第15話 スラムの顔役

said あるスラムの住人???


 いいなぁ、あの子たち朝から食べ物にありつけるんだって!昨日の夜帰ってきた時は驚いた。だってきれいになってたんだもの!お風呂っていうのに入ったらしいけど、臭いがなくなってた!


 顔役の遣いが来て、慌てて手拭いで拭いて出て行ったと思ったら、新しい服抱えて帰ってくるしびっくりだよ!


 何日か後…

 

 いいなぁ、毎日楽しそう。昨日もパンを分けて貰った。お昼も食べてお腹いっぱいだからって!朝になればスープを貰えるから気にしないでって!


 わたしも行きたかった。でもこの手じゃぁ無理だよね。片方しかないし、今日はなにか稼げるかなぁ?お腹すいた。村が襲われたとき、わたしもみんなと一緒に死んじゃえばよかったのに。そうすれば寂しくなかった。


 手を食べられてこわかったし、痛かったし。たまたま逃げ込んだ村長の家にあった回復ポーションで傷は塞がったけど、あとは物乞いしながら街まで来た。何かできないか頑張ったけど、薄汚いわたしはスラムにしか居場所がなかった。


side あるスラムの顔役???


 ギルマスから遣いが来た。おっ、また臨時雇いか?なんでぇ!違うのか!前回紹介した奴らはみんな雇ってもらった。まさか本当に雇うとは!


 でもよかった。ちゃんとした働き口を得られるなんて幸運はスラムじゃなかなかない。他の奴らにもいい運があればなぁ!


 それにしても俺にわざわざ会いに来るとは!雛鳥のリーダーはずいぶん酔狂だなぁ!


 前回臨時雇いのときにはスラムにずいぶんと肩入れしてくれたようだから、今回はギルマスとリーダーの顔を立てようか。


 それにしてもナンのようなんだ?


 まさかほんとに、ひとりできやがった!クラン雛鳥のリーダーを外に立たせておくわけにもいかない。俺の家へ案内する。奥の部屋へ通すが、こわがるそぶりもない。肝が据わっているというか、怖いもの知らずというか、さすが1人で二つのクランのリーダーをやるだけある。子飼いも含めれば二千人ちかい人数を仕切っているんだから大したもんだ。


 さて、話はなんだ?


 リーダーは部屋に通されると丁寧に挨拶してきた。そしてこの間は、よい人材を紹介してくれたことに感謝すると。たった8歳の子供を前にあんまり警戒したくはないが、用心深くないと多くのものを奪われるばかりの世の中だ。かなしいが現実だ。ここはそんな掃き溜めで、もう奪われるものもないような人間ばかり。それでもさらに虐げられることも多い。誰か、助けてやってくれ!どうして俺たちは救ってもらえないんだ!


 思わず変なことを考えちまった。


 リーダーはどうか協力してほしい、と頭を下げてきた。まずは何に協力するのか話を聞くことにした。


 リーダーはまっすぐこちらを見ると、魔法でやりたいことがある。やってみせるので人を呼んでほしい。その際の注意事項とお願いがある。まず信用できる人。そして口が堅いこと。それから顔役がなんとか救いたいと思っている人。


 何をする魔法か聞かせろと凄む。こんなあやしい話、雛鳥のリーダーでなければ叩き出すところだ。しかし聞いて驚いた!そしてあり得ないと思った。なのにリーダーは一歩も引かない。もうどうにでもなれ!と死にかけの奴がいたのを思い出し試させる。


 そいつは街の片隅にいつの間にかいて、阿呆のようになっていた。骨と皮ばかりに痩せ細り、うわごとめいたどこかの言葉を呻くように呟いていて気味悪がられていた。


 リーダーは連れてきたそいつを見ると目を見張り浄化の魔法を掛けた。つぎにクリーンと回復魔法を掛ける。そして懐からポーションを取り出すとそいつに飲ませてやった。


 するとそいつ目の焦点が合い、意識がはっきりしてきたようだ。それと同時に絶望したように項垂れた。なにしろ両脚が大腿部から失われており、手は捩じ切られ片目がないのだ。正気を失っても仕方ない憐れな有様だったからスラムにおいてやったのだ。いっそ殺してくれと男なら願いそうなほど、こんな姿では生きるのもつらかろうが仕方ない。何があったのか、この後どうしたいか今まで聞ける状態でもなかったし、下手したらあまり長くはないと思っていた。


 リーダーは、その男の前に立ちそっと手をかざす。すると光が溢れて男に降り注ぐ。男の手脚、目が復元された。俺は見ているものが信じられなかった。


 本当に治った!まさか!夢じゃないのか?リーダーが、そっと俺の手を取る。俺の手は指が揃っていない。いや、いなかった。手を呆然と見つめる。なんで?


 どうして?なぜ?なぜ、俺たちを助けてくれるんだ?なんの意味がある?何を考えている?どうして希望を見せるんだ?もう1度絶望するためか?


 そう、もう1度です。たった1度で奪われた。遅くなりましたが、もう1度やり直してみませんか?


 それだよ!それ!なんで俺たちにそんなこと言うんだ!俺たちを何かに利用する気か?信じられない!信じるのがこわい!俺たちのことなんて誰も気にしない!いつ死んでもその死を悼まれない!見て見ないふりをされる毎日。何か汚いもののように扱われるならまだいい、いないものとされる哀しみは苦しい!俺たちだって生きているのに!


 だからです。居場所がないのはツライ。屋根の下に入りたい。風を遮る壁があれば!仕事があれば!手があれば!脚があれば!ちゃんと働けるのに!できることがあるはずなのに!どうして?どうして?自分のことは助けてくれないの?だからです。遅くなりましたね。ごめんなさい。あなたたちを助けさせてください。


 これはわたしのわがままなんです。好き勝手言ってごめんなさい。でももう1度、元の身体になれる機会があります。わたしの魔法を受けてみませんか?

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