第23話 隣人

side 主人公


 実はまだ悩んでいる。どんな風に助けるか?作戦上?作戦というほど立派なものではないのだが、必要なので奇跡風な演出はある程度ほしいところだ。


 欠損修復は偉業のようだから、奇跡で間違いないらしいが自分ではあまりそんな感じがしない。


 しかし、だれかれかまわず助けるつもりはない。わたしなりの助けたくなる気持ちは大切にしたい。


 だが、公衆の面前でおまえは助ける、おまえは助けないとか、公衆の面前でやるのはどうもねぇ。広場でいきなりおまえは助けるに値しない!みたいに言っても周りの人たちにはわからないだろうし。


 というわけで、切符を渡そうかと思っている。珠というか?許可証というか?今までの行いに応じて?というか?


 つまりわたしが助ける基準を満たした者に宝珠を授け、基準を満たした者たちだけ回復する。


 どうどうと人前で回復されても問題のない者は広場でパフォーマンスに協力してもらおう。


 この街での回復が終わったら、順次王国内を回復してまわるので今後も家族のもとで変わらず暮らしたいなら巡回のタイミングで回復するのが無難だろう。


 とはいえ大陸全土をまわるのを待つなんてできないだろうなと思う。


 それに一刻を争う場合もあるかもしれない。たとえば医者代の代わりに家族が身売りしようとしていたり?とか。


 とにかく働き手が必要で食うにも困る状況とか?


 あるいは人前で回復されると困る場合。


 もう自分でタイミングを選べるようにするか?


 回復した後のことは、自己責任!一応保険?はつける。


 たとえばこっそり回復し姿を消せれば?逃げるのにも役に立つ?


 救いが必要な人が厄介な状況にいるのなら、広場まで来て奇跡的に回復!といった華々しいイベントに参加できるとは限らない。広場に来ないと回復の機会がもらえないのでは、来られない状態の人々が救われない。


 それではわたしの助けたい気持ちに沿っていない。


 だから、宝珠は切符。使う、使わないも本人が決められて、いつ回復するかタイミングも本人が選べる。そして、逃げるかとどまるかも本人が選べる。


 回復したとしても本人が窮地に陥ったままではただ苦痛の時間が長引くだけ。


 たとえば、回復されたのが奴隷で無理矢理戦わされていたとする。死を待つばかりになった時、身体が回復されたとする。また戦いの道具にされるだけ。


 これでは地獄が続くだけだし、戦争している国には、兵器を補充したような結果になってしまう。


 つまり身体が回復されて、かつ生き直せる機会とするにはまず安全な場所まで避難し、生活基盤の見通しが立つまでの猶予も必要。生きていると追われる場合もあるだろうし。


 回復がきっかけで本来の場所で活躍できるなら素晴らしいが、劣悪な環境にいたのならより完全に別人とならないと、引き戻されたら悲惨だ。


 だから使用の判断と同時に転移で島へ避難させる!となるのだが。


 意識のない人の救済はどんなふうにしようか?とか。


 意識のない人も一旦神隠しにあってもらおうかな。


 この身元を隠すことを考えて、変身の魔法を作ってみたというのもある。わたしが身バレしたくないところから思考を発展させてェー!などという偉そうなことは言わない。


 なんとなく、繋がっただけなのだから。


 しかし、本人が選択できるようにしただけでは足りないと思う。


 まず回復という機会!または手段?が与えられたことによる、リスクを正しく認識させること。


 本人の思考力が未成熟な場合や、教育が不足していて状況判断が甘い場合とか、後先考えない直情的な性格で判断能力が壊滅的とか?


 というわけで宝珠には初期説明機能、適切な判断を補助するための思考加速と思考補助を一時的に付与し高速で思考させる機能。


 その後、回復したあと身を隠すことを選択した場合島に転移するのだが、島での過ごし方や先着している者たちと連携してもらうことなどの基本的な心構えなどもレクチャーしてもらうつもり。


 こう考えるとこの宝珠、盛り込み過ぎかというほどてんこ盛りだなぁ!


