第11話 職業訓練

side ヒロイン


 朝からわたしは倉庫に向かった。食事をしてすぐくらいなので割と早い時間だった。雛鳥の拠点は、少し大きな廃屋にちょっとだけ手を入れて使っている。それでも台所、食堂、お風呂はしっかり作った。お風呂なんかは、各自で入れない人たちもいるから。


 討伐で汚れたりしても、魔力が多めなら生活魔法のクリーンが使えるが、魔力が残っていなかったりもともと少ない人もいる。拠点には、脱衣所、洗い場、湯船、シャワーが男女別にあり、魔石を使っていつでも使えるのだ。


 でもわたしはいつもギルドの宿舎に帰ることにしている。ギルドが近いと便利だし。転移も使いやすい。だからわたしが早くからウロウロしていても不自然じゃないのだ。


 さて早く来たのは、もしかして昨日のスラムの子たちが来ているかもしれないと思ったからだ。


 やっぱりいた。早めに来てよかった!


 「おはようございます。今日からよろしくお願いします。みんな揃っているんですか?では説明とかあるので、こちらに来てください。」


 まぁ、説明のためというのは口実だ。

 

 倉庫の目立たない隅の方に木の細長いテーブルと16脚の丸椅子、と衝立を出して座らせる。


 お水とパン粥っぽいものを出してあげる。目を見開いて固まっているので、食べるように言う。もう一度おかわりのお水を出してあげる、これには痛めた内臓を労わる効果もある少し甘いお水だ。なにしろみんな奪われるんじゃないかと心配しているみたいな早食いだ。


 その後、こっそり身嗜みを確認しちょこっと手を貸す。お風呂に入ったから清潔だが、髪がもつれて櫛が通らなそうな人とかいるし、服もちょっと皺がよっている。


 生活魔法のクリーンをかける。わたしのクリーンは、寝癖やもつれた髪の毛もきれいにとかしたようになるのだ。これが普通かはわからない。きれいになる魔法だからきれいにしたいところを意識するだけ。ついでに服のしわも伸びた。


 この子たちをそれぞれの仕事に振り分ける前に注意事項を伝える。


 まず、昼休憩にはここに戻ってくればお昼が出ること。仕事終わりには、1階受付に行けば1人づつ日当が渡されること。明日以降も朝同じくらいに倉庫前に来てくれれば簡単な食事を出すこと。お昼も同じ。


 みんなの食いつきがすごい!絶対毎朝くる!って決意した様子。そんなに大したものは出ない予定なんだけど。

 

 ギルマスも来たので、解体に8人つれて行った。ギルマスと指導員役のベテラン職員さんとはじめは技能をしっかりチェックするのだという。


 4人は事務所につれて行き、受注書の整理を事務の人が教えている。慣れてきたら発送物の梱包作業とかもやるようだ。じゃんじゃん届くギルド宛の電文?の仕分け作業も控えているし、戦力増強頑張って!


 ちなみに、この臨時雇いについてはクランも噛んでいる。スラムの子たちはまだ実績がないのだから、ギルドがいきなりほいほいハードル下げて雇うのも難しいようで、ギルドから依頼されて雛鳥を通して委託する感じ。


 もちろん信用が第一の根幹の部分ではなく、比較的誰でもお手伝い出来るような内容の部分。且つ雛鳥がバックアップすることで受けてくれた。


 というわけで、食事付きなのはクランの下請け扱いでクラン持ちだからだ。日当もクランから出ている。クランとしては、成果に応じてギルドから報酬をもらう。もし差が発生した場合もクラン持ちだ。


 なぜそこまでするかと言われれば、スラムのことも気になっていたということだ。


 出来るところから少しづつ。まずは職業訓練だ。


 残りの3人はわたしが引き受ける。彼らには料理人見習いを試してもらう。


 肉が大量に供給されるので、加工品部門も人手不足だろうが、まずは料理スキルを習得させたい。出来るかな?


