第5話 宿舎と魔法

side 主人公(合同訓練以前より)


 ギルドの宿舎に戻ってきた。今日は午後がフリーの日で今のところ警報も聴こえないから、問題は起きていないのだろう。


 時間がある時は森の拠点に行くことが多いが、今日は街で過ごそう。少し前から気になっていたことがある。


 そう、この部屋は殺風景すぎる。仮住まいと思いそのままにしていたが、誰も住んでいないように見えるのはまずいよなぁと思ったのだ。当面森の拠点は維持するし、転移しやすい環境だからここが便利なんだよね。


 部屋を見廻して買い物に行くことにする。なにが必要かなぁ?


 まず向かったのは雑貨屋さん、ここでマグカップとかお皿とかを1人分買う。あと花瓶、森で摘んできた野の花とかいけよう。どのみち採取できれいな花とか見かけると眺めていいなぁと思っていたのだ。ただなにがいいなぁ!なのか今ひとつ自分でも分かっていない。摘む必要がないものはそのままに、とも思うが花をモデルに刺繍とか絵とか描きたい気持ちにもなる。


 水差しと洗面器、掃除道具は物置きにあったし、シーツなどの布類や毛布、布団は備わっている。そうだ、布団干さないと、毛布も!クリーンがあるからキレイにはできるが、なんか違うんだよね。でも家庭を持っていない冒険者は基本布団とか干さないよね。できにくい環境というか、ウーン。あっ!へっへっへっ、魔法、魔法でやっちゃう!いや、まずできるのか、から試さないとね、ヒッヒッヒッ!


 いや脱線したわ。まずはお買い物!で、他に買っとくものはあっただろうか?


 冒険者ご用達の装備品を扱っているお店にいく。買うのは、この世界のリュックにあたるかばん?に、予備の服や予備の武器、あと保存食。普通の冒険者が旅支度するみたいな基本のセット。

 人の住んでいる部屋に置いてありそうな物を買う。女神さまから貰ったものは、なにがあるかわからないから小さくて着られなくなった服もアイテムボックスに戻してある。


 ちゃんと大きくなっているんだよ!


 あと魔導具屋さんに行く。おっ!と思ったのが魔力で書けるペン!ステキ!異世界っぽい。


 魔法袋!これならアイテムボックスを持っている人もいそうだな!それならわたしがアイテムボックスを持っていることを隠さなくてもいいし。これはギルマスにきこう!


 ポーションがある、わたしの作ったポーションが売れるか聞いてみよう。この値段って高いのかなぁ?安いのかなぁ?ポーションのこともギルマスに聞こう。わたし、まだまだ知らないことがいっぱいある。


 その後は部屋に戻って、買ってきた物を置いたりしまったりすると大分人が住んでいる感じになった。


 ギルドの受付の人に、ギルマスに質問があるから空いている時に声をかけてほしいと伝言したらすぐ呼び出しされた。


 そんな大した話じゃないのにどうしよう。聴ける人がいて良かった。アイテムボックスも魔法の収納グッズもあった。魔力に応じてサイズが変わるようだが、これなら隠さなくて良さそうだ。


 ポーションは品質を鑑定して、ランクに応じて買取してくれるらしい。ちなみにギルドでもポーションは買取しているからギルドに卸せといわれた。


 ポーションも作ってたのかと呆れられた!なぜ!


とある昼


 今日も午後からフリーなので訓練所での鍛錬の後、そのままギルドの食堂でランチにしてみた。


 はじめて食べたが、とにかく量が多い。大人の冒険者には丁度いいのだろうが、子供で女の子のわたしは食べきれない。こっそりアイテムボックスに収納した。食べ物は粗末にできないし、この世界に来たばかりの頃毎日パンと水だけの日々を過ごし、料理の有り難みが骨身に染みていてたいていの料理は好き嫌いがない。


 しかし、ちょっと味が濃いこと、肉が多いこと、というかほぼ肉!なのが気になった。毎日毎日肉ばかりだと健康が心配だ。さりげなく聞いたところ大丈夫そうだった。ギルドのメシは、ガッツリ肉!が売りなのだそうだ。


 街には良心的なお値段の食べ物屋も多く、おふくろの味的野菜もたっぷりな食堂もちゃんとあるから冒険者たちはその日の懐具合と相談して選ぶことができる。


 よかった!今度わたしも街の食べ物屋さん巡りでもしてみようかな!


