第5話 ノー勉面接は止めましょう。


 コンコンコンと三度ノックをする。


「どうぞ、お入りください。」


 白い扉の向こうから、若い女性の声がした。


「はい。失礼します。」


 扉を開けて、椅子の横に立ち、一礼。正面にはウォルフの制服を着た女性面接官がいた。


「どうぞ、お座り下さい。」

「はい。」


 ここまでがテンプレ。


「では、ウォルフ警備隊に志望した理由を教えてください。」


 さて、ここからが本番だ。まず、志望理由か。思った通りのことをいえば落とされる気がする。なので少し取り繕っておこう。


「はい。少し前にウォルフ警備隊の人に助けていだだき、その姿に憧れたことがきっかけです。」

「なぜこの時期に? 高校も入学したてではないのですか?」


 やっぱ、聞かれるよな。


「俺あっ、私は、昨日家を火事で失いまして、ここが人生の節目だと直感したからです。」


 やっべ、一人称ミスった。っていうか面接って対策なしにやるものじゃないよね。


「なるほど、しかしそれは高校を卒業してからでも良かったのではないのでしょうか。」


 俺もそう思う。


「まあ、お金もなかったので働きたいという気持ちをもとから持っていましたし、何より勧誘して貰いましたので。」

「なるほど、確かにあなたには副隊長からの勧誘が出ていますね。では、次の質問です。あなたはウォルフの隊員です。目の前には絶対に敵わない怪物、背後には傷ついて動けない一般市民。怪物は目につく人間を殺そうとします。あなたは次どのような行動にでますか。」


 おっと。これは精神性を見極める質問だな。

 目の前に怪物、後ろには市民。

 突貫するのはどうだろうか。俺が殺されて終わりだな、

 傷ついた人を背負って逃げるのは、追い付かれて死ぬ。

 足の速さは。怪我とはどのくらいのものだろうか。

 う~ん。情報が足りんな。


「市民の数に指定はありますか?」

「そうですね。ここは一人としておきましょう。」


 一人ぐらいなら背負えるだろうか。


「怪物の知能はどのくらいでしょうか?」

「わかりませんが、獣程度だと推測できます。」


 機械みたいな奴相手ではないということか。


「どのような環境ですか?」

「そうですね。火の広がった商店街としておきましょう。」


 人狼のときの状況か。


「絶対に敵わないというのは具体的にどのような力の差があるのでしょうか?」

「武器が通らず、傷一つ与えられず秒殺されるということにしておきましょう。」


 つまり、前と同じ策では意味がないということか。


「私の状態は?」

「万全の状態です。」


 俺自身が動けないような怪我を負っているということはないのか。


「増援は来るのか?」

「わかりません。」


 さて、少しずつ情報が揃ってきた。

 環境としては人狼の時に似ているな。

 まず、人狼に敵わない時点であの時のように正面から戦うのは愚策となる。

 では、逃げるか。

 いや、増援が来る可能性を望んで、取り敢えず、時間稼ぎに徹するのが得策だろう。ではどうやって? まあ、安直に考えれば結局逃げ回ることになるだろう。だが、それで時間が稼げるのだろうか。人の足は遅い。猫にも負ける。

 何より、怪我人をどうする。

 やべぇ。マジで答えが分かんない。というか、俺が逃げた場合、怪物は俺と怪我人、どちらをターゲットにするのだろうか。


「怪物はこちらの力量を把握していますか?」

「わかりません。」

「俺は銃を持っていますか。」

「はい。持っています。」

 

 なら、賭けるしかないな。


「頭上に向かって銃を放ち、威嚇します。」

「怪物に向けて撃たないんですか?」

「こちらの攻撃が怪物に通じないことを怪物に悟られたらいけません。通じないのならいくら無駄撃ちしても問題ないと考えました。」

「なるほど。」


 よし! 好感触!


「さらに同僚に対して自身の位置を知らせることができるため、増援が来る確率が上がると考えました。」

「なるほど。では次の質問です。」


 コメントなしかよ!! なんかサラサラとなんかの紙にメモされてるのめっちゃ怖いんですけど!!!



