第6話 クレイジーな同期
はてさて、ついにこの時がきた。
下ろし立ての制服に腕を通す。
「おお、ピッタリだ。」
昨日細かく採寸して貰ったため、制服のサイズはピッタリだ。
「動きやす。」
機能性が最優先で設計されているのか、見た目の割に動きやすい。
「おお、白摩。似合ってんじゃん。」
隣には同じ制服を着た風丸。白い頭に白い制服。もうただの白い人じゃん。
「お前は真っ白だな。」
「いうほどだ。まあ、そろそろ行きますか。」
「だな。、あっ、ちょっと待って。これ見てくれ。」
風丸はそう言っておもむろにどこかで見覚えのある手のひらサイズの金属製の筒を取り出した。
「何だそれ?」
「竹刀な壊れた時の代わり。」
そう言って風丸はカチッとその筒の突起を触ると筒は1m強の金属の棒に伸びた。
「なんか見たことあるなそれ。」
「テントには数十本置いてあるから好きに使っていいぜ。なんなら2m、3mのやつもあるぜ! 中にはコンクリートも破壊する勢いで伸びるような奴もある。」
いらねえよ。というか、そこまでくれば違う武器だろ。
「まあ、そんなことはどうでも良いな。さっさと行こうぜ。」
「そうだな。」
更衣室の扉を開け、訓練場に向かった。
「おはよう。今日から君達を指導する赤崎だ。昨日ぶりだね。」
「おはようございます。」
訓練場に来てみると、赤崎さんがいろいろと武器の手入れをしながら俺達を待っていた。
「もうちょっと待っててくれ。君達の他にもう一人、最近入隊した人がいてね。」
つまり、俺達の同期は合計三人と言うことになるのではないか。
「大体一年にどんくらいの人が入隊するんですか?」
「う~ん。五十人ぐらいかな。」
ならば五年後に残っているのは五人と言うことになる。
「どう考えても数年後には人手不足で潰れる未来しか見えないんだが。」
流石風丸、思ったことをそのまま言いやがる。
「大丈夫。君達の代は多分問題ないよ。」
「根拠は?」
「鹿吹君はぐいぐい来るね。まあいいか。理由は副隊長がいるからだね。」
「人一人の力でどうにかなるもんですか?」
「一人力じゃないんだな、これが。」
赤崎さんは少し乾いた笑いをしていた。
「暴走現象ってあるだろ。あれを「すいません。遅れました。」
赤崎さんの話は少女の声によって遮られた。
「
おお。まさかの同学年。あと凄い名前。髪はよくある黒色。動きやすくするために女子にしては短めだ。目も今日ではありふれた赤色。背丈は俺より頭一つ小さいぐらいか。俺が言うのも何だが、このタイミングで入隊するとは変人だな。
雰囲気的には真面目ちゃんだろうか。陰の雰囲気を漂わせている気もするが気のせいだろう。
「奇遇だね。俺達も高1だ。俺は鹿吹風丸、こいつは―」
「赤月白摩です。こいつと同級生だ。」
「よろしくお願いします。それにしても、白髪とはめずらしいですね。まるでおじいちゃんみたい。」
結構愉快な人のようだ。
「まだ、そんな年じゃねえよ。」
「 あっ、すいません。でもなんか、一瞬そんな雰囲気があったんですよね。」
「成人してねえのに老人にクラスチェンジとなっては流石の俺も笑えねえし、―いやこれはこれで面白いかも。」
「―面白い人ですね。」
風丸。若干、富岳桜さんが引いてるぞ。
「まあ、よろしく。」
「よろしくお願いします。赤月君。」
まあ、この時期に入隊してくる人だから、とんでもない人だったらどうしようとか思ったけど、普通そうで少し安心だな。
「ところであなたは武道を嗜んでいたりしますか?」
「ん?」
何だろう。少し嫌な予感がする。
「ここにくれば、めいいっぱい体を動かせると聞いたのですが、準備運動替わりに軽く組手でもしませんか?」
う~ん。前言撤回。この人バトルジャンキーだった。
「そう言うことなら、俺とやろうか。剣術を少し嗜んでてな。」
