第14話 同級生

 10月に入り、少しずつ肌寒い日も増えてきて、衣替えを考え始める時期。今日はいつもより一層冷えており、暖かめのインナーを着ている。


「おはようごさいまーす!」


 元気な子供の挨拶が交差点に響く。子供は風の子とよく言うが、半袖短パンとは流石である。


「おはよう。左右はしっかり見るようにね。」


 そして、俺は旗を振りながら、壊れた信号機の代わりをしていた。時計は午前八時を回ったところ。徹夜で作業をしているのだが、いつの間にか日も昇り通勤通学の時間になっている。夜は交通量が少ないので楽ではあるが、治安が悪く精神的にとても疲れた。朝と夜の治安の違いを考えると太陽って偉大だなといつも思う。

 ちなみにどのくらい夜が危険なのかという話だが、不用意に人通りのない所を歩けば、誘拐されても殺されても仕方ないと思われる程度である。治安維持のために街灯を多く作るという計画もあったのだが、特定の道では設置した端から壊されていったので無理だという話になった。ちなみに犯人は不明。

 確かに不審者が多かったり、薬物の取引が行われているという事例もある。だが、夜は原因不明の不審死が多く未解決な物がほとんどなのだ。なので、小さい子供は親に夜の町には鬼が歩いているって言い聞かされるとか。街灯が建てられない道は鬼道と呼ばれていたりもする。まあ、鬼とかは迷信で狡猾な悪党によって引き起こされているっていうのが一般論だ。最近は暴走現象を引き起こした結果、野生化し怪異として定着したやら、異能を扱う人間の仕業などの説も支持されてきたりしている。


「白摩、朝ご飯買って来たよ。あと変わるね。」


 声の方を見てみるとポリ袋を掲げた西夢がいた。


「あざっす。」


 袋の中にはあんぱんと牛乳が入っている。


「俺は張り込みかよ。」

「風丸がこっちの方が喜ぶっていって選んでくれたんだけどな。特に肉系とか塩っ辛いのは控えるようにって。」

「あいつ!!」


 あいついらんことしやがって。腹が減ってて俺は今、肉系とか塩っ辛い物が食べたい気分なんだよ!


「まあいいか。今度なんか仕返してやろ。」

「私のときはご飯系お願いね。」

「オッケー、記憶しとく。」


 取り敢えず、ウォルフに帰ろうか。確か処理しなきゃいけない書類が山積みだった気がする。鵜張さんが頭を抱えている姿が目に浮かぶ。


「久しいな。」


 しばらく、歩いていると突然後ろから声をかけられた。聞き慣れた声。3ヶ月ぶりだろうか。


「久しぶり龍太郎。」


 振り返るとそこには2mに届きそうな大男がいた。ボサボサっとして寝癖が残っている黒い髪。軽く焼けた肌。こいつに合う制服がなくてオーダーメイドしてもらったという話は学校でも有名な話だった。


「就職おめでとう。友として就職祝いを渡すべきだろうが生憎今は持ち合わせてなくてな。次の機会まで待っていてくれないか?」


 彼の名は上木龍太郎かみぎ りゅうたろう


「就職祝いなんていらねえよ。アホ共がその場のノリで人生をギャンブルに突っ込んだだけだから。それより学校はどうなってる?」


 正直、同級生はどういう反応をしたのかは、ちょくちょく風丸と西夢とで想像していた。


「そうだな。夏休み明けこそは騒がれていたが、今では空気だ。」

「知ってた〜。」


 ですよね〜。俺達でもその結論になってたもん。なにより、俺達三人組はクラスラインとかからもハブられてた組だし、委員とかもやってないから損害無いしね。


「そういや、夏休み何してたんだ? 連絡つかなかったけど、なんかバイトしてた?」

「ああ。どうしても困っていると言われたので、少しな。」

「それ闇バイトだったりしない?」

「いや、ただの獣退治だ。その道中で携帯を壊してな。かなり苦労したが何とか退けたことはできた。」


 さらっと言ってるけど絶対ヤバい怪物だろそれ。


「武器は?」

「銃は使い慣れてなかったので、棍棒と弓矢を使った。」


 つまり、銃が使える環境下にありながら、依頼人達はその獣を討伐できなかったってことか。うん、やばい案件なこと確定だね。


「そう言うのはウォルフに連絡したほうがいいと思うよ。」

「確かにな。次からは気をつける。炎を扱う獣相手は疲れるのでな。それにしても逞しくなったな。」

「おっ、わかるか? 毎日毎日訓練続きでさ。」


 制服で隠れていが、やっぱわかるぐらい筋肉とか付いてるのだろうか。不吉な単語があった気がするが無視しておこう。


「ああ、人が変わったようだ。成長期も相まってか、良い体格の好青年という感じがする。日陰者という印象もない。あとは、ん? すまんな。そろそろ時間がヤバいので行くとしよう。」


 時計を見ると八時半であった。あと数分でホームルームが始まる時間だ。学校との距離を考えると常人なら間に合わないだろう。


「そう言えば最後に伝えておくことがある。」

「何だ?」

「死ぬなよ。過労で。」


 確かに殉職はまだしも過労死は笑えないな。


「風丸にも伝えておくよ。」

「いや、あいつには必要ないだろ。」

「それもそうだな。」


 あいつは適度な手の抜き方を知ってるからな。


「じゃあまた。文化祭は行くつもりだ。」

「そうか。では俺も手を抜いてはいられないな。」

「手の抜き方を知らない奴が何か言ってら。」

「努力するとしよう。」


 そう言うと、龍太郎は学校の方へと凄まじい速度で走って行った。いつも思うが、あいつの肉体、絶対人間卒業してるよな。

 

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