第7話 初任務だ!!!
ウォルフに就職して早一か月。銃火器の扱いや身のこなし、時間稼ぎなどの訓練をずっとしてきたわけだが、今日は任務が入ったとの連絡が赤崎さんよりあった。
「白摩、ここで合ってる?」
「ああ西夢。昨日の夜、ここら辺で見かけたらしい。」
「犬の行動範囲ってどんくらいなんだ?」
任務内容は野犬の保護である。最近、山から下りてきたのか野犬が町で多く見られ、実際に噛まれたという被害も出ているようだ。狂犬病などの危険もあるとのことなので、早急な対処が必要になり、ウォルフ警備隊にその仕事が回ってきたということだ。
「あ、いたました。」
早速一匹目を西夢が発見した。
「今更だが、どうやって捕まえるのが効果的だと思う。」
「射殺ですかね。」
銃を構えながら言うな。マジに見える。いや、こいつの場合マジで選択肢にあるんだろうな。
「それって最終手段って言われてなかった?」
「麻酔銃でいいだろ。」
「あれ、効くまでに何分もかかるって聞いてるぞ。」
「だから、至近距離でぶち込んだあと、大人しくなるまで網で捕縛して檻に入れれば良いじゃないか。」
「捕縛役は?」
「お前と西夢。」
「ですよね。じゃあ、風丸射撃任せた。」
「オッケー、任された。」
「西夢は俺とネットを持って待機。」
「了解。」
指示を出して、俺は物陰に隠れる。
3、2、1、GO!
風丸の麻酔銃が発砲され、野犬に命中する。
「ワンワンワン!!」
唐突な痛みに暴れる野犬にすかさずネットをかぶせる。
「くっ!?」
わかってはいたが、力が強い。気を抜けば、逃げられそうだ。二人がかりだから止められているが一人なら危なかったかもしれない。
「西夢。大丈夫そうか?」
「白摩の方が体力無いでしょ。自分の心配したほうがいいよ。」
「そりゃそうだ。」
格闘すること五分、麻酔が回ったのかやっと野犬は大人しくなり、俺達は野犬を檻の中に収監した。
「今更だが、麻酔を混ぜた餌とかでやった方が良いんじゃねえか。」
「確かにそうだな。」
風丸の意見は尤もだ。今日戻ったら赤崎さんに伝えておこう。
「まあ、でも今日は我慢してこの手法でいこう。」
「そうですね。あ、二匹目いました。」
マジかよ。マジで多いな。
「さっきと同じ感じで。」
「わかったわ。」
「あいよ。」
で、その肝心の犬は何処にいるのでしょうか?
「あれ、犬か?」
何か不穏なこと言ってるが、風丸は見つけたようだ。指差しているので、そちらを向いてみると明らかに犬ではない巨体の動物がいた。
「猪ですね。」
「猪か。」
「猪だな。」
猪がゴミ箱を漁っていた。射殺しようかな。
「早まるな白摩。普通の発砲したら後々の処理が面倒だ。」
銃に手を付けた俺を風丸は冷静に止める。確かに銃を使うならその後に始末書を書く必要が出てくる。
「でも、猪だ。犬と比べて脅威度は高いんじゃないか?」
「いや、どうだろか。実際どうなんだろうな。犬は昔から狩りのパートナーだったらしいしな。」
「麻酔効くと思う?」
俺の疑問に風丸は少し考え込んだ。
「効きにくい気がするな。」
「じゃあ、三人で檻の中へと誘導しますか?」
西夢の案で行くか。
「そうだな。あと一応、拳銃は持っておこう。危険になったら即発射で。」
こっちが死んだら本末転倒だからな。
「作戦は?」
「えーっと…」
3、2、1、GO!
