第107話 辺境伯の街の酒場
side 主人公
わたしは森の洞穴に置いてきた地図をすぐ確認できるようにしておき、転移で光点の近くに移動した。現在地を地図と照らし合わせて思った通りの場所に移動したことを確認する。
そこは酒場の裏手の路地だった。隠密で気配を消して酒場に入る。仕事終わりに一杯ひっかける人々でかなり賑わっていた。
満席に近くカウンターくらいしか席に空きがない。追跡用に持ってきたハンカチに魔力の痕跡を映し出す。酒場の端の方に立ち、邪魔にならないように気をつけながら観察すると、探している人物は誰かと待ち合わせるわけでもなく1人で飲んでいるようだった。
薄汚れた身なりの壮年の男性で人相もあまり良くない。注文しているのは安いお酒とつまみ。酒場の女給との会話から毎夜食事に来て、その後はダラダラと店が閉まるまでいるらしいと分かった。
しかし今日もそれだと困るのでどうするか考える。場所は分かっているから案内が必要だったわけではない。
必要ならその場所に行ってすぐにでも助け出せばいいのだが、どうせなら悪い奴らはとっ捕まえてしまいたい。それに少しでも事情を聞き出せたらいいなと思っていた。
しかしそうも言っていられなくなった。人気のない場所に連れて行かれた光点がその場でどんどん増え始めたのだ。何が起こっているのだろう。
ゆっくり様子を見ている時間はないかもしれない。心配になったわたしは多少目立っても構わないという気持ちになった。
わたしは男を魔法で拘束すると、テーブルに男の懐から財布を出して代金を置くとそのまま引きずって出口に向かう。
「えっ、えっお客さん?」
周りがギョッとして騒ぎはじめたが気にせずズンズン歩く。しかし何人かが我に返ったのか、周りを取り囲む。
「おい、待ちやがれ。」
「一体なんなんだ。」
「姿を現せ。」
「そいつをどこへ連れて行くつもりだ。」
5、6人の人相の良くない連中が吠える。
「知り合い?」と思わず聞いてしまった。
「…?子供?」
不審そうに辺りを見回すそいつらからは、真っ当な感じがぜんぜんしない。とにかくこの男には聞きたいこともあるので連れて行くつもりだ。とめにきたこの連中はどうしよう。仲間なら騒がれたくないので、一緒に捕まえて大人しくさせるしかないかなぁ。
「今忙しいんだけど。この人に用があるから連れて行く。邪魔しないでほしいけど、あなたたちも仲間なら一緒に連れて行く。どうする?」
この連中にも酒場の中にいる者たちにも、まだわたしの姿は視認出来ないのだ。隠密と隠蔽とカモフラージュを使って、認識しにくくしているのだが面倒になってきた。
それに、ここまで行動していたら姿を隠す意味はないかもしれない。
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