 いったいどれだけの仕事を宝珠にさせる気か!と怒られそうだ。


 とはいえ、まさにはじめの選択が肝心なのだ。よくよく考えてそれでもうまくいかなかったら、それはもうしょうがない!とわたしも思えるが、何度も奇跡の機会を与える気はさすがにない。


 わたしはただ、たとえば貧しい下級冒険者が装備もろくになく、武器も使い慣れていなくてそんな中運悪く怪我がもとで手足を失ったり。


 子供のうちに口減らしされて、ひどい目にあったり。


 兵士や騎士となり、そんなに才能はなくても頑張ったのに報われず苦しいと日々を送っていたり。


 ちょっと経験が足りなかっただけ、貧しかっただけ、身分が低かっただけ。そう、もといた世界と同じ、弱肉強食で弱ければ生き残れない世界。


 分かっている。でもたった一度、準備さえさせて貰えず、浮かび上がる道も完全に塞がれた状態で弱者ときめつけられるのは早い気がする。


 本人が怠慢なら気にならない。本人が人を踏みつけるような人格なら助ける気になどならない。


 でもそんな人ばかりではなかった。貧しくてもお金を貯めようとしていたり、手足を失ってもなんとか働こうとしていたり。病弱でもなんとか学ぼうとしていたり。


 わたしはそんな人たちを助けたいのだ。わたしが与えるのは回復ではない!機会こそ、彼らにわたしがあげたいもの。


 たぶんわたしが機会をいただいたからなんだよね。だから甘やかすわけでも、優遇するわけでもないけれど、どうにもならない状況に風穴をあけてあげる。


side ある騎士団長???


 この日、あの奇跡が起こった日、辺境伯の城の広間で示された神の奇跡のおかげで喜びをその場にいる者たちは分かち合っていた。


 そのすぐ横で、窓から見える空の異変に最初に気づいたのは誰だっただろうか?


 Sランク冒険者たちが、揃って窓の外を見ていた。


 わたしの魔力は多くないが、それでも空が光っているのは分かった。高速で光が飛び散り、それでも光が空を走っている?あれは文字なのか?どこまでも巨大で空の続く限り光の文字が輝いている。


 そしてもうひとつの異変があまねく世界に出現した。


 『驚くなかれ、今日から彼らはそなたらの隣人。彼らの最後のひとりが天空に戻るその日まで、そなたらは彼らの良き隣人として振る舞うことを望む、決して敵意をむけるでない、彼らは善き隣人である』


 空が一際強くひかり、光の重さに驚いて空を見る。天空にデカデカと書かれた文字は、不思議と文字の読めない者にも理解できたという。


 隣人?


 皆が誰だろう?と思ったときにはもう隣にいた。街中で悲鳴があがったそうだが、光のコトバが突き刺さり理解させられたという。彼らが隣人だと。


 この日街にいきなり出現した隣人こと、スケルトンナイトたちは街どころか大陸中、いや、おそらく世界中に現れたと思われる。


 彼らはなんの意図の下現れたのか?


 隣人たちがほかの魔物、アンデッドのスケルトンとの違いは、色だった。金色の隣人たち。空から遣わされた使者。


 やがて隣人たちのことをこの大陸では、使者さまと呼ぶようになる。


side 主人公


 いゃ、みんな驚いたよね。まぁ、いきなりスケルトンが出てくればパニックになりそうだ。


 でも空いっぱいの光文字の効果で、思いの外すぐに隣人を受け入れてくれて良かったよ。


 なにしろ隣人たちは、わたしにとっても、回復されたあとの彼らにとっても、ひいてはこの世界にとっても必要な役割を担ってもらう予定なのだ。


 べつにそんなに意味深ではないよ?ちょっとしたサポートキャラのつもりなんだけれど、今後どうなるか、うまくみんなやり直せるかなぁ?


 とりあえずわたしは、回復巡行、浄化行脚を表向きには行うから忙しいなぁ。


 裏の活動もどんどんこなさないといけないし、ほんとうに忙しい!


 戦争も止めたいし、やることがなんだか多いよね!

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