準備ができたので作戦開始の合図を、風丸に送る。
「おっっらあぁぁ!!」
風丸は思いっ切り警棒を猪に投げつけ、猪を刺激する。想定通り、猪は風丸をロックオンして、一直線に風丸を追いかける。
「速い速い速い!!!」
猪は風丸が想定していたよりも速かったようで、風丸は絶叫しながら思いっ切り猪に背を向けてこちらに走り寄ってくる。
「風丸~! 頑張れ~。」
俺の隣にいる西夢はそんな風丸の様子を見て、満面の笑みであった。
「クソがー!! お前に押し付ければ良かった!!!」
風丸も西夢に文句を言えているので、余裕はありそうだ。
風丸はそのまま、俺達がいる両側面が塀の狭い一本道に入ってくる。
「風丸、手を!」
「おうさ!」
俺と西夢はその塀の上から風丸に手を差し伸べ、力いっぱい引き上げた。
"ガラガラガッシャーン"
対して猪は、急に止まることができず、道の先の檻に突っ込んでいった。
「ナイス囮でした!」
「なんか嬉しくねえ褒め方だな、西夢。」
無事に猪を捕獲できてよかったよかった。しかしな。
「風丸、西夢。この檻、どうやって運び出そうか。」
俺達の目線の先には、この一本道の幅とあまり大差ない大きさのガシャンガシャンと荒ぶる檻があった。
◇ ◇ ◇
「犬は何匹捕まえた?」
「八匹くらいじゃない?」
「十じゃねえか?」
現在3時頃。俺達は捕獲した野犬が入っている檻がある公園におり、支給された弁当で遅めの昼ご飯を食べていた。結局あのあと、気合と根性で猪の入った檻を運び出した俺達は大量発生している野犬の捕獲を勤しんだ。
ワンワンと騒々しいが、まあ、飯が不味くなるわけではないので良いだろう。
「ワンワンワン!」
「キャンキャン!」
「バウバウバウ!」
「ワオォォーーーン!!」
嘘です。味はまだしも頭が痛くなってきた。隣を見てみると西夢は明らかにしんどそうな顔をしている。やはり、至近距離で鳴き声を聞き続けるのは疲れてくるようだ。
「白摩。黙らせて。お願い。」
「無理だ。諦めろ。っていうか、風丸はどうなんだ?」
風丸を見てみると特にストレスは無さそうだった。
「風丸は大丈夫なのか?」
「ん? 何がだ?」
「いや、犬の鳴き声で頭が痛くなったりしてないか?」
「ああ、このぐらいなら問題ない。そんなことより、流石に野犬多すぎないか。なんならさっきの猪もだし、鹿もいるぞ。」
「フューン!」
それは俺も思った。それこそ犬の数だけなら十匹だが、狸や鹿、猪を勘定に入れると総数は二十を超える。この区域だけでだ。流石に異常だと思ったのでさっき、赤崎さんには一本メールを入れておいた。
それにしても、餌が無くて降りてきたのだろうか。数が増えすぎた結果、餌を求めて降りてきたのなら納得ではある。
しかし、これはこんな突発的に起こることなのだろうか。赤崎さんは徐々に野犬が増えたとは言っておらず、急に現れたと言っていた。
「山にヌシでも現れたか?」
「山で強いと言えば熊だけど。」
「熊だけでここまで山から下りてくるか?」
「わかんねえ。俺達は専門家じゃないからな。」
そうだな。赤崎さんの伝手で誰か専門家がいないか聞いてみようか。というか、いるなら既に赤崎さんが確認してるだろうか。
「それは赤崎さんを過大評価しすぎじゃねえか? 誰でも抜けてるところはあるもんだぜ。」
それもそうか。こちらから連絡を入れておこう。それはそうと、マジでその読心術どこで習った?
「転生して出直してこい。」
俺に死ねと?
「百年後に死んで十年前に転生して来てくれ。」
いつの間にか百二十歳まで生きることになってるんだが?
「できるだろ。まあ、しょうもない会話は終わりにして、取り敢えず残り二時間。やっちゃいますか。」
「そうだな。」
「ご馳走さま。」
西夢も食べ終わったことだし、仕事を再開するとしようか。
「ちわーっす。調子どうすか?」
「あっ、鵜張さん。お疲れ様です。」
「お疲れ様っす。小隊長に言われて様子見に来ました。うわぁ。大変そうっすね。」
赤崎さんは俺達を心配したのか鵜張さんを派遣してくれたようだ。
「取り敢えず、この班のリーダーは白摩君っすよね。これより、小隊長補佐として任務の変更するっす。赤月班は明日から私と一緒に山に入って今回の騒動の原因を探します。」
「鵜張さんが引率するってことは」
訓練を受けてる期間に知ったのだが、赤崎さんまわりの人達は結構危険な任務を受け持つことが多いらしい。なので、その赤崎さんの右腕である鵜張さんが一緒にくるということは、
「はいっす。場合によっては結構危険な任務になるっす。何もなかったで終わるのが一番ですが、上から私が直々に指名されたということは、まあ察してください。」
「ワンチャン死ぬかもな。」
「冗談でもそういうことは言わないほうが良いですよ。」
風丸は軽口で言っているが、その覚悟で臨んだ方が良さそうだ。
「まあ、檻の方は私が何とかしますんで、今日はぱっぱと帰ってください。明日は結構ハードになると思うんでゆっくり休んでくださいっす。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
俺達は鵜張さんに大量の檻の処理という頭の痛くなるような問題を押し付けて山に帰ることにした。
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