第16話 恵み

side ある呪われた男???


 目の前で子供と老人が話している。老人は震えているようだ。疲れ果て、絶望し、それでも希望にすがるように子供を見つめている。


 子供は自分にも少し分かると言う。その日寝る場所のない不安と恐怖。雨のなか彷徨うつらさ。ほんの少し巡り合わせが悪かっただけ。その違い。


 やり直させてあげたい。そう思いました。でもそのためには協力が必要です。スラムの住人というレッテルはなかなか剥がせないでしょう。それならば、違う場所でやり直せばいい!


 この街のスラムだけじゃない。ほかの街のスラムの人も助けたい。だから協力してほしい!


 家のないつらさがわかる。居場所がほしい気持ちがわかる。たしかにな。それでもまだ、どうしてそこまでするのか、俺にはわからねぇ。


 わたしは盗賊を討伐しています。すると襲われている人を助ける場面もあります。そのような場合、魔法で治癒したりします。


 わたしが助けるのは、運、または偶然?でも助けます。わたしが魔法を掛けてあげようと思うから。スラムの人たちのことも助けたいと思いました。わたしが助けたいと思った相手が誰であっても。見ているのがつらくてイヤだから。


 だからここに、あなたが助けたい人を連れてきてください。運命も慈悲もお好きではないでしょう?誰か助けてと願うなら、それがわたしでもいいのでは?


 わたしはどのみち、この後も好きに暴れます。するとわたしに助けられる人も出るでしょう。タイミングが違うだけ、ならば早い方がいいのでは?


 わかった、わかったよ。あんたに協力する。だから俺たちを助けてくれ!


 その後、部屋に10人くらいつれて来られた。みんな身体を損なっている。ひどい有様だが治る前の自分ほどではない。だが病を患っている者はかなり加減が悪そうだ。


 子供は軽く手を一振りしただけで光が彼らを包み込む。光がおさまるとそこには欠損が復元した彼らがいた。


 自分の時と同じようにきっと、痛みもなく、1度はなくなったものがあるのだ。すぐには信じられないだろう。奇跡が、考えることも諦めた幸運が自分の身に起こったのだから。


 その場で呆然とする者たちのなかのひとりを老人は抱きしめた。大切な者がいたのだろう。


 老人は子供にありがとう、ありがとうと繰り返していた。


 子供は老人に、協力してもらうためにも人手は必要だが派手な動きは困ること。できるだけ秘密裡に進めたいこと。信用できる者とそうでない者でこの先の道が別れることになる、その場合下手に判断が甘くなれば後々被害を被ることになりかねないから厳しく選別してほしいこと。など伝えている。


 まだ助けたい人がいるならつれてきていい。ただ、明日の夜まではなんとしても、今夜のこと、身体が治った人たちのことを周囲に知られないこと。明日の夜、また来るからと。


 老人は本当にいいのか確認し、追加で10名つれて来た。


 子供は同じように光の魔法を掛けて治癒すると、暇乞いを告げ帰って行った。


 まだ興奮と喜びに包まれている彼らに声をかけるのは気まずかったが、このまま忘れられては困るので老人に近づく。


 「あの、話中失礼します。まずは感謝をお伝えしたい。きっとあなたが、この街で行き倒れていたわたしを助けてくれたのでしょう?本当にありがとうございました。おかげで幸運に恵まれたようです。今後についてどなたかに相談できたらと思うので、紹介していただくことはできますか?」


side あるスラムの顔役???


 信じられないほどの幸運と奇跡に、現実から思わず遠ざかっていたがやることは多い。明日の夜また来ると言ったリーダーのためにも、準備をしないといけない。しかしリーダーは、どうやって何十人もの人間がいきなり生き返ったことを隠すつもりだろう。まさに「生き返った」!もう一度人生を自分の力で歩いていける機会を得たのだから。


 今まで諦めと惰性で世間の慈悲に縋って、ただのお荷物のように、扱いに困る厄介者だった我らがちゃんとした人間扱いされる機会が貰えたのだ。


 まずは、身体の治った奴らは隠しておく。ほかの動ける奴らの中から、信用できる者を選び動けるようにしておく。


 信用できない者たちの動向も把握しておき、いつでも対応できるようにしておく。


 さて、それにしても近づいて来るこの若者があの行き倒れとは?こいつのこともなんとかせにゃならん。

 

 教養を感じさせる佇まい、品のいい言葉遣い、礼節を重んじる態度、どう見ても貴族、しかも格式のある高い身分の令息。


 なぜ行き倒れになどなったのか、まぁ人に言えない事情があるということだ。

 

 今後のことならば、話し合う必要がある。隣の部屋で少し待ってもらおう。その間にどんどん手配しなければ!


