第21話 変装
side ある帝国の若者???
島で2週間ほど過ごし身体はだいふ癒えた。魔力はほぼ回復したし、毎日筋トレを行い機能回復に努めた甲斐がある。
リーダーから呼ばれた。
リーダーと側近の人にお礼を言われた。島での暮らしは試行錯誤の連続で、知らない土地で皆もっと苦労すると予想していたそうだ。しかし南の地域出身のわたしのおかげで採取も順調で、暮らし向きの目処がたちそうだという。
リーダーから今日から島の皆とは別行動と指示された。これからリーダーと行動を共にするようだ。
リーダーは側近の人と冒険者の2人に定時連絡について再度話し合い、顔役への報告など細かいことを話した後わたしを連れて扉を抜けた。
そこは森の中だった。
たぶん大きな森だろう。木がどれも巨大だ。森の香りがとても濃い。呼吸するだけで身体中の空気が入れ替わるように感じる。
島の暖かい気候から、この時期らしい冷気に切り替わり身震いする。するとわたしを空気が包むのを感じた。寒さがやわらぎ耐えられるほどになった。
リーダーに促され移動する、正直どこをどう歩いているのかもうわからない。
1時間ほど移動を続けると少し開けた場所に出た。そこには人が暮らしている気配があった。ほかよりも歩きやすく、動きやすい。見通しも悪くない。前方に崖が見えてきて洞穴がありそうな場所だ。
ここなら雨露をしのぎ、静かに過ごせそうに思われる。そういえば、朝食を食べそこねたな。
崖にさらに近づくと洞穴が見えてきた。リーダーからパンを渡され歩き周って疲れただろうから、中で休むように言われる。洞穴に入るとそこはかなり奥が深く広そうだったが、勝手に奥へは行かず入り口付近の腰掛けになりそうな丸太に座る。
入り口を見ていると、リーダーがパンをちぎって外に投げている。羽ばたく音が小さく聞こえ、灰色がかった小鳥がパンくずを啄ばんでいる。かわいい。なんとなく見てしまう。まん丸な小鳥で飛べるのか疑問を持ちそうなフォルムだが羽ばたけるのだから飛べるのだろう。
見ているのに気づかれたのか小鳥がこっちを見る。ワッ!目つき悪ッ?かわいそうなほどギャップが!でも気になって見ているとなんだか愛嬌があるような?
ふとリーダーを見ると、リーダーも小鳥を笑顔で見ている。リーダーもかわいいな!
「かわいいでしょう。まぁ、わたしのことはパンくれる人としか思われてないと思うんだけど、毎日来てくれるから楽しみなの。」ニコッと笑う。
やれやれドキドキしてしまった。リーダーもパンを齧りながら向かいに腰を下ろす。
「姿を変える魔道具ができたので試してみてください。上手く化けられたら、これからしばらくは一緒に行動してもらうことになります。」
渡されたのは3つの魔石が嵌ったペンダント。リーダーの説明によると、ひとつ目の魔石は北部地域の人間に化ける魔法、ふたつ目は帝国民だが別人に化ける魔法、みっつ目は元に戻る魔法がそれぞれ付与されている。
まずはひとつ目と、ふたつ目の魔法のためにイメージをしっかり持つこと。イメージが安定しないと付与が不完全で発動しないようだ。一旦しっかりイメージを固定して定着させれば、入れ替わりや元に戻るのも一瞬で出来るらしい。
すごいな!意識がなくても外見が維持される。魔力は魔石で補充、不足してきたら魔力を注げば繰り返し使用できる。
試してみたくてたまらない。しかしイメージが大事と言われると、どんな外見にするべきか迷ってしまう。
結局、北部地域の姿は、肌や髪の色だけ変更し容貌は変えない。髪は茶色、瞳は青と無難な色を選ぶ。
問題は帝国民の場合で、髪はよくある赤茶色、瞳もくすんだ灰色とすぐ決まったが、目立たない容貌というのがかえって分からなくなってしまった。
どんな容貌なら普通なんだろう?周りにいたかな?普通のやつ?改めて考えると普通のやつがいないじゃないか!なんてことだ!
