第13話 なぜか元気です。

「風丸。正直な話、どう思ってる?」

「何の話だ?」


 ウォルフ敷地内にある道場で西夢と風丸は拳と竹刀をぶつけながら話をしていた。


「昨日の蛇の話よ。」

「あーね。生き残れたからオッケーって感じでいいか?」


 時刻はお昼を過ぎた頃。昨日の山での蛇の一件で眠れていなかったため、朝は仮眠をしていたが、二人は昼飯のタイミングで同時に起き、そこからはずっと道場に籠もっていた。


「ホントに?」

「まあな。お前は白摩が自分自身を囮にしたことに納得いってないんだろ?」

「そうだけど。風丸は納得いってるの?」

「あいつが自分で決断したんだ。あそこで下手にいても邪魔なだけ。どんでん返しをするにしても手札がない。」

「へぇー、あなたなら、協力して倒すのが熱い展開とか言いそうだと思ったんだけど。隙あり!」

「隙なし。」


 バシン!と竹刀の音がする。


「確かにそうだな。まあ、理屈とかじゃない。勘だ。あいつはここでは死なないって俺の直感が言ってたんだよ。」

「なにそれ。だから、自分の生存率を上げる策を取ったってこと?」

「そういうこった!」


 竹刀が西夢の腹に当り、西夢はよろけた。


「やっぱり、リーチ差を覆すのは大変ね。」


 西夢は両手を上げて、降参の宣言する。


「お前の拳術は初見殺しだろ。そう何回も通用するかって話だ。初戦はお前が勝った。それで十分だろ。」


 風丸は竹刀を下げて礼をする。それに続いて西夢も礼をした。


「で、この後どうする? 何試合かするか?」

「いいえ。射撃場でも行かない?」

「確かに。そっちの方が重要だな。」


 風丸と西夢は体術に関してはとても優秀であるが、射撃に関してはそういう訳でもない。下手くそまでとは言わなくとも、他の隊員と比べると結構劣っている部分がある。


「その前に白摩のお見舞いに行かない?」

「ああ。確かに。だが、集中治療室とかで治療受けてるから面会謝絶とかじゃねえのか?」


 風丸と西夢は昨日、搬送される白摩の姿を一目見ていた。その時の状態は生きていることがおかしい程の重傷で、事実心肺は止まりかけており、出血死一歩手前の状態であった。


「でも、風の噂で朝に病室を逃げだしたとか聞いてるよ。」

「怪我は大丈夫そうだな。」

「うん。それは良いんだけど。」

「あいつって、暇だから逃げ出すような奴か?」


 風丸と西夢は白摩の噂について、少し頭を傾ける。二人は一か月間共同生活をしていて、白摩にそのような行動力があるとは思えなかった。


「取り敢えず、行ってみるか。」

「そうですね。」



◇ ◇ ◇



「白摩。元気か?」

「トランプあるけど遊ぶ?」


 二人は白摩が寝ている病室に入る。二人の手にはお見舞いのフルーツではなく、お菓子とトランプが握られていた。


「そこはフルーツじゃね?」


 白摩は包帯やギブスやらでグルグル巻きにされているが、その中はある程度治っているとのこと。今朝にはこっそり病室を抜け出して事務所まで挨拶に行けるぐらいに。


「いやな、確かに初めはそっちのほうがいいかなって思ったんだけどな。」

「ほぼ完治してるなら遊べるかなって思って、遊ぶならお菓子のほうが良いかなって思ったの。第一、スイカとか持ってきても食べるの大変でしょ?」

「確かに。」


 白摩が納得すると、風丸はどこからか持ってきた机の上にトランプを並べる。


「取り敢えず、神経衰弱するか。」

「そこはババ抜きだろ。」

「いいえ。トランプと言えば大富豪でしょ。」


 一触即発の空気が流れ、三人は拳を握る。


「ジャンケン、ポン」

「よっしゃー!」


 結果は神経衰弱でした。



◇ ◇ ◇



「体の調子はどう?」


 トランプをめくりながら、西夢は聞く。現在は風丸がリードしており、次いで白摩、西夢はまだ一組も取れていない。


「異常はないな。さっきも抜け出して走ってきたけど、骨は確実に完治してる。」