 帰りしな、リーダーは皮袋とメモを渡してきた。中身は金貨と銀貨と銅貨。それぞれ100枚と食糧、衣服を調達する際に役だててほしいとなっていた。


 目立たずに準備をするには時間と手間がかかることをよくわかっているから、早めの行動を勧めてくるのだと思う。とりあえず、元気になった奴らには食い物も着る物もいる。こんなに急に元気になるなんて思わねえからな。


 動ける者の何人かに、手分けして必要な物を集めさせる。リーダーは、無事にスラムを抜けて宿舎にしているギルドに向かったらしい。恩人に何かあったら大変だからな。


 さてあの行き倒れの話を聞くか!


side ある行き倒れの若者???


 しばらく待つと老人が現れた。若いのが側に付き従っている。尊敬を受ける存在なのだと思う。


 「待たせなぁ。さて、話をしようじゃねぇか!」


 改めて礼を述べ、話せる範囲の事情を話す。身内のゴタゴタで生命を狙われていたこと。ある時呪いを受け拘束されていざ始末されそうになった時、隙を見て最後の力を振り絞り転移魔法を展開したが、行き先までは上手く定めらないうちに発動。しかも不完全な発動のため衝撃がすごかったこと。


 呪いは精神に影響するものと、身体に回った毒の影響を強める働きと両方あり、どんどん容態が悪化、それでも身につけていたポーションや薬を飲んで街の近くまで辿りついたが、追い剥ぎに襲われた。身ぐるみ剥がされるときに抵抗し攻撃魔法を食らってしまった。


 抵抗が激しかったからか向こうも手加減がなくなったのは仕方がないがおかげでトドメはさされなかったのが唯一の救いだ。しかし酷く損傷している間に呪いの効力に抵抗できずまもなく意識もない状態になってしまったとのこと。


 意識をほぼ完全に失ってからも身体をまさぐられることがあり、その都度必死に抵抗していたので、どんどん身体を痛めつけられることになってしまった。


 身につけていた剣や短剣、マントにブーツも剥ぎ取られ、ついに路地裏に打ち捨てられたのだろうと思う。その頃には毒の影響で、皮膚は変色し異臭を放ち人相など判別できなくなっていたのが幸いだった。触れるのも遠慮したいほど醜い状態のおかげで貞操はたぶん守られたと思うと。


 なんとまぁ!たしかに、追い剥ぎや強盗もいる世の中だ。ひどい目に合うこともある。こいつもまぁまぁひどい部類だ。まぁそれでも比べるわけではねぇし、競うわけでもねぇが、地獄を這いずる羽目になる奴らもいるからなぁ。助かってよかったんだろうさ。きっとこいつにはやることがあるんだろうから。


 「いきさつは分かった。これからどうする。」 


side ある行き倒れの若者???


 まず、自分に追ってがかかっている場合、ここに迷惑をかけてしまうから早めに出ていこうと思っていること。


 今の身なりでは、服も調達が難しいから誰かに協力をお願いできないかということ。


 ここがどこかもわからないので、まずその辺りも教えてもらい、国に帰る方法を探さないといけないと思っていること。


 老人はしばし考え提案してきた。


 「確かにここは、おまえさんを匿う力はねぇ。とりあえず服はなんとかしよう。しかし上物じゃねぇぞ。労働者の着るような古着とかだな。それでも、ボロじゃねぁだけこの辺りじゃ上等だ。とにかくおまえさんは目立つ。はやくここから出るこった。それでちょうどいいと思うんだかよ、明日の夜来るやつに紹介してやる。おまえさんくらいの歳のやつらを多く抱えているから、紛れ込めるかもしれねぇ。引き受けてくれるかはわからねぇが、明日の夜、会ってみねぇか?」

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