第3話 少女の依頼


「もしかして、綾瀬君?君にお願いがあるの」

目の前の少女は僕にそう言った。どうして僕に話しかけたのか。高々何週間か同じ空間にいるだけなのに。

僕は頷く。一般的な男子高校生なら狼狽えるか下心を丸出しにするかの二択だろう。だが僕は人間に興味は無く、何も反応を返すことができなかった。

「お願いって何ですか?」

「報道部でクラスの特集の記事を書くことになったんだけど、それが男子のを書くことになって…」

「はあ」

話を纏めると、報道部で男子の記事を書くことになってその記事を書くために僕を取材したいという話だ。それにしても一体何故僕なのか?彼女なら僕よりもいい相手がいるはずだ。こんな僕をインタビューして記事をまとめるなんて、よっぽどの物好きなんだな。

僕はため息をつく。

「第一なんで僕なんですか?貴女なら男子にモテますし、もっといい相手いますよね?」

僕はそう彼女に問いかける。

「あ、あの…別に綾瀬君に嫌な思いをさせるつもりはないんだけど、ほかの男子っていかにも、こう…子供です!みたいな感じの答えで、私の書きたい記事に全然ならないの」

なるほど。単に自分のイメージ通りの記事を書くために僕に協力してほしいのか。

「そういうことなら仕方ありませんね。僕は貴女に協力しましょう。

「ほんとに!?ありがとう!」

彼女はそう言って微笑んだ。インタビューは苦手だが、誰かの役に立ってお礼を言われることになれば悪い気はしない。だが今思い返すと、これが僕たちの始まりだったのかもしれない。

彼女と取材の予定を組み、今日の放課後に彼女の部室で取材をするという約束を取り決め、僕はその場を後にした。朝からクラスメイトとはいえ、異性と学校に来るところを誰かに見られたら校内の噂の種になるだろう。それだけは避けたかった。

学校に着いて教室に入る。僕はいつものように読みかけの小説と最初の授業に必要なものをカバンから取り出し、席に座る。

周りを見てみれば、生産性に欠けている会話に花を咲かせ場を繋いでいるものが大多数を占めている。

「おはよう」友人から声をかけられた。彼の名前は青城稜。僕が中学時代から交流を深めている唯一の人間だ。彼は誰にでも愛想を振り撒く。最初はいつも笑顔で点数でも稼いでいるのかと思ったのだが、年月を共に過ごしていくうちにただ優しいだけなのだと気づき、高校でも交流を深めている。

「朝から白波瀬さんと登校なんて羨ましー。湊君は前世でどんな徳を積んできたのかなー?」

「僕は徳なんて積んでいない。稜の方が徳を積んでる。」

「白波瀬さんから何頼まれたの?」

「校内のクラス記事の特集で、僕をインタビューしたいんだと」

「へえー、不愛想で成績トップの湊君が?」

「うるさい。成績は今の話には関係がないだろう」

僕は肩を落とし、ため息をつく。流石の稜も怒りを感じ取ったのかこれ以上の追随はやめてくれた。稜はデリカシーがないように思えるが、線引きが上手い。

だから僕は安心して彼と付き合うことができる。

チャイムが鳴って教師が教室に入る。少しの連絡で朝のホームルームが終わり授業に入る。

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