第12話 魔法魔術技能研究所

side ある研究員???


 このところ街が賑わっている。討伐が上手くいったらしくて素材がたくさん手に入ったのだ。肉もずいぶん確保できたらしい。


 素材の恩恵は研究所にもある。いつもより上質の素材や鮮度の管理が難しい魔物の血とかが潤沢で、他所からも問い合わせがたくさんあるようだからと確保に動いていた。


 今ギルドはてんやわんやで、臨時雇いの職員もいれて対応中らしい。


 よその研究所や個人の研究者などからも、噂を聴いたのか伝手を頼って問い合わせがきているようだし。融通し合うところはお互いさまだからなぁ。


 俺の研究は、魔石関係だが幸い魔石はいつでもある程度確保できる素材なので、研究に取組やすいのは助かる。


 そういえば今日、冒険者ギルドのギルドマスターが所長を訪ねてくる予定になっていたっけ。

 

side ある所長???


 冒険者ギルドのギルドマスターが子供を連れてやってきた。なんでも新規登録の相談だとか?


 あまり新規の案件って?想像ができない。何か登録できそうな研究課題とかあっただろうか?


 確かに転移魔法の研究は盛んだし、飛行魔法の研究もある。魔石の省力化や攻撃力のアップも取り組む者は多い。研究所では、転移の魔法や飛行魔法のような夢を掻き立てるような研究から、生活に役立つような研究内容まで様々な研究を行なっている。


 もちろん利益が出ないと研究も続けられないため、匙加減が大変だがわたしは夢があったり人の役に立つ研究が好きだし、研究者を応援してやりたいと思っている。


 幸いご領主さまにも恵まれ研究環境は良い方だ。


 例年魔獣や魔物が増えるこの時期は、騎士団も冒険者も駆り出され酷使されるので、研究所では支援を積極的に行なっている。武器の改良や魔力効率の燃費の見直し、防御力アップ、医療支援、回復ポーションなど消費の激しい物資の安定供給などだ。


 この時期をどう乗り切るか、ご領主さまやギルドだけではない、所内でも動き方を確認しておこう。


side 主人公


 魔法魔術技能研究所は閑静な場所にあった。それほど中心街から離れているわけではないが敷地が広い。やっぱり研究所だからかなぁ?


 今日はギルドマスターに連れられて、新しい魔法?(新しいかなぁ?)の相談に来た。


 魔法などの技術は共有したりすることも大事だが、きちんと精査し安全性と開発者保護も重要なのだそうだ。この辺りのことは、どちらの世界でも同じなのだろう。


 ギルドマスターに案内されながら、見学を兼ねて施設の説明などをしてくれる。ギルドマスター詳しいな!さては、仲いいのかな?


 事務所に受付、待合室、展示ブースなど結構面白い!お金になる商品の開発も重要みたいで、実験に協力を募集!なんてのもある。


 それで執務室というよりは研究室みたいな部屋で所長さんを紹介された。


 ギルドマスターが部屋数を増やす魔法、隠れ家、血抜きの魔法の話をする。すると、へっ!みたいな顔でこちらを見てくる。


 「部屋数?血抜き?いりますか?その魔法?」


 「いりますよ!ちゃんと早速役に立っています!」


 わたしは一生懸命説明した。ギルドの宿舎拡大の恩恵や急なお客さまの対応とか、宿屋さんでの需要とか!あと、野営のストレス軽減に、血抜きでお肉のグレードがアップした件とか!


 額を抑え頭フリフリしながら所長さんは…。


 「わかりました、登録の手配はしましょう。検証実験の体裁も整っていますし、残念ながら!」


 「やれやれ、ちゃんと役に立っているんだからいいだろう。まぁ、俺だって最初は、なにそれ!って思ったしな。辺境伯にもお伝えしてある。登録後の運用については辺境伯預かりだ。」


 やれやれ失礼な!使ってみると良さが分かってくることもある。しかし話をしながら、なんとなく思ったことをはなしてみる。


 「血抜きの魔法の応用?で血を増やす魔法ってどうですか?事故とか怪我で大量に失血した時、血が増えれば助かったり?他人の血とかはダメだけど、回復魔法の発想の応用で血を回復したら増えたりしませんか?あるいは水魔法もないところから出しますよね!だったら素材からエナジーチャージみたいに補給した後水魔法で身体の中に出すイメージ?とか?それから展示を拝見して思ったのですが、農業にはあまり参加されていないようなので、魔法の肥料とか作ってはどうでしょう?収穫が増えるみたいな?たぶん?土を疲労回復させれば出来そうな気がするんですけど。ねっ!ギルドマスターいい考えでしょ!」


 ガンと頭にゲンコツを落とされた!所長さんはキョトンとした後、へっとなって、ガーンみたいな顔になっていた。そして…。


 「いったいどこからそんなことを思いついたのだ!しかし、光魔法や聖属性魔法の使い手は少ないのだぞ。」


 「今思いついた魔法は、光魔法や聖属性魔法ではないと思います。たぶん?血を増やすのは、血にたっぷりの栄養を与えて成長を促すイメージ?だから素材から栄養を、水で増殖?、肥料の魔法は、衝撃吸収と循環を促すイメージ?だから風属性と水属性?かなぁと思います。試してみないとわかりませんが、話していたらすごく結果が気になってきました。やってみたいですねぇー。ダメ元です。今から病院に行きましょう!」


side ある所長???


 どうしてこんなことに?今病院に来ている。わたしとギルマス、そしてあの子の3人だけだ。なぜだかギルマスが少ない人数の方がいいといいはったからだ。


 どうしてか?今ならわかる。


 ちょうど怪我人が搬送されてきた。怪我人を医師が1人で診ている。その怪我人を診た医師が諦めたような様子に全身が冷えていく。


 あの子は医師に手をかざすと医師が椅子に倒れ込んだ。なにをするんだ!あの子は医師から諦められた患者にクリーンをかけ、アイテムボックスから1瓶分の血を出すと、クルクル回って消えてしまった!すると怪我人の顔色がよくなった。つぎに診察台に患者と一緒に置いてあった切断された腕と身体に活性化を促す魔法、そして切断面に水魔法をかける。腕をくっつけて回復魔法をかけると腕が元通りに!そんな!


 また怪我人、今度は胴体が凹んでいる。これは無理だろう。にも関わらず、あの子は空気と水を操り元通りにしてしまう。その後、ちょこっとの回復魔法。

 

 なんなんだ、あの魔法、そしてあの子。医師が意識を取り戻すと、ギルマスが言い含めて!脅してとも言う、騒がないようにさせる。


 研究所に戻ってくると、あの子はだいたいイメージ通りでしたね、と笑う。


 きっとみんなが使える魔法になりますよ…と。そんなあの魔法のような魔法が、みんなが使える魔法になるのか?


 研究の欲求が強く湧き上がり胸が苦しい。あぁ、魔法でなら医師が諦めた患者を救うことができるかもしれないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る