第13話 密偵

side ある密偵???(合同新人実戦訓練後の森外周)


 自分は辺境伯の密偵である。お館さまからしばらく対象の観察を指示された。対象は冒険者ギルドのBランク冒険者。冒険者に登録してまだ1年の新人みたいな少女を調査せよ。とのことだ。


 正直なところ気は進まなかった。しかしお館さまが必要をお感じの事柄を調査するのは当然で、しかも仕事なのだからまずは身辺調査から一通りすべて行うべきと活動を速やかに開始した。この速やかにというのも大切で、場合によっては一刻一秒を争う場合も少なくない。


 お館さまが最も最適な判断と行動をとれるように、情報というサポートを行うのが我ら密偵である。


 身辺調査は比較的簡単と言えば簡単だったが、困ったといえば困った状況でもある。


 なぜか!1年前以前の足取りがまったく掴めないから。

 

 1年前、7歳になりすぐに冒険者登録を行う。一応近隣の村からの口減らし、というのがギルドや街の認識(公式?)である。村から出て街にくる子は何人もいる。だが分かっている範囲の子供たちとでは特徴が合わない。


 対象はとてもかわいい子なのだ。キラキラした色合いではないが、美しい髪と瞳の少女なので特徴をいえばどの村にも該当する子がいないのがすぐに分かる。村から来たというのは建前。では何処から来たのか?気にはなるが、お館さまから絶対に身元を突き止めろとは言われていないため、過去の調査ばかりに時間を費やすわけにもいかないから切り上げて街での調査を進めることにする。


 そして、活動の仕方が普通の子供じゃないと思う。ソロではじめたのは1人で村を出て来たので仲間がいなかったといえるからおかしくはない。しかし行き詰まらなかったのが、不自然だ。子供にできる仕事は多くない。しかも見習いの仕事は金にならない。だから身を持ち崩す者が出てくる。


 しかしこのところ、街の治安はむしろ向上しているほどだ。その理由のひとつが対象である。調べていけばいくほどコイツはおかしい!と感じる。


 しばらくは採取をしていたようだが、じきにダンジョンにももぐるようになる。


 ダンジョンでは浅いところでいくつか魔石を獲っていたようだが、そのうちに仲間ができる。仲間とコツコツレベル上げに取り組んでいたが、その取組方が良かったのか強くなって目立ってきた。そうなると仲間が集まりはじめてクランができた。子供たちに触発されて若手も結束しはじめた。


 力を合わせることでひとりひとりの苦しかった生活が向上した。その仕組みはささやかなゆとりを今も生み出し続けている。


 そのクランに入ると強くなる。クランリーダーも強い。1年経つ頃にはそういう認識をみな自然に持っている。今、対象のギルドのランクはBだ。たった1年でB、それでもきっと実際はもっと強いのだろうと感じる。


 今日の合同訓練にも対象を観察するため紛れ込んでいる。訓練は上首尾で、大量の素材と肉を持ち帰ることになった。ここでも対象の規格外の力が発揮される。あれほどの量の素材などをすべて、そうすべて収納してしまった。大容量なんてものじゃない。まさに無限?しかも一瞬の出来事。


 それだけじゃない。対象は最後まで残るようで、どうやって隠れるか焦って考えた。隠蔽と気配遮断、魔力遮断を何重にも掛けて魔法陣の中に入り、隅に張りついて覗きみる。


 すると対象が見渡す限りのすべてに浄化魔法を掛けたのだ。


 なんという魔力、神々しいほどの温かくやさしい輝きが周囲を満たす!聖女なのか?クランの子供たちに信頼され、聴いたこともない魔法を生み出し、荒れた大地を瞬時に癒す!まさに聖女?だが、なぜだろう?自分には対象が聖女とは思えない。


 聖女でもおかしくないというのに、いったいなぜ?


side ある辺境伯???


 報告は受けている。おそらく冒険者ギルドは事情を多少は把握しているだろう。そうでなくては、建前でも普通の子供では通せない。扱いが難しいのは分かる。だからこそ、わたしの影響力は必要だろうに。


 しかし1年前、ちょうど街に侵入者が来ていた頃?偶然か?


said あるギルドマスター???


 ご領主さまから呼び出しがあった。リーダーも一緒だ。いよいよだ。


said 主人公


 ギルドマスターから、ご領主さまに会いに行くと言われた。これからも自由にやりたいなら、ある程度上の方まで話を通したほうがいいのではないか?と、ギルドマスターは言う。確かにご領主さまの街で好き勝手するには筋は通さないといけないと思う。でもたぶんギルドマスターの言っていることとわたしの考えていることはズレている気がする?


said ある辺境伯???


 ギルマスとリーダーが入ってきた。今日も主要メンバーが揃っている。するとリーダーから3人以外席を外して欲しいと要望された。話を聞いた後、場合によっては内容を共有することも考慮すると言うので席を外すように指示した。


 リーダーはじつは困っていた、と話し出した。


 2年前、女神さまによって「生」を与えられ今日まで暮らしてきたが、まだこの世界の住人になったという実感が湧かないという。それは素性を偽っているのも原因のような気がするらしい。正直、今の状況は、周囲からはどう見えていたとしても根無草のような気持ちらしい。


 ここが拠点ではないのか?首をかしげるな!


 「聞いておきたいことがある。ギルマスからは聖女ではないと聞いているが本当か?そうか。勇者でもない?そうか。しかし「神の落とし子」なのだから、敬われる存在なのでは?「神の落とし子」とはなにかって?神々が地上に遣わす生命のことだ。今までの記録だとほとんどの場合が人間の子供だった。「神の落とし子」もまた大きな力を与えられ、世界に貢献する者となることが多い。幸い今まで災いとなった例は聞いていない。「神の落とし子」のことは、お伽話のように民の間に伝わっているのである意味身近に感じている者は多いだろう。「神の落とし子」なら教会にも話を通さないといけないだろう。」


 厄介だが!嫌だって?なぜ?えっ!これから潰す予定だから!ええ〜!なぜ?


side 主人公


 この世界では、異世界転生は「神の落とし子」という扱いになるようだ。大きな力を持つ者。確かにわたしも「神の落とし子」に該当するなぁ。


 しかし教会とか?わたしは管理されたくない。試してみてもいいがろくなことにならなさそうだ。そもそも、あんなに黒い場所がいいところのわけがない。


 たぶんだが、あの黒い場所やほかの黒い場所を祓ったらかなりの数の行方不明者が出るだろう。それでもわたしは祓ってやる!あれはいらない!だから掃除する。それだけ!


 「ギルドマスターは知っていたの?わたしが「神の落とし子」だと?だから手を貸してくれたの?」


 「確かに、そうなんじゃないかとは思っていた。でもだとしても保護したし、今日までとなにも変わらない。それにお前のやることも変わらないのだろう?落とし子とか関係なく、お前はお前のやりたいことを貫くのだろう?」


 そう、わたしはやりたいことをやる。女神さまが好きにしていいと言ったということは、好きにしていいのだ。気になっていることは他にもいろいろある。どれから手をつけるかわからなくなりそうなほどたくさんあるのだ。


 掃除が終わる頃にはきっとわたしも…家が出来ているかも!


 

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