あんまりウンウン唸っているものだから、後からまた考えるように言われてしまった。
帝国の近くにも行くから、よく観察するように。だそうだ。まさか自分の国の人間のことさえよくわかっていなかったとは、ショックである。
洞穴の中は過ごしやすく落ち着く。まだ昼前だろう。これからどうするのか聞くと、早速変身して帝国の近くまで行くらしい。えっ?
服を渡された。北部地域らしい暖かそうな服、サイズはちょうどいい。下級冒険者によくいる服装だという。どこの街や村にもいて、旅をしていてもおかしく見えない。
早速着替える。衝立、いつの間に?
着替えがおわると剣を手渡された。正直やっとホッとした。腰がすうすうして物足りなかったのだ。剣が欲しいなんてさすがに言えなかったし。
さぁ行きましょう。って、手ぶらで?夕方には戻る?どこまで行くの?転移陣かな?ちがう?
side 主人公
ギャァ!っとうるさい若者をポイっとして、ガンガン飛ばす。森を抜けないと、町も村もない。
気配探査は常時発動しているが、ある程度の高度を保ち飛翔する。飛ぶことに免疫がない人間がどう反応するか勉強になったよ。
まぁ、自力で飛んでいないから不安も大きいだろう。完全にわたし次第だもんね。しかもこんな高さから落ちたら、もちろん助からない。
パニックになるのも当然かも?悪いことしちゃったかな?
でも空を飛ぶのは人類の夢?だったはず。何事も経験だ。
おぉ、森を抜けた。今日は少し遠くまで行く。アッ、魔獣の気配!視力強化で獲物を確認、ウインドカッターでサクッと倒す。血抜きの魔法で血抜きしてアイテムボックスへポイッ。
気配探査で近場の集落を探す。見つけた、小さな村だ。ちょうどいい、まずココだな。
村を上空から見て広場を発見、獲物をドーンと広場に置いてすぐ気配を隠す。魔獣をみてびっくりする村人たち。これなら大丈夫そうだ。よし、つぎ!
side ある帝国の若者???
なにしてる?なにしてる?なにがしたいんだ?
いつの間にか意識を取り戻した。意識が戻っても状況に変化はない。そう、わたしは飛んでいる!
普通なら感動するのかもしれない。いや、きっと感動したと思う。たぶん?
でも今はまったく感動しない。現実はこんなものなんだろう。
さっきからリーダーはなにをしているんだろう?
魔獣や魔物を見つけると狩って、集落を探しては獲物を配っている。だいぶ南下してきた、帝国に近い気がする。
えぇ〜、歩けば半年くらいかかるはずなのに、飛ぶとこんなに早いの?わたしの常識はどうしたらいいんだ。もうなにがなんだかわからない。コレってどういう状況?
帝国にさらに近づきながらも、獲物を狩っては配るを繰り返すリーダー。配るのは貧しそうな村や活気のない町。なんとなく、リーダーは施しをしているのだと思う。
不思議なのはなぜそんなことをするのか?
思いきってきいてみれば、当たり前のように答えられた。
この時期は、魔物や魔獣が増える。どのみちどの国でも冒険者や国の騎士団が討伐する。でも討伐に精一杯で、せっかくの獲物の肉とかが還元されにくい。冒険者も騎士団も、討伐の時期は疲弊する。
自分が討伐するのは勝手だし、対して手間でもないからやっている。その上でどうせ狩ったのだから無駄にしたくないし。というわけで討伐すると、ついでに食べ物の足りなそうなところに配っているという。
とにかくリーダーはものを見つけるのが異様にうまい。獲物になる魔物や魔獣もすぐに見つけるし、隠れ里かな?みたいな誰も気づかなそうな村とかも見つけるし。
今日だけで、10ヶ所以上配っている。帝国の端はこんなにも貧しいのか。胸が苦しい。こんな苦しい生活を送っている民を、さらに戦争に直面させるなんて酷いことはできない。
なんとしても戦争は回避しなくては!
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