 白摩は腕に巻かれた包帯を強引に外しながら答える。その部分は昨夜の時点では骨が見えるまで裂けており、さらにその見えている骨もボロボロであるという状況であった。

 しかし、今ではその傷など何も無かったかのように後すら残らず元に戻っている。


「多分だが、何かしらの力で魔法みたいに傷を治せる人がいるんじゃないか?」


 白摩の考えに二人も「確かに」と頷く。暴走現象と言った異能の力によって引き起こされる事件があるため、それを制御している人間がいてもおかしくないと三人は考えたようだ。


「それにしても、それほどまでに暇だったか?」

「―――、まあ、そんなところだ。気が付いたらベットの上で何かデジャブ感があった。」


 風丸の問いに白摩は少し考えてから答えた。


「似たような経験したことあるの?」

「こいつが人狼退治した話知ってるだろ? あの後意識を失って次に目覚めたのが自室のベットの上だったんだ。」


 西夢の疑問には風丸が答え、白摩も「そうそう。」と言わんばかりに頷いている。


「そう言えば、その時は怪我をしなかったの?」

「どうだろうな。まあ、次の日には完治してたな。」

「だが、服の状態から見て、大怪我をしていることは間違いなかったと思うがな。」


 風丸は血で汚れた白摩の服の写真を見せる。


「返り血という線は?」

「それはないと言いたいが、正直な話、俺はあの時の記憶があいまいだからな。まあ、今回と同じ人が治療してくれたんだろう。」

「それもそうね。」


 西夢は納得したようだ。まあ、実際に怪我が完治している人間がいるのなら納得せざる得ないだろう。


「でもそれなら前に出てきて貰っても良いんじゃない?」

「顔バレしたら狙われるだろ。」


 風丸の答えは最もだ。もしも、そんな人物がいるならその人を拉致しようとする組織は後を絶たないだろう。まあ、もしそんな人が本当にいればの話ではあるが。


「そういや、お前ら逃げてるときに等身大の木人形を見なかったか?」


 白摩は二人に聞く。


「知らないな。」

「私も。何か今回の事件と関係あるの?」


 西夢は質問を返す。しかし、風丸は知らないと言いながらも若干心当たりがありそうな雰囲気があった。


「そうだな。、―――ちょっと逃げてる最中に見かけてな。気になっただけだ。」


 白摩はそう言って、少し誤魔化した。


「いっちょ前に黒いコート着てたんだ。」


 白摩の追加情報に風丸は飲んでいたジュースを吹きそうになった。


「コートね~。不法投棄かな。」

「山に何をしても違反にはならねえだろ。誰も所有権持ってないんだし。もしあったら俺達は今頃不法侵入で捕まってるよ。」


 西夢の推測に風丸がツッコむ。


「確かに。住宅以外の土地に関する法律があったのは大戦前までだしね。」

「まあ、あったとしても取り締まる警察もいねえけどな。」

「ついでに国も。マジで国が全滅する戦争ってなんだよっていつも思う。一応現代にも過去の法を模して簡易版が公布されてるがな。」


 第三次世界大戦。結果は目も当てられない程悲惨であった。生き残った人間のほとんどは地下に潜った人間ばかりで、どのような戦いであったかを残した資料はほぼない。被害の代表例は、取り敢えず、戦前の地図は使い物にならないということぐらいだ。大戦直後は特に暴走現象も頻発しており、とある学者の推論ではあるが、暴走現象などによって現れた異能によって、壊滅的な被害がもたらされたと考えられている。


「そんな戦い、どうやって終戦たのかな。」

「ヨーロッパの方は最終的には光輝く剣を持った騎士が治めたって聞いたぜ。まあでも、大抵は自然に終わったと聞いてる。全員死に絶えれば、戦うことも出来ないからな。」


 西夢と白摩は「へぇ~、そうなんだ。」という顔をしている。


「風丸って博学だな。」

「ですね。」

「中学でやっただろ。」


 風丸は二人に呆れた。西夢と白摩は少し勉強しようと思った。



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