風丸はそう言うと竹刀を構える。対する富岳桜さんも腰を落とした姿勢でやる気満々だ。
「赤崎さん。止めた方がいいですかね?」
「う~ん。そうだね。でも、ちょっとぐらいは良いんじゃないかい?」
赤崎さんは少し面白そうに笑いながら、二人を見守っている。
仕方がない。俺は巻き込まれないように審判でもしようか。
「ルールは一撃決着。俺視点で明らかな一撃が入ったと思ったら判定するので不公平だがいいだろうか?」
「問題無し」
「いいですよ。」
二人は改めて構える。
「では、用意。――始め。」
開始と同時にパシーン!と竹刀な鳴る。
合図と共に電光石火の掌底が風丸目掛けて放たれ、それを風丸は竹刀で受け止めたのだ。
「真剣なら切れてたぜ。」
「刃物ではありませんでしたので。」
「そりゃそうだな。」
風丸はすぐさま富岳桜さんはから距離を取り、竹刀を構え直す。
少しずつ、二人の距離は縮まり、次の一手はなかなか繰り出されない。
「はっ!」
静寂は掛け声で破られ、ここから富岳桜さんの猛攻が始まる。両手両足を使って繰り出される攻撃の数、もし俺が相手をしていたら、一秒もかからずにボコボコにされてるね。
そして、実際にその猛攻を相手にしている風丸はそれを竹刀で捌いている。よくもまあ、そんな長い棒を巧みに操れるものだ。
「ふん!」
軽くフェイントを入れての横薙ぎ、富岳桜さんは一瞬反応が遅れたが、何とかぎりぎりでそれを躱した。しかし、彼女は体勢が崩れたようで隙だらけとなってしまう。
風丸はそれを見逃さず、突きを繰り出す。
「王手です。」
「マジかよ。」
しかし、富岳桜さんは首に迫った物打ち(竹刀の叩く部分)を掴み、ぎりぎりで竹刀を止める。それどころか、竹刀をそのまま引っ張り、風丸の体勢を崩す。
「貰いました。」
富岳桜さんの掌底が風丸の額に直撃し、風丸は後ろにちょっと吹っ飛んだ。
「勝者、富岳桜さん!」
「西夢と呼んでください。白摩。」
「勝者、西夢さん!」
「西夢、と呼んでください。」
なんか凄い圧を感じた。
「勝者、西夢!」
三度目の正直。富岳桜さんの方を見てみると、満足気な顔をしていた。慣れないが、これから頑張って呼び捨てで話すことを意識したほうがよさそうだ。
「はいはい。取り敢えず、訓練始めるぞ。」
集合時間から三十分超過して、やっとこさ訓練が始まった。
◇ ◇ ◇
「つぅ――。ダメだもう体が動かん。」
ああ、全身が痛い。一日目の訓練が終わり、俺と風丸は山の中のキャンプに戻った。
「白摩。普段から運動してないからだぞ。」
「そんなこと言いながらお前もボロボロじゃねえか。」
俺達はテント内のシーツに寝転んでぐったりする。全身には打撲痕がいっぱいでもう動きたくない。
今日やったことを整理していこう。
1.銃撃訓練
2.体術訓練
3.筋トレ、走り込み
大まかに分けてやったことはこの三つだった。
明日以降は午前中に銃撃訓練か体術訓練のどちらか。午後は筋トレと走り込みとなるらしい。赤崎さん優しそうな雰囲気だったが、訓練では鬼教官だった。まあ、仲間を失いたくないなら当たり前か。
銃撃訓練はさんざんであった。俺は銃の反動で体を強く打ち、風丸もうまく的に当てられなかった。富岳桜さんは比較的に俺達よりマシだったけ。
体術訓練では俺は、赤崎さん、風丸、富岳桜さんの三人に投げられ、転ばされ続けた。女子に全敗したのでいろいろ男として悲しい限りだ。まあ、風丸も数回、負けてるし良いか。
筋トレとかは、まあ、言わなくてもわかるだろう。地獄だった。
「白摩。水を汲んできてくんねえか? 火を起こしとくし。」
「あいよ~。」
いくら動きたくなくとも、仕方ないと割り切ってテントから出て近くの川まで水を汲みに行く。
「もしかして、白摩も家出ですか?」
おかしいな。川の向こうから、ちょっと前までよく聞いていた女子の声が聞こえた気がする。疲れすぎて幻聴が聞こえ始めたのか?
