第8話 初めての(1)

その日の夜、僕は彼女を見送ってから僕は彼女のことを考えていた。思えば外出を共にするのは付き合いの長い稜か家族くらい。異性と一日を過ごすことなんてなかった。容姿は整っており昔から異性には困らなかったが、いつも途中で逃げられる。一日も持たないのだ。原因は自分の性格にある。女は扱いづらい上に くだらないことですぐに感情を動かす。僕は気づかないうちに顔をしかめていたらしく怒って帰ってしまったのだ。今まで異性との外出で一日持ったことがない。彼女は怒らないだろうか。さっきは笑えていたのに今度は不安でいっぱいになってしまう。こんなに感情が動かされるのは彼女といるときだけなのだ。

「これはいったいどういう感情なんだろう」

僕は感情を吐き出し頭を整理する。今日の僕は変だ。いつもの僕なら絶対しないことを彼女といるときはしてしまう。この悩みから抜け出すために僕は誰かに相談したいと思った。

「やっぱりこれは稜に相談するしかないな」人当たりのいい彼のことだからこういうときの対処法くらいは知っているだろう。

僕は携帯を手に取りメッセージアプリの通話機能で電話をかける。メッセージや普通の通話でも良かったのだが、見過ごされてしまう可能性と料金がかかる可能性を考えるとそれしか方法がなかった。もう寝ているかと思っていたが、当の本人はすぐに出た。

「湊どうした?お前が電話なんて珍しい。明日は雪でも降るのか?」

「そういう冗談はよしてくれ。こっちは緊急事態なんだ」

「白波瀬さんのこと?」

図星だった。僕は彼女のことは誰にも言っていない。もちろん稜にもだ。それなのに何故、彼女のことがわかるのだろう?

「お前が俺に電話してくるときなんて、何かで行き詰っていた時ぐらいしか無かったからな。それにもう俺らの付き合い長いし。で、緊急事態って何だ?」

僕は今の状況をありのままに話した。

「なるほどー、それはねー恋だよ湊君」

「はあ!?」

「大声出すな!耳と頭に響く」

「ごめん」

「いや俺も悪いよ」

「僕はこれからどうしたらいい?」

「告白いったぁーく!」

今度はこっちが抗議する番だ。

「うるさい」

「ごめんごめん。だけど告白しないと誰かに白波瀬さん取られちまうぞ―?だから取られる前に少しずつ、お前のペースでアプローチしてけばいいんだ」

「そうだな…ありがとう」

「ちなみに白波瀬さんとはどこまでいったんだ?」

「今日偶然コンビニで会って、僕の家に招いて来週末一緒に出掛ける約束をするところまでいった」

「いや結構進んでんな!お前そんなキャラだっけ?」

「いやわからない」

「てっきりお前はもっと親密になってから一緒に出掛けるもんかと思ったから、ビックリしたわ」

「親密になる前に振られるのが僕のお決まりコースだ」

僕は苦笑する。自虐ではなく本当のことだ。

「そうだったな。お前は不器用で不愛想で、女の子には一日で振られる。」

「でも今回は絶対失敗したくない。一体僕はどうすればいい?」

「笑顔を絶やさず、相手優先にするってことかな」

「なるほど」

一緒に時間を過ごすということは、相手と時間と思い出を共有するということだ。相手に良い時間を過ごしてもらうためには相手に気を遣わなくてはいけない。僕は今までこれができていなかったのだ。

「あとは変に気負わず自然体でいることを忘れるな。流れに乗ってけばいいんだから」

「流れに乗るか…ありがとう、頑張ってみるよ」

「おう、頑張れ」

電話を切る。稜の言葉で少しだけ前に進めるような気がした。


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