている気がする。
今日は10月31日。ハロウィンが到来した。
ハロウィンの起源はケルトの方だったり、収穫祭だったりとあるようだが、そんな詳しいことを考えている奴はここにはいないだろう。何よりもそう言う資料の大半は消失しているだろうし。仮装して美味しいものを食べる楽しいお祭り。それで十分だ。
向こうの方では早速異能を使って大道芸を披露する集団の姿があった。ここ最近急速に増えてきた異能覚醒者は思ったよりも秩序を壊すようなことはしていない。下手に暴れてみても銃には勝てないとわかるような頭があるってことかな?
まあ、普通に考えて、急に異能を与えられても世紀末になるような民度ではないと思うし、秩序は今のところは大丈夫だろう。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!」
町の巡回をしていると、お化けや吸血鬼の仮装をした子供たちが寄ってきて、定番の決まり文句を叫ぶ。
「おっ! 元気いいね! そんないい子たちにはこのチョコレートをあげよう。」
隣の西夢はそう言って満面の笑みで子供たちにお菓子を渡していく。
「じゃあ、俺達も。飴ちゃんで勘弁してくれ。」
俺と風丸も子供たちにお菓子を渡していく。
ウォルフでは十数年前から町の人との交流を深めるために、ハロウィンで子供にお菓子を配る活動をしていた。こういう俺達も昔、毎年もらって貰っていた。
何かと言いがかりをつけたい人種の人は「実質的な買収だ!」とか「偽善者!」と叫んでいるが、貰った側の子供にしてみれば、お菓子貰ったということはうれしい事実なので別にどうでも良いだろうって子供の頃から思ってたりした。
「ちょっと前までねだる側だったのに不思議な気分ね。」
「そうだな。中三とかでもねだったら貰えたからな。」
今日の午前中、俺達赤月班はお菓子配りを兼ねて町の見回りの任務についている。この俺達が持っているお菓子はウォルフから支給されたもので、上層部の人達が頑張って子供が喜びそうなものを選んできたやつなのだとか。
「いつも思うけど、センスいいよね。」
「何のだ? 主語がないとわからん。」
「お菓子の選択じゃねえか?」
「そうそう。いつもいつもよくこの年頃の子供が好きなものを的中させるよね〜って。」
「あ〜ね。言われてみれば確かに。」
上層部の人って、ちょっと歳のいったおじさんのイメージがあるんだが、若い人でも混じっているのだろうか。
「副隊長がいるじゃねえか。」
「ああ〜。飛成副隊長か! あの人は確か私達ともあまり歳も変わらないし。」
そう言えば、飛成副隊長は小さな頃からウォルフに所属していると聞いている。赤崎さんと同期とか言ってたっけ?
つまり、小学生とかそれ以前からこの組織にいるってことか?
「あっ、隊員さんだ!! トリックオアトリート!」
おっと、またもや少年たちが駆け寄ってきた。吸血鬼に狼少年、包帯男もいるな。本格的過ぎて怖いんだけど。
このペースだとお菓子足りるか心配だな。
そう言えば、この中に本当の吸血鬼とか妖怪がいたとしてもわからないだろうな。最近の仮装はみんな本格的だし。まあ、いる訳ないか。
でも、よく考えたら否定できない世界に変わってきてるんだけどね。
「見てみて、僕こんなのできるんだよ!」
少年たちの内の一人はそう言うと掌からボンっと煙を発生させた。
異能だ。この少年は煙を発生させ、操る力を持っているのだろうか。
「おっ、凄いね! みんなの役に立つように使うんだよ。私達とのお約束ね。」
「うん!」
西夢はそう言って彼にお菓子を与えた。こういう小さな積み重ねが教育には重要だったりする。
しかしまあ、なんというか、将来が不安である。
異能が溢れ始めているこの世界。良識のある人ばかりだったらいいのだが、そうもいかないのが常である。
「その時のために俺達がいるんだろ? 遠いことを見てばっかで目の前のものを拾い落とすなよ。」
―確かにそうだな。風丸の言うとおりだ。いつも通りの明日のために頑張っていくとしようか。
◇ ◇ ◇
「見えてきたぜ。我らが母校が。」
昼ご飯を食べて少し歩くと、4ヶ月ぶりの校舎が今、目の前にあった。ハロウィンで楽しそうな町とはこれまた違った凄まじい熱気が伝わってくる。
校門に駆け込んでいくパンパンのビニール袋を抱えて生徒。用具の買い出しだろう。
文化祭準備のラストスパート。熱くならないほうがおかしいのかもな。
今日の午後から、俺達は文化祭の警備についての打ち合わせの仕事が入っていた。俺達赤月班は私服隊員として文化祭に潜入するのだが、捨てた学生生活を雰囲気だけでも楽しんでこいという意図もあるのだろう。
「風丸、久しいな。白摩は、先日あったばかりだな。」
校門の前には高校生とは思えない巨体の生徒が俺達を待っていた。
「ああ、先日ぶり。」
「おひさ。勝手に学校止めて悪かったな。こいつを唆したのも俺だし。」
「お前が心からそうしたいと思ったのならば、それはきっと正しいことだ。俺はお前たちがお前たち自身の道を切り拓いたことを喜んでいる。」
そう言えば、龍太郎って風丸の決断を基本信用してたよな。
「そして、君はこいつらの仲間だろうか? 俺は上木龍太郎。もし仲間なら、所々おかしなところがある二人だが、支えてやってほしい。」
龍太郎は隣の西夢に話しかけた。
そして、西夢は俺達と龍太郎を交互に見て何とも言えない顔をしている。
その表情からはほんとに自分達と同じ年なのかを疑っているような雰囲気を感じられた。
「富岳桜西夢です。私も二人には助けられているのでこれからも頑張って支え合っていこうと思います。」
龍太郎に少し緊張しているのか、西夢の言葉が少しぎこちなく感じる。
「それは良かった。では、校内へ行こう。生徒会長と先生を待たせている。」
俺達はそのまま、龍太郎に連れられて今日の打ち合わせ場所へと向かった。
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