第6話 出発式?

side あるSランク冒険者???


 1年ぶりかぁ、ギルマス元気かなぁ。まっ元気だろう、ここのご領主さまは実力者だし。


 ギルドの扉を開けて顔馴染みに挨拶しながら空いているカウンターにいく。


 目が合うと嬉しそうに笑ってくれて疲れが吹き飛ぶな。


 「ゼットさん、お久しぶりです。お変わりありませんか?」


 「久しぶり!また世話になるな、よろしく頼むぜ。」


 「もちろんです。この時期Sランクパーティが増えると本当に心強いですよ。」


 「あぁ、そうだよな。今年も加勢に来たぜ!まぁ、ここはご領主さまもギルマスも強いから大丈夫とは思うが!」


 「そんなことねぇよ。久しぶりだな、ゼット!魔獣の増える時期っていうのはなにが起こるかわからねぇ。来てくれて嬉しいぜ。」


 ギルド内を見ながら、

 「それにしてもここは相変わらず子供の保護が手厚いなぁ。」

  

 午後も遅い時間になってきたので冒険者たちもどんどん帰ってくる。仲間の1人には宿の手配を任せてあるが、挨拶がすんだら宿で休もう。


 それにしても前に訪れた時より子供の姿が多い気がする。その割に雰囲気が壊れていない。なんとなく以前の記憶より秩序だっているような気さえする。なぜだ?


 冒険者見習いたちの5、6人のパーティが順番に受付にむかっていく。


 「ずいぶんお行儀がいいな、みんな顔見知りなのかい。」と、ギルマスに聞いてみた。


 「あぁ、あいつらはみんな同じクランなんだ。雛鳥ってクランに入っていて、メンバーを入れ替えたり役割を交代したりする訓練を試してるんだぜ。おもしろことを始めたもんだ。」


 「サンダルの若手冒険者たちの噂は聞いたことがあるよ。かなりハイペースで成長しているって注目されているのは確かだ。みんなどうやっているのか知りたがってるぜ。」


 「それならいい機会だ、近く若手冒険者見習いたちのための実践訓練があるから覗きに来てくれ。意見も聞きたい。広場に集まってみんなで森に行く予定なんだ。ついて来なくても、出発の様子だけでもきっと面白いぜ。なにしろ、ご領主さまも視察に来るんだから。」そう言って戻っていった。


 視察?そりゃすごいな。人数がいればある程度は外も安全だろうが、万が一はいつでもあり得る。


 依頼や伝達事項が張り出されている一角をブラッとみていく。人気があまりないはずの常設コーナーの依頼のところによそではあまり見ない内容のものがあった。


 新人冒険者や見習いの引率役の募集に、回復効果に関わらず1回銅貨1枚の依頼?安いな!しかし?効果に関わらずってなに?申し込みは、都度ギルド受付にて簡易依頼として出すこと?


 疑問に思って聞きに行こうとしていたら、実例を見た。


 ドヤドヤと帰って来た冒険者たちの中に、怪我をしている者がいて雛鳥ってクランの子供たちを見つけると声をかけたのだ。


 「なぁ、回復を頼んでもいいか!」


 「いいよ、わたしやる!」


 頼んだ方と頼まれた方2人がさっさと受付にいって手続きしたのだろう。なんと受付の前で立ったまま怪我人に回復役の子供が手をかざす。


 回復魔法特有の柔らかな光が、思っていたよりも強く光るがすぐに消えてしまった。ふたりしてのぞきこんで、怪我の具合を確認している。まだコントロールが上手くできないのだろう。

 

 「どう?わたしも出来るけどどうする。」と、別のパーティの剣士がきいている。


 「頼む!ってお前か!今日は前衛だったのか。」


 「うん、そう。結構それもありみたい。じゃあ、回復かけるよ。」


 この子の光は強過ぎず、ゆっくり光っていた。かなり長くかかったが、今度の子はコントロールはいいみたいだ。まだまだ魔力量が少ないから素早く治すには至らないが、7つや8つの年の子供がたった2人、しかも2回である程度まで治せるなら将来有望だろう。若い冒険者は礼を言って別れた。


 そういう光景が目の前で何度か繰り返され、見て分かったことがあったので確かめるために受付にきいてみたらやっぱりだった。


 魔力量を増やすには毎日使いきり、回復させるのを繰り返す。しかし活動中、限界を超えたら身動きが取れなくなる。雛鳥のクランは、必ずメンバーに余力を残して帰ってこさせ、安全を確保した状態でギルドを通し依頼を受ける形で残ったすべての魔力を有効活用して回復魔法をかけることで魔法の練習と魔力量を増やす工夫を同時に行っているのだ。しかも銅貨1枚とはいえ収入になる。

 

 冒険者にも悪い話ではない。確実とはいえなくても回復魔法を安価に受けられて、子供の魔法でもかなり回復できるだろう。実践ではまだまだ効果とスピードが足りなくても練習を続ければ上達するだろうし、将来は経験豊富な魔術師を育成していることになる。実際、銅貨1枚はかなり助かるだろう。ほんとうに面白いな!