「頬を叩いても意味ないですよ。幻じゃありませんので。」
いつの間にか回り込まれていたようで、声は背後から聞こえてきた。
「さっきぶり、富岳ざ、西夢。」
「よろしい。」
これからは富岳桜さんのことは心の中でも西夢と呼称することにしよう。
「で、あなたも家出ですか?」
「いや、家が焼失したから、そこの野原でテント張って風丸とキャンプしてる。」
「家族とかは?」
「施設育ちなもんで俺達に親はいないさ。敢えて言うなら施設の人達だが、あの人達は親というか先生だからな。」
「あ、うん。ごめん。悪いこと聞いちゃった。」
「大戦孤児なんてありふれてるから気にする必要はないよ。で、お前は家出してるのか?」
「うん。大学に入るために勉強勉強ってうるさいんですよ。なので、もう高校を卒業すらせずに就職することにしました。」
この人、行動力凄いな。今頃親御さん、頭抱えてるだろうな。俺が親なら発狂してるだろう。いや、俺達が言えた話でもないか。
「捜索願とか出されたりしないの?」
「それってどこに出されると思う?」
「そりゃ、ウォルフ警備隊に――っ!?」
うわぁ。この人怖っ!
「そんな立派な仕事に入っている子供を親が無理矢理やめさせるなんてできないよね。しかも、その仕事場は人材不足で人がほしい。」
「お、おう。そうだな。」
「そういえば、テント張ってるんだってね。私、ブルーシートと寝袋ぐらいしか持ってないから、泊めてくれない?」
男二人と女一人は大丈夫なのか? まあ、女側がオッケーしてるなら、倫理的には問題ないだろう。じゃあ、風丸はどうだろうか。まあ、聞いてみないとわからないか。
「わかった。俺個人としては問題ないが、風丸にも聞いてみる。取り敢えず案内するよ。」
「ありがとう。」
「で、お前は西夢を連れて来たと。」
「そうそう。」
俺は水を汲み、西夢を連れてテントに戻って来て、風丸に経緯を説明した。
「まあ、いいんじゃないか? 行ったことないけど修学旅行みたいな感じだろ? 多すぎるのは問題だが人は多いほうが楽しいって言うしな。」
「やったー。ありがとう。こういうの夢だったんだ〜!」
西夢は幼子のように野原を駆け回る。訓練のあとだというのに元気なことだ。
「取り敢えず、飯にしよう。」
俺がそう言ってカップ麺を取り出すと、西夢は少し嫌そうな顔をした。嫌いだったのだろうか。
「もしかして、せっかくキャンプしてるのにこんなの食べてるんですか?」
「悪いのか?」
「カップ麺は美味しいぞ?」
「そういう事じゃなくて、キャンプと言えばカレーでしょう! 材料もあるし作りましょ!」
何であんだよ。
「ジャガイモ、玉ねぎ、豚肉、ルー、ニンジン、その他諸々、米もある。良いのができそうだな。」
おお、風丸ノリノリじゃん。まあ、うまい物が食べられるならそらそうか。
「じゃあ、俺は米炊いとくし、風丸と西夢はカレーを作っといてくれ。」
「わかった。」
「いいよ。」
「ジャガイモのデカさはこれが理想だろ!」
「これだからにわかは。このぐらいの大きさが一番おいしいのよ。」
「その肉デカすぎないか?」
「細かいわね。じゃあ、このくらい?」
「それは小さすぎだろ。」
うん。カレー作りに参戦しなくて本当に良かった。
「カレーは辛口とか言わねえよな。」
「もちろん甘口一択です。」
そこは意見一致するのね。二人はお互いがカレー甘口派であるとわかると、ハイタッチをしていた。
「上手にできました!」
「うまっ!」
「作ってみるもんだな。」
カレーはとても美味しかった。
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