第7話 出発式!

side Sランク冒険者ゼット


 この街はいい街だ。雰囲気が柔らかい。スラムもましだし、弱者にも住みやすい。


 他のところだと路上にうずくまって動けない者もいて放置されていたり、物乞いやスリ、強盗や人攫いの危険がある街もある。


 まぁそういったことに対応する自警団とかもあるが、上が腐敗していると民や住民をまもるための施策もまったく機能しなくなる。いつも苦しむのは民だ。本来領地は健全に運営されていてなお、手からこぼれ落ちる者もいるというのに。


 他の領地もよい為政者に恵まれてほしい。そう願いながら自分は何もできていないとつい落ち込みそうになる。正直、魔獣や盗賊の討伐だけでもかなり大変だったのだ。このところいくらかマシになりホッとしているところだ。


 街を調べて分かったが、雛鳥と若鳥はほぼ兄弟クランで、同じリーダーを仰いでいること。活動自体は独立しているが、連携は常に意識されていること。当然会計も別で、パーティ構成や訓練も別。


 しかしクランで働く者たちの面接や採用はリーダーが主体で行ってきた。試行錯誤で行う訓練などの取組も、すべてリーダーが仕切り、後を任せていく形をとっている。


 すべてのことにリーダーが関わっているといっていい。


 冒険者のランクは、公式にはB。なにしろ1年前に冒険者登録したばかり、見習いみたいなものだ。いくら強くても、いきなりランクを上げるのはギルマスでも難しかったのだろう。


 話に聞く限りかなりの討伐をこなしている。資金があるはずだ。大容量のアイテムボックス持ちでギルドと高額取引しているようだし、それだけ派手に動いているわりには露出が少ない、ギルドが完全に秘匿する方向だ。


 明日はいよいよギルド一推しの実践訓練の日だ。どんなやつか、この目でやっと確かめられる。


 翌朝、広場は完全にお祭り騒ぎだ。屋台に親子連れ、見物人でごった返している。雛鳥はとても人気で、街中が応援する雰囲気だ。


 続々と集まる子供たち。50、100、150、200…すごいな!こんなに構成員がいるのか?


 若鳥も少し離れたところに集まっていく。こちらもすごい数だ!

 

 どちらも500人は、超えているだろう。まさかこんな規模になっているとは!見ればご領主さまたちも唖然としている。余裕の表情で見守っていたクラン員ではない若手の冒険者たちも、明らかにビビっている。


 整然と並んでいく。まったくこの場の空気にのまれていない。子供たちの方が落ち着いているくらいだ。親の中には、はじめ少し心配そうにしていた者もいたが、逆に安心したようだ。これだけ子供が集まっていて、泣きも騒ぎもしない。やることをやるだけ!とばかりにガキのくせして鋭い気配を放っていて、かなり頼もしい。


 ここまでくるにはかなり実戦を経験したはずだ。訓練と本物の戦闘は違う。緊張、焦り、不安、期待、予想を裏切られた時の恐怖など。例を挙げればきりがない。なんとなく安心した。少なくとも今日、こいつらの誰かが死ぬのは見なくてすみそうだ。こいつらは今日は死なない。


 なんでそう思うかって!カンだカン。


 そして、リーダーが出てきた。


 本当に子供だ。


 砂色のサラサラの髪は肩までしかない。女の子は長い髪の子が多いが、顔を縁取るように流れ落ち艶やかだ。瞳ははっきり分かるほど濃い紫色。まさにアメジストをみているようだ。


 その子もまた冒険者の格好をして剣を下げている。簡素な防具、地味で汚れの目立たないよくある服装だ。こんなにかわいいのに勿体無い!


 イヤッ?俺に幼児趣味はないぞ!ただせっかくかわいいんだから、可愛い格好をさせてやりたいだけだ!それだけだぞ!


 リーダーが周りを確認し…さぁ、いよいよだぜリーダー。


 ………ッ!


 リーダーの檄が飛ぶ!



「そうだ!闘って終わりじゃない!そして勝っても終わりじゃない!生き残れ!今日も!明日も!誓え!勝つために考え続けることを!誓え!生き残るために諦めないことを!誓え!」


 「「「「「誓う!今日も必ず生き残る!」」」」」


 こんな奴が、Bランクなわけないだろう!


 なんだ!この威圧感は!周り一帯を覆い尽くすような濃密な闘気?!


 レベルはいくつだ!まるで戦に赴く将軍かというような予想外過ぎる掛け声?にご領主さままで顔がひきつっているぞ!


 やれやれ、ギルマス、いくらなんでもこれはヒドイ!

 

 こういう奴の周りは苦労すると相場が決まっているんだよ!だから俺を巻き込もうとしているのだろうが!そうはいくか!ご領主さまももちろん巻き込まれる側だ!確定だ!


 ついでにこいつの周りは血の雨が降る。たぶん、間違いない。


 こいつは悪い奴ではなさそうだが、たぶん嵐のように被害が出る、ギルマスとか。俺?とか!勘弁してくれ!


 いい奴でも、闘っていれば死体の山ができるもんだ。こいつは、守るために自分でも、そして人にも死体を築かせる。そういうタイプの災害だ!

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