 パーティの奴らと宿に向かう。以前から常宿にしているところだから案内もいらない。外観も変わらず何気なくチェックインしようとしてギョッとした。


 「なぁ、この宿って前からこんなに部屋数あったか?」


 いつもはパーティでワンフロアを貸し切り、各自ひとりでゆっくり過ごしているのだが、個室が増えている?


 「ゼットさま、みなさま、どうされますか?今年は個室が充実しておりますので、個室をワンシーズン貸し切りでも対応できますが、いつも通り最上階のフロアにされますか?」


 メンバーと少し話すと試してみたいとみんないう。もちろん俺もだ。というわけで新しい個室に案内してもらう。なかなかいい!いい!Sランクだし、と思って今まで少しもったいないと感じていても必要な散財だと思っていたのだ。


 翌朝、メンバーと食事をしているとベッドがふかふかだと喜んでいた。今までだってふかふかだったろうに!と思うがそんなに違うもんか?


 食事も相変わらずうまいし、宿の人間にそう伝えると嬉しそうに答えた。


 「お気に召して頂き嬉しく思います。ゼットさま方は特別なお客さまでございますから、ご満足頂けて安心致しました。お勧めしてようございました。お布団はちなみに魔導具を使っております。購入もできますのでいつでもおっしゃってください。」


 メンバーはそれぞれやりたいことがあるというので別行動だ。


 俺はまたギルドに来ていた。よほど気になるようだと自分のことながら苦笑してしまう。


 ダンジョンに行くパーティがそれぞれ受付に報告している。このサンドルのダンジョンは街中にゲートがあるので、治安維持も兼ねて出入りを管理している。


 冒険者見習いの子供たちのパーティが引率役と合流して連れ立ってダンジョンに向かう姿が微笑ましい。


 若手のちょうどギラギラしやすい年頃の冒険者たちも、統制がとれていて不思議な感じだ。


 そこへ昨日子供たちに声をかけて回復してもらった冒険者を見かけたので話をきいてみる。彼らは今日は休養日にしたようで、ゆっくりと朝食をギルドのガッツリ飯で楽しむ予定だったというので奢ってやることにした。地味に喜んでるのがかわいいと思う。まぁ、ガタイはでかいし、それなりに強面なのだがまだ若さが滲んでいて、たまに先輩面するのも楽しいものだ。


 自分もかつては、先輩に飯を奢ってもらったりして凌いだ頃もあった。昨日の怪我は、帰りしなに転移陣に飛ばされてやばかったそうだ。それでも以前よりも安定した闘いができるようになってきたという。理由のひとつは、雛鳥を見習って余力を残すようになったこと。以前、余力が残せなかったのは稼ぎが関係している。では、なぜ今は余力を残した闘いができるのか、それは若鳥のクランのおかげらしい?若鳥?雛鳥?えっ!串焼き?美味しそう?


 それは言ってはいけないらしい。命名はクランのリーダーで、名前はもうみんな諦めているのだそうだ。


 ちなみにもうみんな、リーダーに命名は頼まないことにしたという。これは内緒の話らしい?いや気づいてるんじゃないかなぁ?それにしても、かわいそうだろ。傷ついちゃったりして?


 それで雛鳥をみていて、そのやり方が有効なので自分たちもクランを作ることなり拠点を持って活動し始めたんだという。


 拠点があることで、余計な支出が抑えられ焦った闘い方をせずともよくなった。きちんと鍛えて、きちんと食事をし、無理をせず、いざという時に備えて余力を残す。日頃から少しづつ蓄え、今まであまりできていなかった、自分の闘い方を分析したり工夫したり、できることを増やしたりといった楽しみができたという。


 パーティの仲間以外にも悩みを相談したり、一緒に戦略を考えたりできて幅が広がったと感じているらしい。


 いい話が聞けて良かったと、彼らと別れダンジョンに潜る。浅い層に行くとすぐ雛鳥たちを見つけられた。


 引率役が後方で控え彼らを見守っている。闘い方をパーティで相談していたのだろう、少しぎこちないが連携も取れている。


 なるほど、いい仕組みだ。だがよくこれだけスムーズに軌道に乗せたものだ。とても子供たちだけでできることとは思えない。


 組織には金がかかる。初期はなおさら必要だ。投資と同じで上手くいくとは限らないし、それでも金はかかるものだからよほど上手くやらないと成立しないと思うんだが?


 かつかつの若いやつらには無理だ。どうしたって金を出したやつがいるはずだ。ギルマスではない。ご領主さまでもない。どいつがこれをやってのけた!

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