第17話 俺達が中退した高校に来ました
学校の中を歩いていると、ドタバタと廊下を走る生徒とよくすれ違う。
その表情には「間に合わないかも知れない」という焦りが見えると同時に、この状況そのものを楽しんでいるようにも見えた。
「活気があるね。私の学校だったらここまでマジになる人は少ないかも。」
そんな様子を見て西夢は羨ましそうにそう言った。
確かに窓から見える教室内には気合の入った製作物が並んでいる。
「工業高校だからな。物を作るという点において普通高校に負けていれば目も当てられないってもんさ。」
風丸の言う通り、俺達が通っていたのは工業高校。進学をあまり考えていない分、その時間を専門の分野に集中させることができる。
金属加工をする工場、当たり前のように持っている人がいる3Dプリンター、趣味で様々なセンサやモータを使えるようなシステム環境を作る人、・・・。
取り合えず、言いたい事は、この学校はいろんな技術を持った変人が集まり、それを発揮できる環境がある。ならば、文化祭が化けるのは当然のことだろう。
「一応言っておくがこれはクラスの展示ではなく、クラブ活動としての展示だ。クラスとしては演劇や屋台などをやっている。」
「俺達のクラスは何をやんだ?」
「俺達はお化け屋敷をするとのことだ。クラスの奴らは風丸がいないことを残念がっていたぞ。俺にはわからないが『完全地毛の白髪に白装束着させて真剣持たせたら絶対怖いのに。』とのことだった。」
「あ~、確かに。角もつけて剣鬼ですみたいな?」
ちょっと見てみたくなった。俺は裏方で小道具でも作っとこうかな。
「お前は初手の死体役だろ。忘れたはずねえよな?」
「忘れてねえよ。周りから見れば笑い話だが、俺からすれば悲劇でしかねえよ。」
ほんとあれはマジで俺が只々不幸なだけの事件だった。
「どんなことがあったの?」
「え~っと、弾丸ライナーが白摩の腹にぶっ刺さって、一気飲みしていたトマトジュースを白摩がぶちまけて気絶した事件だ。白摩の体勢、トマトジュースの赤、飛散ったガラス。これが上手いことかみ合ってまるで腹を撃ち抜かれた死体みたいになっててさ。勘違いした生徒が通報までしてあわや警察まで来たんだからな。」
マジで不幸だった。嫌いなトマトジュースを一気に消費したかったので一気飲みしたのだが、そこに窓を突き破ってくる野球ボール。俺に一切の非はないのになぜか俺まで先生に怒られるおまけつき。
後から分かったことだが、その日の俺の運勢はどんな媒体で合っても凶であった。占いって当たるんだなって実感したよ。
「何と言うか、ご愁傷様。」
「あれは悲劇だったな。で、着いたぞ。」
思い出話2花を咲かしているといつの間にか生徒会室の前まで来ていた。ちなみに入ったことはないので結構ワクワクしている。
コンコンコンと、龍太郎が三度ドアを叩き、ドアを開ける。
「失礼します。1年の上木です。ウォルフ警備隊の三人を連れてきました。」
中には長机とその向こう側に二人の男がいた。一人は生徒、多分生徒会長。もう一人は元うちの担任だ。そう言えば、生徒会顧問をしているとも言っていた気がする。
「ウォルフ警備隊、赤崎小隊赤月班所属の赤月白摩です。」
「同じく、赤月班所属の鹿吹風丸です。」
「同じく、赤月班所属の富岳桜西夢です。今日は文化祭における警備配置等の打ち合わせということで良かったでしょうか?」
西夢がそう言うと、元担任の方が口を開いた。
「はい。その予定で合ってます。まず、立ち話も大変ですので、こちらにお座りください。」
元担任は俺達に座るように促し、俺達もそれに従い、二人を正面に座る。そこには緑茶が既に用意されており、しっかり客人対応してるなと思った。
いつの間にか龍太郎は部屋を出ており、この空間には俺達五人だけとなっている。
「私は1年4組の担任と生徒会顧問を務めております
「3年生徒会長の
そう言って、先生と生徒会長は頭を下げた。
元担任と先輩と対等な関係で話し合いってなんかすっごいやりにくい気がする。
「先生。普通に先生で話してください。班長がめっちゃやりにくそうな雰囲気出してます。」
風丸お前、俺を盾にしやがったな。
「第三者が居ますので。」
「あっ、私は大丈夫です。」
先生は西夢が居たので配慮するつもりだったようだが、肝心の西夢からそう言われてしまってはその論理は通じない。
「わかった。じゃあ、取り敢えず言いたいことを言うぞ。」
お、普段の調子に戻った。まあ、俺達が見るのは数か月ぶりだけど。
「お前ら何勝手に、自主退学して就職してやがんだ! せめて一言二言入れるもんだろ!?」
「いやぁ~、白摩の家が燃えたんで節目かなって思いまして。ちょっと背中押してみたらこうなりました。」
「それでも相談ぐらいしろよ。学歴中卒だが、この先大丈夫か? 何かあった時、転職とか大変だぞ?」
「そこは大丈夫ですね。俺達ウォルフに骨埋めるつもりなんで。」
「死んでるくないそれ?」
いつも通り、先生の言葉に対して一切の躊躇なく風丸が言葉を返す。昔からそういうところ怖い物知らずだよな。
「赤月お前も代弁して貰ってないで、何かないのか? ちなみにネットに上がってたのは聞いたぞ。」
まさかの火の粉がこちらに。それにしても、そんなこともあったな。今では既に笑い話、・・・ではないな。明らかに黒歴史。と言うか思い出したくなかった。
「え~っと、あれは何と言いますか。死にかけでいろいろとパニクってたと言いますか、自分が自分じゃなかったと言いますか。」
そう言えば、危機的状況になると、中から何かの声が聞こえてくるけどあれなんだろ。
――最近はそうじゃなくても出てこれるぞ。――
へぇー。成長したな。
「俺は格好良くていいと思うけどな。で、そんなことは正直どうでもよくて、最近のクラスはどうですか? 龍太郎馴染めてますか?」
「どうでも良い話じゃないんだがな、まあ、説教したところで赤月は兎も角、鹿吹には意味がないだろうからな。じゃあ、本題に移るぞ。梶原と富岳桜さんが蚊帳の外になってるからな。」
二人のほうを見てみると会話に入る隙が無く、肩身が狭そうな雰囲気があった。これは悪いことしたかも。
「わかりやした。じゃあ、白摩進行よろしく。」
おっと、まさかの俺進行かよ。
「わかりました。じゃあ、改めて文化祭の警備についての打ち合わせを始めます。」
◇ ◇ ◇
「では、こちらの用意していた案の通り、普通に見回りをする隊員の他に赤崎小隊は私服隊員として紛れるという形で大丈夫でしょうか?」
話してて思ったのだが、生徒会長さんは結構頭がまわるようだ。
警備位置の狙いなども瞬時に理解し、展示などの学校側からしかわからないような点で指摘をしてくれる。
普通なら大人の先生がやるべき仕事ではあるが、その能力の高さを買ってか先生は話の内容を見守るばかり。放任主義のようにも見えるが、致命的な点はいつも指摘してくれるのでこちらも安心して話を進めることができた。
「はい。大丈夫です。追加で変更点があった場合は連絡します。」
話を有意義に終え、俺達が帰り支度を始めていると、そこで先生が口をはさんだ。
「いっそのこと、富岳桜さんも含めて、お前ら制服で来たら?」
「「「へっ?」」」
突然の提案。俺達の思考は一時停止した。
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