第11話 vs蛇3

 さて、どうしましょうか。ここには二体の巨大蛇の死骸と重傷を負った赤月君がいる。


「赤月隊員。応答してください。赤月隊員!」


 応答がない。気を失ってしまっているようだ。

 赤月君を放置すれば数分も経たずに死亡してしまう。


「いっそのこと、ほっとくのはどうだ? どうせ死なねえし。」

「どこからその根拠は来るんですか?」

「勘だ。」

「却下で。」


 ヘーテスが言うのだから、本当に死ぬことはないのだろう。何と言ったって私の名前を使ってウォルフに彼を推薦したのはヘーテスだ。何かしらの確信があるのだろう。しかし、それを信じて放置して死なせてしまうのだけは避けたい。


「ヘーテスって治癒とかってできる?」

「ん~。今のままだと、お前にやったことと同じことぐらいしかできない。魔力が足りないからな。」


 ヘーテスの案は最終手段なので、却下しましょう。しかし、この山に住み着く蛇を処理するにはこのタイミングしかない。地中の奥深くに逃げられてしまえば、今後、これは生きる災害となってしまう。


「ひなちゃんは蛇退治に集中して貰って大丈夫だよ。」


 声と共に茂みから赤崎さんが顔を出した。いつも、ひなちゃん呼びは止めろと言っているが、ここで言うのは時間のロスなのでやめておこう。


「鹿吹君と富岳桜さんは安置にいるし、赤月君は僕が応急手当をして責任をもって連れ帰るよ。」

「ついさっきまで、基地にいたと言うのにもうここまで走ってくるとは流石ですね。赤崎さ、赤崎小隊長。じゃあ、ここは任せます。」

「赤崎さんでいいのに。真面目だね。まあ、オッケー。任された!」


 そう言って、赤崎さんは赤月君を抱えて、凄い勢いで下山していった。


「さて、蛇だけに集中できるな。どうする? 今日はお前が制御するか?」


 ヘーテスは〝黒鎖〟の制御について聞いてきた。


「勿論私がやります。補助をお願いします。」

「言葉がかてえな。俺達しかいないぜ、ここには。」

「普段から心掛けないと咄嗟の時に間違えるのです。」

「別に言葉ぐらい良いだろ。呪文でもあるまいし。あ、でも呪文も適当でいいか。」


 呪文やら言っているが、良く分からないので昔から無視している。


「始めましょうか。」


 取り敢えず、軽く一掃しましょうか。

 髪を鎖に変えて、数百メートル以内で暴れている数十の蛇の脳天を貫いていく。


「睡蓮。やはりこいつら全員地中から生えてやがる。」


 鎖を通して、ヘーテスは蛇を視ていた。


「じゃあ、引きずり出します。」


 多分一体だけを引っ張っても、その首だけが千切れるだけだ。地中にあるであろう本体を引きずり出すためには嫌いな人の髪を引っ張るように、出来るだけいっぱいの蛇を同時に引っ張る必要がある。

 なので、殺した蛇を全てに鎖を巻き付けて、強引に引っ張る。


「おっ、意外と浅いところに潜んでやがったな。」


 ヘーテスの言う通り、想像していたよりかは手応えは軽い。

 ボコボコボコと芋を引っ張りだすみたいな感じで地面が盛り上がっていく。


「ギイィィアアアアア!!!!」


 甲高い悲鳴が聞こえてくると同時に、地面に罅が入り、地面が揺れる。


「雰囲気はメデゥーサって感じだな。」


 そうやって引きずり出されたのは、下半身と髪が蛇となった女性であった。その目にもう理性はない。彼女の髪は先端に向かうにつれて大きくなり、さっき殺戮した蛇となっていた。


「束縛」


 抵抗する暇もなく、彼女を鎖で縛る。


「ヘーテス。彼女をもとに戻す方法はないのですか?」

「いつも言ってるだろ。ああなったら、元の人格はとっくに死んでいる。」

「そう、ですか。」

「さっさと殺してやれ。それが一番苦痛がないからな。」

「わかってる。」


 いつものように覚悟を決めて、出力を一気に上げる。

 そして、彼女は潰れたトマトのように鎖を赤く染めた。

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