 いっぱい料理しているとスキルがつくかもしれないので、実験を兼ねて是非とも習得してほしいと思う。


 この3人には今のところ何のスキルもないことは鑑定で分かっていた。討伐というのはレベルを上げるひとつの方法だ。レベルが少し高い人に同じやり方でスキルは芽生えるのか?冒険者向けの実験も後で試してみたいが、まずは普通の人たちで試してみる。


 ギルドの厨房の端っこをお借りしての調理、まずは彼ら自身の昼食を作ってもらう。15人分も作ればかなりの量だからいい練習になる。


 まずは1人にはパン、もう2人はスープにチャレンジだ。簡単なレシピを用意してもらい、ところどころギルドのシェフの人にアドバイスしてもらう。パンの担当にはひたすらパン。多く出来た分は雛鳥の夕食に回そう。


 幸い生焼けもなく焼き上がり、その繰り返し。スープの担当には、野菜の皮剥き、その後細く刻み(主に食べ応えをだすため)バターと塩胡椒でよく炒め、焼き色がついてきたら小麦粉、水、牛乳などを加えていく。味をみながら薬草も薬味がわりに加えたりする。肉の切れ端や脂身部分が手に入ったときは、炒めるときに使ってみたい。きっとコクがでると思う。


 味見の結果、まぁまぁの出来栄え。パンもたくさん出来たし。彼らはご飯に無事ありつけそうだ。


 できたものを確認しているとギルドの食堂の人から、客がパンの匂いをかいでパンを食べたがっていると相談された。シェフにも確認してもらい、食べても問題はなさそうだがいきなり素人の作ったものでお金はとれないから、練習の品と言い含めてもらい、定価の5分の1で希望者に食べてもらうことになった。


余談だが、安かったからか売れ行きが良すぎて、ひとり2個までに制限をかけた。あやうく、みんなのお昼がなくなるところだったよ。


 まぁ、完全に赤字だがそこは気にしていない。スキルがつくかつかないか!の方が重要だ。


 お昼まで一生懸命働いた彼らに、手作りの昼食は好評だった。


 その後も初日はあっという間に過ぎた。料理担当は午後もパンとスープ作り、慣れるために繰り返してもらいレシピを覚えてもらう。午後作ったのが、明日の朝食になるのだ。


 1日目が終了し、日当を手にした彼らはとても嬉しそうでよかった。帰りがけに、1人パンを2個ずつ渡したら明日も来ていいのか確認されてしまった。どうやら待遇が良すぎて不安になったようだ。


 こちらは、実験への協力という(これまた建前だが)仕事内容でもあり、おかしくはないはず。実験の企画立案担当のわたしが言うのだからいいのだ。


 討伐の解体はその後も連日続いた。アイテムボックスに入れてあるので鮮度は保たれている。わたしはギルマスに出せと言われた物を出し、新鮮な内に解体に回される。


 解体された素材は状態もいいこともあり、良い値がついて取引されているようだ。朝から夕方までひたすら解体解体、担当の方々は本当にお疲れだろう。


 事務の方も解体の情報をどんどん発信し、取引を成立させていく。煩雑な上にエンドレスに忙しい職場でみんな良く頑張った。


 10日ほど忙しい日々が続いたが目処がたったので、臨時雇いは一旦解散になった。

 

 それで彼らの処遇だが、解体メンバーは討伐シーズンはこれからなので改めて雇用することになった。しばらくは補助要員だが本採用には違いないのでとても喜んでいた。またギルドの宿舎が大幅拡大されたことで、入居も可能な点も喜ばれた。


 事務を手伝った人たちも、見込みがあるとのことで採用された。やはりはじめはサポート職からだが。


 で、料理担当の子たちだが、パンの子にはスキルがついたので街のパン屋さんに住み込みで採用された。


 料理担当のほかの2人は今回のことがキッカケで、ギルドの食堂でもパンが出されることが増えたため、ギルドの厨房に採用された。当面、パンを焼きつつ料理の指導を受けてスキル獲得を目指してほしい。


 結果からいうと、スキルはついた。パンの子にはパン職人、料理とパンを担当した子たちには料理人。ただ料理人がついたのは、何ヶ月も後のことだったが。

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