第8話 合同新人実戦訓練

side 主人公


 みんなと森の外周部分まで来た。やっぱり!去年も思ったけれどこの時期は魔獣が増えるみたい。


 去年は異世界に転生したばかりで、街と森の洞穴を行き来しての冬越しだったな。思えばひと冬まるまるずっと森のなかで1人で暮らすのはとても不安だったから、準備不足かもしれないと思いながらも街に行ったのだ。


 春から夏にかけてはレベルを上げたり使える魔法を増やしたり、とにかくいろいろやってみたし、もともと女神さまのおかげで、道具にも着る物にも困らない。


 パンや塩もまだ十分にある。とはいえこの土地の冬がどのくらいの期間続くのかも分からないから、もっと節約してあとは街で買うようにしようと考えたのだ。


 春から森で暮らしてみて独り言は増えるし、訓練していてもひとりだと成長している実感があまりないんだよね。これでいいのか不安も感じていたっけ。


 もちろんレベルが上がるから、強くなっているのは目に見える。使える魔法も増え生活にも役立って不便さも解消されていく。それでも数字だけでは心配だった。


 まぁでも森の生活も楽しいんだよ。採取した果実や木の実や野草の料理もどんどん上達した。そりゃそうだ、1日3食手作りし、保存食にも挑戦し、塩しか手元になかったから香辛料の代わりにいろいろな香草や薬草を探したり栽培したり。


 なにしろわたしにはチートがある!毎日毎日鑑定は使いまくったよ!そもそも現代でもあまりいちから料理なんてしてなかったのに、獲物を狩って解体するところからやらないといけないのだから。普通の事務職がよくやったものだ。


 魔法がなければそうそうに詰んでいた!魔力量が多くて本当に助かったよ。なにしろ♾️だもの、いいでしょう!羨ましいか?ハッハッハッ!


 って、誰に言っているのだろう?とはいえ、レベル1からだから、試行錯誤のオンパレード、ちょっとした失敗くらい当たり前の日々、火力が強すぎてお肉が焦げたりしても無駄にできないからちゃんと食べたよ(涙)


 わたしがすごいところは、ちょっとは失敗するけれども食べられないほど酷いものにはならないところだろう。


 よくネタにでてくる、レシピ通りに作ってもナゾの物体になってしまうアレである。


 幸い、あまり美味しくないなぁと思いながらも完食できる程度にはもっていけるのだ。食べる物があるのは幸せなことだ。そして食べ物を無駄にしてはいけない。


 ただアイテムボックスがなければさすがのわたしも、1日3食お肉の日々に根を上げたことだろう。獲物は大物の場合もあり、ありがたいことに肉がかなりとれる。訓練のために魔法を使い続けるわけでどんどんお肉が手元に増えていく。腐らせないために食べ続けるエンドレスな日々というわけだ。アイテムボックスありがとう。おかげで食べる物はたくさん確保してある。


 そう!わたしはアイテムボックスも女神さまからいただいた。ありがとうございます、女神さま。しかもお約束の容量無限、時間経過なしの最高のやつである。おかげで保存食作りはまさに貯めるだけですんだ。


 でもただ収穫するだけというのも芸がないというか途中で飽きるかもしれないし、朝から夜まで時間はあるからいろいろやりたくなるものだ。新鮮なもの、保存を考えた物、調理した物。


 長い冬の間には、体調を崩す事もあるだろう。具合が悪い時に料理はできないから、消化の良さそうな物も作ってみた。


 明るい間にできること、洞穴でやることをせっせと頑張っていたよね。狩りをして、ひたすら解体して、苦手な解体さえ魔法でごり押しして手際がどんどんよくなった。


 街に出て、ギルドで冒険者になって、ちゃんとした解体の仕方とか教わって、わたしが採取した物を買い取ってもらえるようになった。


 街に入るまでは、森の中でどうやって稼ぐか金策でひそかに悩んだりしたものだ。まさか盗賊の討伐のおかげで解決するとは思ってもみなかったね。ありがとう、わたしが世のため人のためわたしのために使わせていただきます。

 

 あの頃レベルが低いうちは、なにかあったら即「死」の毎日。決して油断はできないと自分を戒めながら過ごしていた。楽しんではいたけどね。


 だって魔法が使えるようになったのだから、楽しくない訳がない。火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、植物魔法、氷魔法、雷魔法、光魔法、闇魔法、とにかく日替わりで鍛え続けた。出来ることが増えることが励みになっていた。


 狩なんかはどうしてもグロくなりがちだったが、そこをなんとかならないか研究してみた。血が1番困るよね。


 でも鑑定すると、素材になるようで捨てるのは勿体無いと考えてできたのが吸血魔法!ハッハッハッ!何言ってんだと思うよね。馬鹿みたいかな?でもね、食べるためにも血抜きするんだよ。魔獣一頭分の血抜きなんて、血生臭くてかなわないの!


