第19話 帝国の若者

side 主人公


 いよいよだ。


 ちゃんとできるかな?できなかったらたくさんの人が迷惑するね?でもやらないと、たくさんの人を見殺しにすることになる。それはイヤ!「イヤ!」だから頑張る!


 さて、まずはギルドマスターに報告。ご領主さまにも連絡して頂こう。あと、クランでの活動を控えるから通達して、連絡手段のことと定期連絡を面前で毎日行っているのは継続すること。


 実は誰にも言っていないが街には、わたしが敷いた転移陣があちこちにある。基本わたしが魔力を流さないと起動しないから、誤作動の心配は無用だ。


 転移陣はパッと設置できるので、こっそり増やしている。負担もかからないし、大きさも自在なのだ。探査の魔法の際、設置済の魔法陣も反応するようにしているので簡単に把握できる。たまにどこに設置したか忘れちゃうからね!


---ヒロインは知らない

 転移陣がパッパッと設置できるものではないことを。ついでに魔力消費の少ないタイプとか大きい小さいとか!そんなにいろいろな種類が今の世界にはないことを。かつて魔法文化が発展していた頃ならともかく!



 今回もスラムから島までは転移陣を使う。朝になったら転移先の島に行って、安全を確認しておこう。あと転移先の集合場所に結界を設置して安全を確保、夜明けを待って活動を再開。夜の移動は難しいからね。それにみんなも緊張して疲れているだろうし!


 夜が明けたら、島を案内する。


 できれば、顔役にも来てほしいなぁ?無理かなぁ?


 クランの活動は、今のところ落ち着いている。魔物の討伐が順調なので、後方支援に呼ばれる以外は今まで通りダンジョンにパーティ単位で潜って稼いでいる。


 正直、雛鳥も若鳥も資金力で言ったら弱小の部類だ。もともと貧民の集まりだし、お金のない若手中心だからね。


 だから、この計画はわたし個人の活動。そう道楽かな?クランもギルドも辺境も巻き込まない。


side ある行き倒れの若者???


 いよいよか!


 周りは静かだが緊張感が高まっている。見窄らしいずだ袋が運び込まれて来るが、中身はまともな服や穀物みたいだ。偽装しているのだろう。量は多くない。貧しい彼らの精一杯だと思われる。


 彼らに助けられた恩を返したいが、まだその時ではない気がする。必ず受けた恩を返すことを心の中で誓う。


 今夜また来る者とはこの間の子供だろうか?普通の子供とは思えないやり取りに、あの奇跡の力!いったいどこのだれなのか?


 それにここはたぶんスラムだろう。どこの国でもはじき出される人々は出てしまう。貧しいまま、足掻いても浮かび上がれずに沈んでしまう人々。


 彼らを率先して救うとか滅多にできることじゃない。慈悲とも施しとも違う、勝手に救われるのと率先して救われるの、どちらを選ぶ?とあの子供は選択を迫ったのだ。普通ではないとはいえ、子供にどこまでのことができるのか?


 それでも顔役は紹介すると言った。あの子供の方が、自分にとっての救いなのか?


 多少なりとも緊張しているのだろう、まったく腹が空かない。日が沈んでしばらく経った。まだ来ないのか?ほんとうに来るのか?不安が忍び寄ってきて苦しくなってきた頃、顔役が側近の者と部屋に入って来た。


 子供も一緒だ。いつ来たのだろう?顔役がみんなについて来るように言って戸を開けて出て行く。顔役に促されてみんなでずだ袋を担ぎついて行ってしまった。


 若干動揺してしまう。子供と2人きりだ。顔役はどんなふうに自分のことを紹介したのだろう?


 「こんばんは、はじめまして?は変でしょうか。顔役からあなたの相談にのってほしいと頼まれました。わたしはこの街で冒険者のクランの取りまとめをしております。よろしくお願いします。お話を聞かせていただけますか?立ち話もなんですから座りましょう。」


 部屋にあった粗末な椅子に2人で腰かけ向かい合う。


 子供はなんと冒険者たちのクランのリーダーだった。子供がクランを運営するなんてできるのか?しかし、スラムの顔役はこの子を一人前に扱っていた。つまりリーダーとして信用に足る人物ということ。


