第15話 事務作業中の雑談

「異能における事件が増加している?」


 ウォルフの赤崎小隊支部で事務作業をしていると鵜張さんが話しかけてきた。


「そうっす。赤月君達が入隊したころ、暴走現象が多発したことは憶えてるっすか?」

「はい。確か人狼事件から山蛇事件での間に数十件が発生していた話ですよね? 被害が一番大きかったのは人狼事件で、その後の事件は基本的にそこまでの被害が出てなかったとか。」

「確かに。人狼に関してはたまたま一年目の人達が近くにいてしまっていた結果起こった話っすから。なによりも、皮膚の上からは銃弾が効かなかった時点でほとんどの人が為す術なかったでしょうが。」


 暴走現象の被害の大きさは勿論差が大きい。人狼や山の蛇は比較的ヤバい部類だ。逆にちょっと巨大化したぐらいであったり、発光するだけだったりする人の場合もある。


「で、まあその話は置いといて、最近はぱったりと暴走現象の事件が無くなってたんっすよ。でもそこ代わりに結構大変なことになってたんすよ。」

「それはどんな?」

「どうも異能に目覚めた人が増えて来てるんすよ。異能覚醒者ってやつっすね。異能っていうのはいわば、暴走現象で生じる不思議な力や変化を理性を持った状態で使えるようになるようなもんっす。犯罪に走る人が増えることはデータをとるまでもなく自明っす。」

「ちなみに昨日だけでどのくらいの件数が?」

「一応まだ一桁台っす。そんな異能を持った人も多い訳ではないっすし。そう言えば、暴走現象を引き起こした人と異能覚醒者の違いって知ってるっすか?」

「いや知らないです。」


 風丸とかは知ってるかも知れないが、俺はそこまで勤勉ではない。


「でも、語感的に理性の有無じゃないですか?」

「流石、その通りっす。厳密にいうと異能を使用している人自身に理性が残っているかどうかという話っす。例えば、・・・副隊長を知ってるっすか?」

「副隊長・・・飛成さんですか? 〝黒鎖の天使〟で有名な。」


 飛成副隊長。確か、山で二体目の蛇から俺を助けてくれた人。彼女は髪を黒く染めてそこから黒い鎖を操っていた。確かにあれも異能だろう。


「傍らにもう一人誰かいなかったすか?」


 傍ら? そう言えば何かと話していたな。黒っぽい何か。


「寝ぼけて晩飯にかつ丼食いたいって言ってる奴ならいたと思います。」

「へぇー。副隊長。料理ができるまで成長したんすね。まあ、それはいいとして、副隊長が一番身近な異能覚醒者っす。彼女の異能はヘーテスというあの黒いのっす。一応悪魔を自称してるっすが、真偽は不明っすね。」


 〝黒鎖の天使〟の力の源は悪魔とは、なんか笑えねえ。


「飛成副隊長は自身の理性を残したまま、悪魔を使役するという異能を使っているから、異能覚醒者ということですか?」

「そうそう。理解が速いっすね。じゃあ、もし副隊長の主導権が故意にヘーテスにわたっており、副隊長の任意で主導権を切り替えられなくなった場合はどうっすか?」

「それは暴走現象じゃないですか?」


 鵜張さんは確かさっき、異能を使用している人自身の理性の有無が分かれ目となってるといった。そして、ヘーテスは異能そのもの。彼女ではない。


「正解っす!と言いたいところっすが、それも実は違うんすよね。ヘーテスや隊長、隊長補佐曰く、異能の意志があれば暴走現象には該当しないそうっす。多分大戦期に何かあったんだろうっすけど、暴走現象にはもう一つ重要な点があるんだとか。まあ、それは私も知らないんすけどね。」

「知らないんですかい!」


 一番重要なとこが抜けてるじゃねえか。


「なんか教えてくれなかったんすよね。多分、小隊長も副隊長も知らないと思うっす。大戦期を地上で生き残ったサバイバーの人でも一部しか知らないようっすし。」


 悪魔のほうは兎も角、まるで隊長や隊長補佐がサバイバーみたいな言い方だな。


「隊長や隊長補佐は若いと聞いてるのですが?」

「ああ。あの二人はサバイバーっすよ。どっちも成長というか老化が止まってるらしいっす。サバイバーにはよくある話らしいっすけど。」

「はい?!」


 サバイバーってやっぱどこかおかしいヒトばっかなんだな。どの文献を読んでも地球丸ごと地獄としか書いてなかったあの時代を生き残るにはそのぐらいの異能が一つや二つ必要ってことか。


「大戦期の話は一切してくれないんすよね。ケチだと思わないっすか?」

「ま、まあそうっすね。」

「あっ、でも副隊長経由で隊長と隊長補佐の武勇伝をヘーテスから聞いたことがあるっすよ。」

「どんな武勇伝ですか?」

「確か、無人機の大群を二人で壊滅させたとか、百メートルを超える怪物を討伐したとか。ホントどんな異能を持ってるんすかね?」

「見たことないんですか?」

「ないっすね。これ隊長本人が言ってたことっすけど、個々の単純な戦闘力はモテる全てを出し尽くした超状態の副隊長には劣る程度だとか。」


 何かめっちゃ訳アリみたいな言い回しだな。まあ、本気の飛成副隊長なんて知らないし、どこまで理不尽じみた力なのか知らないので何とも言えないな。


「その隊長達は大戦後、一つの地下避難組と合流してこの町を作ったそうっすよ。初めは二人組の用心棒として始めたウォルフは今この町全体の治安を守る警備隊まで成長したっす。凄いっすよね。」

「はいそうですね。そう言えば、まだ隊長や隊長補佐を見たことが無いんですがお二人は何処にいらっしゃるんですか?」

「ああ、二人は夏頃から種子島調査遠征について行ってるっす。外の世界には何があるか分からないっすから。」


 そう言えば、前にそんなニュースが流れてたな。


 ――自分の職場のことぐらい調査しとけよ。企業研究は基本だろ?――


 うっせえな。入れたから良いだろ。


「昔、サバイバーを名乗る旅人から聞いた話っすけど、当時の地球には龍がいたらしいっすよ。」

「夢がありますね。」


 出てきてほしくないけど。


「そうっすね。そんなのが現れたら副隊長か小隊長、隊長辺りを頼るか、自身に内在する秘めたる異能何かの覚醒を待つぐらいしかやることが無さそうっすね。」

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