◇ ◇ ◇



「あー、疲れた。」

「お疲れさん。」

「お前は余裕そうだな。風丸。」


 結局あのあと面接は三十分ぐらい続いた。実戦想定の質問ばかりだったので、どういう精神性をしているのかを確認するのが主目的だったのだろう。


「余裕だったよ。優先順位はあらかじめ決めているからね。」


 なるほど。確かにそれが決まっているのなら、即答できる問題も多かった。トロッコ問題じみたものは大量にあったし。


「こっちはへとへとだよ。」

「お疲れさまっす。まさか、昨日の今日で来るとは思ってなかったっす。」


 横を見るとそこには鵜張さんが立っていた。任務後なのか制服は結構汚れており、若干、目には隅があった。


「こんにちは、鵜張さん。昨日寝てないんですか?」

「こんにちわっす。赤月君。そうなんすよ。昨日君たちと別れた後、連続で要請がかかってね。この時間までずっと走り回ってた感じっす。今日は今から風呂入って寝る予定っす。」


 鵜張さんはとても眠そうにしながらそう話した。


「面接お疲れ様。今日二人入隊希望者が来たって聞いたからまさかとは思ったけど。」


 振り返るとそこにはボロボロな状態の赤崎さんがいた。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。慣れてるから。というかこれは鵜張に押されて転んだ結果だからね。」


 鵜張さんの方を向くと彼女は明後日の方向を向いて口笛を吹いていた。


「そう言えば昨日はどこで寝たんだい? 鹿吹君の家に泊めてもらったのかい?」

「それが残念なことに俺の家も使えなくてな。」

「それは不運だね。」


 だよな。間が悪いよな。


「じゃあ、どこで夜を明かしたんっすか? 町の中で野宿している者がいたという連絡はなかったと思いますけど。」

「山でキャンプでもしてきたのかい?」

「おお、正解。」

「夏休みってことで、白摩と一緒に山に行ってきたんだ。星がきれいだったぜ。」


 風丸は良い笑顔でグッドサインをした。

 

「おっ、おう。君達夏休み満喫してるんだね。」


 赤崎さんはそれを見て若干引いていた。


「それはそうと、配属はどうなったんすか?」


 配属? まだ合否判定も出てないのだが?


「その顔、合否を気にしてるんすか? 気にしなくても受かりますよ。ボーダーフリーです。」

「鵜張。それなんかFランぽくて嫌なんだけど。」

「Fランなんて死語まだ使ってるんすか?」


 Fラン? 何だそれ聞いたことないな。


「すんません。Fランって何ですか?」

「ああ、すまんな赤月君。Fランって言葉は戦前の言葉なんだ。大学があるだろ。当時、大学がいっぱいあってね、名前を書けば受かるなんて言われる大学もあったんだよ。そういう大学含めレベルが低いっていう意味でFランって呼ばれてたんだ。」

「戦前の言葉で更にネット用語だったらしいっすから、知らなくて当然っす。」

「俺は知ってたけどな。」


 何でお前は知ってんだよ。


「龍太郎から聞いた。」


 じゃあ、なんであいつは知ってんだよ。あと、マジでその読心術どこで習えるんだ。


「転生して出直してきてくれ。」


 おうおう。死ねと申すか。


「百年後に死んで十年前に転生して来てくれ。」


 だから何で俺は120歳ぐらいまで生きる前提なんだよ。


「余裕だろ。」

 

 お前は俺をなんだと思ってんだよ。


「阿呆、馬鹿または間抜け。」


 流れるように出てきたな。


「ああ、すまん。阿保かつ馬鹿かつ間抜けだったな。」


 おお、酷くなった。昨日もこんなやり取りした気がする。


「君達って面白いっすね。」


 ああ。鵜張さんがこちらを温かい目で見ている。何か悲しい気分になってきた。


「赤月白摩様、鹿吹風丸様はいらっしゃいますか。」


 どうやら面接の結果が出たようだ。


「今日はこの後、体力検査をして貰います。内定は出ているので安心してください。」


 おお、さらっと内定出た。流石万年人手不足。ボーダーフリーは伊達ではない。


「じゃあ、明日からよろしくね。」

「地獄へようこそっす。」


 う~ん。改めて明日から不安になってきた。







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