 この部屋には防音の魔法を掛けてあり、外に声は漏れないこと。周囲を魔法で探っているので、不審な者はすぐに分かること、などを教えてくれて安心して話し合えると笑う。


 顔役に話したことと同じだが改めて話す。こんな訳あり迷惑だろうとは思うが助けは必要だ。


 「お話はわかりました。あなたのことはすでに鑑定しましたので、話の内容と合わせて危険な人物ではないと判断します。ただあなたが厄介な状況にあることは確かですので、あなたの処遇は慎重にならざるを得ません。あなたはここがどこかおわかりですか?」


 自分の予想を話しつつ、今後どうしたらいいか考える。リーダーは布製の地図を出して広げながら説明してくれる。予想通りだいぶ飛ばされている。これでは徒歩で戻るには半年から1年くらいかかりそうだ。


 転移陣が使えればだいぶ早く戻れるだろうが、敵に気づかれるリスクもある。それ以前に体力と魔力がまだ回復していない。身体の損傷は復元しても消耗した筋力や体力は自然回復が必要だ。旅に耐えうる身体、魔法を行使でき、外敵に対応できる身体能力を取り戻すのが先決だ。今のボロボロな状態ではまったく戦力にならないし。


 「無理を承知でお頼みします。どうかしばらくの間、匿ってはいただけないでしょうか?体力が最低限回復するまでで結構です。対価はいくらかはお支払いできます。匿っていただいている間は、できることはやらせていただきます。どうかお願いします。」


 するとリーダーはクスクス笑った。


 「笑ったりしてごめんなさい。大丈夫ですよ。わたしは基本おせっかいなんです。中途半端に助けて放り出したりなんてしません。ただ、今まで助けた人たちより事情が複雑そうで、政治とか絡んでそうだったので報告とかは必要だと思うんです。あの、あなたはこの国の人ではないですよね?あなたの国は、この国と敵対していたりしますか?それとも友好国だったりしますか?それとも、別の大陸の方だったりします?」


 面白い子だ。敵対してたらどうするんだろう。まぁ、助けてくれそうな気はするが。


 「わたしは帝国の人間です。帝国は南の方に位置し、褐色の肌の者がほとんどです。現時点では敵対はしていないと思いますが、友好国ではないでしょう。まぁ帝国はどことも友好といえる関係は築いていませんが。お察しの通りわたしは貴族でお家騒動絡みで生命を狙われました。激しく抵抗し逃げたのでまだ追われているかもしれません。ただ転移先は特定できていないでしょう。わたしにも予測できなかったので。それでも長くこちらにお世話になればそれだけ見つかる可能性が高くなります。ですから身体が回復したらすぐ出て行くつもりです。」


 「帝国はたしか、差別意識の強い国?でしたっけ。獣人族とか?」


 「そうです。人類至上主義といいますか、奴隷制度もあり差別の強い、住みやすいとはいえない国です。」


 「あなたも同じお考えですか?」  


 「いいえ、わたしや王族の一部の方、貴族の中にも穏健な考えの者たちはいますが、迫害が酷くなりつつあります。遠からず、戦争になります。なんとしてもそれまでには戻り、彼らの力になりたい。助けられる者たちは助けたい。ですからわたしは死にたくありません。死んでる暇なんてありません。」


side 主人公


 ……戦争になります。…なります。


 うぇっ!戦争!いやぁ、嘘でしょう!そんな!わたしのスラムロンダリング計画が!


 困る!困るよ!戦争なんてされたら、助けなきゃいけない人がもっと増えちゃうじゃない!


 冗談じゃない!その上、せっかく生きている人までどんどん死んじゃうじゃない。


 だめよ!さすがに手に余る!いくらなんでもそんなに頑張れない。


 これはもう戦争なんてさせるわけにはいかない!


---???


 主人公は慌てているが、なにも主人公が助ける義務はないのである。主人公は、聖女でも勇者でも救世主でもないので、そんなに頑張らなくても誰も怒らないのだが、道楽で助けはじめた主人公は、変なところが完璧主義なのか助ける範囲が広がりすぎである。


 どうしてそんなに広がったんだ?そもそもなんでそんなに助ける気になった?


 まぁ、戦争で善人が死ぬより、主人公に悪人が掃除される方がざまぁな感じはするので、このまま主人公には暴走してもらおう。


 その方が女神さまも面白がられる気がする?

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