第104話 辺境伯の街の商会(魔道具部門)

side 主人公


 商業ギルド魔道具部門の副所長補佐に案内されたのは、2階の奥の一角だった。


 「作った魔道具は、この受付に持って来てくれたら査定して買取するよ。その時に商業ギルドのギルドカードを提示してくれるかな。魔道具は、魔道具職人が作る物を個別に持ち込む場合もあれば、工房単位で持ち込まれることもある。だから子供が出入りしても大丈夫だよ。君が作ったような魔力を付与した物も扱っているから安心してね。今回のように装身具でも大丈夫。むしろ目立たず身につけられて、価格も手頃だと懐に余裕があまりない冒険者たちでも手にすることができるから喜ばれるだろうね。」


 「はい、あの何個から買い取って貰えますか?」


 「ハッハッ、1個からでも買い取るから安心して。でも売り物になるだけの、最低限の機能と魔力量が込められてることが条件だよ。何回使えるか?確実に作動するか?使い捨てか?繰り返し使えるか?見た目の出来はどうか?着け心地はどうか?ちゃんとそういったことに配慮した品物をこれからも作ってほしい。今回の品だと、例えば同じ見た目のブローチと魔物よけの効果(小)のブローチなら価格は1.5倍だね。効果が(中)なら1.8倍、効果が(大)で2倍といったところだろうね。この効果の基準は実績が元になる。たくさん作ってくれて、たくさんの人からこれはとても効き目があったからまた買おう。そういう評価を積み重ねていけば、(小)でも1.8倍になったり、(大)なら2.5倍になることもある。どの商品が求められているか、それによって値段が決まってくる。簡単に言うとこんな感じかな。君が一生懸命作った物をいっぱい持って来て。腕の良い魔術師は大歓迎だよ。」


 「今日はお時間をいただいてありがとうございました。冬場の採取とかできない時期に細工物はする事が多いので、またいくつか貯まったら持ってきたいと思います。その時はよろしくお願いします。」


 うーん、やっぱり何かを作って売るのはたいへんだね。今回は手慰み程度の品物だったけど、もし本気の全力で作った品物なんかを持ち込んでいたらどうなったか分からない。


 わたしのようになんのツテもないのにすごい品を持ち込んだりしたら怪しまれちゃうのでは?わたしが作ったと信じてもらえないかもしれないし、作るところを見せろなんてなったらとても困る。


 今回のように見習いの手仕事レベルならば、不自然ではなく定期的に持ち込めそうだがあまり実入りは良くなさそうだ。


 少し採取とかを試したら、当初考えていたようにダンジョンに潜ってみよう。どの程度稼げるかなぁ。


 それに巡回というか見回りもしないといけないし、考えてみるとわたしとても忙しい気がする。


 でも商業ギルドはいずれ関わりができそうだから、早めに登録して良かった。しかも不自然でなくDランクになれた。


 あの後こっそり時間をあけて1階の受付で3年分の登録料を先払いしておいた。この登録料が税金も含まれた正規の商業ギルドの会員の証でもあるようだ。もちろん滞納すれば会員資格は剥奪されるだろうが、Fランクよりは社会的信用度が違ってくるらしい。


 まあどの程度顔を出せるか分からないし、当面冒険者としての活動が中心になる。うっかり商業ギルドのことを忘れてしまうかもしれないので安全対策である。


 手に入れた素材を冒険者ギルド以外にも持ち込めるルートがあるというのは安心だ。わたしはとにかく人間の街に詳しくないのだから、無駄かもしれなくてもいろいろ試してみたい。

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