第10話 デート(2)
電車で学校の最寄り駅まで戻り、鬱蒼とした雑木林を抜けたところに彼女の家はあった。
「お邪魔します」
「ただいま」
お互い声をかけたが返事がない。家族は外出しているのだろうか。
「この時間は病院か・・・」
「病院?」
「うん。私もうすぐ入院だからその手続きで私のパパとママは時々病院に行ってるの」
「じゃあ帰ったほうがいいか。もうすぐ親御さん帰ってくるでしょ」
「ううん!気にしないで。いつも帰ってくるの夜遅くだし」
「そっか」
「うん。だからまずはお部屋に行こう」
「そうだね」
女子の部屋には初めて入る。部屋は勉強机に本棚、そしてベット。これだけ見れば何の変哲もない部屋に見える。だが彼女の部屋にはある特徴があった。
「さてと、今日買った本入れよー」
壁一面に本が詰まっているのだ。いくらなんでも年頃の女子の部屋とは到底思えないだろう。でも僕は彼女らしいと思った。その本達は余命を精いっぱい生きて、思い残すことはないように過ごそうという彼女の意思に見えた。
「あったこれだ」遥奈は僕に紙袋を差し出す。相当な量が入っているのだろうということが重さから感じられる。
「返すのはいつでもいいから!綾瀬君のペースでいいよ」
「分かった。さっきから思ってたんだけど君、僕の呼び方をちょくちょく変えてないか?」
「・・・ごめん嫌だった?」
「嫌じゃない。だけど呼び方が変わると自分自身が誰なのか分からなくなる。だからあまり変えないでくれる?」
「分かった。湊君」
「何?」
「呼んでみただけ」
「そう」
少し冷たすぎただろうか。彼女は下を向きただ黙っていた。
「いつも1人なの?」
「うん。まあ......」
驚いた。こんな広い家に1人でいるなんて。孤独感と寂しさでいつも心が支配されているだろう。そんな境遇は彼女には似合わなかった。
「でも大丈夫。仕方ないんだ。私病気だし...もう、1人には慣れたから」
「そんなの慣れないで」
「え?」
「僕がそばにいるから…そんなのには慣れないで欲しい」
「湊君それって.......」
「いやなんでもない!」
僕は慌てて今の言葉を否定する。僕は何を言ってるんだ。今日初めて出かけただけの女子に。
「湊君、熱でもあるんじゃない?もう夕ご飯の時間だし帰った方がいいよ」
「ああ、そうだね。そうするよ」
僕はなんとも言えないまま彼女の家を後にする。明日からどのように彼女に接したらいいのだろうか。
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