 血の始末についてはほかにも試行錯誤したよ。獲物の血なら素材にもなるから、きれいに余さず活用するのがいいと思う。


 でも討伐した人間の始末は今思えば、いろいろ大変だったね。でも経験って大事だよ。どこで何が役に立つか分からないものだね。


 素材となれば売りものだ、鮮度や効率、付加価値などもつくのだから、実験というか研究を重ねた。


 結果良さそうなもののひとつがこれ。水魔法の応用で獲物の水分を一気に外に排出し、土魔法で作った瓶にいれて、風魔法の応用の空気を抜く!で密閉してアイテムボックスへ。これで傷ひとつつけずに完了だ。ねっ!すごいよね!


 そうとても理にかなっているってわたしは思うけれど、なんとなく誰も賛成してくれない気がする。


 いいの、考えて試したことが一応成果があったんだし、おかげで解体が少し楽になりグロにも少し耐性がついた。


 この吸血魔法もはじめは失敗したりした。まぁ当然だね、それで干からび過ぎたり。だからこの魔法も頑張って加減を覚えた。訓練の成果か魔法制御は上手くなったよ、すごく。


 ハッ!いけない、感慨に耽り過ぎた。まぁとにかく森にどうやら獲物が多くなる時期だから冬支度にちょうどいいという話である。あれっ?ちょうどいいよね?


 とにかくこれでも一応下調べしたんだよ。みんなを連れてくるんだから、万が一がないようにしたい。ギルマスたちと訓練の打ち合わせしたり、例年の魔獣討伐状況を確認して種類や数、討伐分布の傾向を分析した。


 ギルドの把握している状況と、事前にわたしも森を気配探査で確認し、実際の分布や数と照らし合わせて今日どれくらい狩るか決めてある。


 森からの追い出す勢子役はわたしがやればいいし調整もする。わたしの考えた通りに進めば、三段階の狩が成立して例年のことらしいが討伐が楽になるはずなのだ。


 現地に到着したので、各自準備して陣形を整えて待機してもらう。わたしが離れるのでギルドの監督役の人たちや若鳥たちに、きちんと雛鳥たちを見ていてもらう。


 side ある騎士団長???


 討伐がいよいよ始まった。雛鳥たち新人冒険者たちが隊列を組み陣形を整えて待つ。それぞれ手に武器を構え、魔法を使う者たちもいつでも魔法を発動できるように準備している。まだ新人で詠唱や発動に時間がかかるためか、三段構えで待機している。考えているのは確かで、ただ実戦は思った通りにいくとは限らないから大変なのだ。それを彼らはこれから学ぶことになる。


 「ゴブリンがいくぞー!」と、声がかかる。


 見れば森からいよいよゴブリンたちが出て来た。緊張の瞬間でこれが乗り切れるかがまず関門となる。


 雛鳥たちは総勢750人はいる。だいたい4人1組だ。今回は、魔法を使う者たちを別働隊として配置していて、4人は前衛や中衛やタンクで構成されている。


 だいたい160組ほど。まず森から出て来たゴブリンが100くらい。最初の衝突だ。初撃が通るか後方で見ていてつい力が入ってしまう。


 一匹を1組で担当していく。まず前衛の者が定石通りに斬りつける。ゴブリンの攻撃は、タンクや中衛の者が盾になったりして防いでいる。前衛の者は落ち着いて首を狙っていく。


 子供だからゴブリンと背丈に差があまりなく、そのため首は狙いやすい部位なのだろう。


 他の組では、左右同時にゴブリンの腕を斬り飛ばして、大地に押し倒し頭を落としている。首を狙った組も足を中衛の者が縫い止め、首を切り落とすことに成功している。


 大部分の組全てで、第一陣のゴブリンは狩り終わっていた。一分もかかっていないと思われる。焦って無駄に斬りつけることもなく、余分に力を消耗している感じもない。まぁ始まったばかりだしな。


 「つぎのゴブリンが行くぞー!」と、また声がかかる。


 つぎのゴブリンは150ほど。これも魔法の出番なく討伐。つぎは200!大丈夫か?


 まだ距離がある中、魔法を使う者たちがゴブリンを前後に分断する。その間にまずゴブリンを狩りとり、後方の取り残されたゴブリンを屠る。


 「つぎも200だ、準備しろー!」

 

 同じように数が多い時は魔法で分断し足止め、且つゴブリンを攻撃して消耗させることで前衛、中衛の負担を軽減。敵の供給が完全にコントロールされているからこそだが、ほぼ5分単位で戦闘している。


 「つぎは300だ、気を抜くなー!」

 「武器に毒が塗ってあるかもしれないぞー!」


 はじめの戦闘の後は間隔が10分から5分になった。戦闘は80分ほど続いた。ゴブリンのなかにもアーチャーやマジシャンなども含まれていたが、子供たちは終始落ち着いて連携していた。


 子供たちだけで討伐した数が3000を超えた頃。


 「新人の実戦訓練はここまで!これより若手冒険者対象で掃討戦に移行!」


 すごい!これは…彼らはすごい!


 まさか短期間でこんなに成長しているとは!3000という数字は、多いわけではない。彼らは800人近くいるから1人あたりゴブリン4匹。しかし闘いの要素とは多数ある。そのひとつは継戦能力。緊張感を保ち、長時間の戦闘に持ち堪えら能力だ。


 彼らは確実に成長している!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る