 さて、実は今日は予定がある。ギルドマスターと約束があるのだ。なんだ、またかって!いや違う!そんなにいつもギルドマスターに会っているわけないだろう。なぜかって?だって相手は、ギルマスだよ!忙しい大人で偉い人だし!そんなに子供にばかり構っていられないでしょう。


 だけど今日はちゃんとアポ取って、立派な相談ごとがあって会ってもらうことにした。ギルドの人でもわたしはいいんだけど、窓口に話に行くとなぜかギルマスにつながっちゃうんだよねぇ!わたしのせいだというの!違うよ、きっと子供好きなんだよ。だったら早く結婚して自分の子を持ちなよ。とは思っていても言えない!


 まさか!わたしが可愛いから!サブっ!ヤァダァ!それじゃ変態さんだよ!って考えていたら頭にゲンコツが落ちてきた!


 「おまぇ、今失礼なこと考えてなかったか!」


 「イェ、ナニもカンガエテイマセン!」


 ともかく、ギルマスの部屋に移動し早速相談に乗ってもらう。

 「実は、いいこと考えたんです。」って言った途端に、ギルマスが全身で警戒した。


 「今度はなにをやらかしたんだ。」って、まだなにもやっていないし、その前にこうして相談にきてるっていうのにヒドイ!


 まぁ冗談はさておき。

 「実はとてもいい魔法ができたんです。ギルドマスター前に言ってましたよね。もっと宿舎の収容人数が増えれば、駆け出し冒険者たちも暮らし向きが安定させてやれるのにって!


 だから部屋数を増やす魔法を作ったんです。」


 「はっ?」


side あるギルドマスター???


 こいつ、ナニドヤ顔で言ってやがる!部屋数が増える!なにそれ!それだけ?いや!ナニか嫌な予感がする。


 話しながらアイデアが湧いてきたのか、ホテルでも役に立つし、難民とかの避難所問題も解決だし、それから突然の来客の対応とか、例えばご領主さまのところに、お偉いお客さまがたくさん来ちゃったりしたときの受入先とか!ねっ!とっても便利。って違う!やっぱり、落とし穴の匂いがする。


 一体なんでそんなこと思いついたんだ?


 するとますますドヤ顔で、なんでも雛鳥のクランで預かっていたクランメンバーの兄弟がきっかけだという。


 その日、預け先がなくてクランに弟を連れてやってきたメンバーのため、やむなく預かることにしたそうだ。遊び相手を務めていた、お休みのメンバーがやがて困った顔でリーダーのところにきた。


 かくれんぼしていたが、どうにも見つけられず何度降参だと大声で呼んでも出てこない、さぁどうしましょう?


 外に出ていないか確認すると外に出てはいけないことはしっかり認識していて、預けたクランメンバーもその辺りは聞き分けの良い子だからと言っていたそうだ。じゃあ、敷地内なのだろうが何人かに手伝ってもらい、騒がしいほど隅から隅まで見て回ってもいないのだという。


 実は預かるとき注意されていたのだが、弟はかくれんぼの名人で近所でも有名なのだそうだ。だからいくら誘われてもかくれんぼはしない方がいいと。


 かくれんぼの名人?


 ただ昼を過ぎグズリはじめて、やりたいやりたいと泣きつかれ結局かくれんぼをすることにしてしまった。まぁ子供同士のことだしなぁ…まぁ探してみるか!  


 とりあえずリーダーは、今クランにいる全員をまず1箇所に集めた。つぎに気配探査で敷地内を探すとおかしな場所に気配がある。あんなところに部屋はない。隙間だってないはずだ。床が抜けているとも思えないし。


 何人か連れて問題の場所に行く。一見何もない廊下だった。だがよくみれば、なんだか変なところに小さな扉が出来ている!えっ!あんなのあったっけ?これ、ネズミの穴?


 そばの連中に扉が見えるか聞くと、どうも見えないらしい。魔力の強いクランメンバーを連れて来させ、確認させるとぼんやりと扉が見えるような?気がする?という。


 あらかじめ扉のことを聞いてなければ、気がつけたか自信がないという。


 扉を叩いてみても返事がないし、気配が非常に薄いのでリーダーが開けてみることにした。気配が薄いのも当然で、ぐっすり眠り込んでいる。まずは無事で良かったが、これは注意が必要だし検証も必要だろう。


 今分かっていることは、魔力量で大きさが決まること。入れるのは作った本人のみ。出る時間を決めておけば、例え眠ってしまっても維持される。体調が不十分だと発動しない。


 その弟はアイテムボックスの魔法も使えるそうで、家では家族の手伝いで買い物や荷物持ちをよくやっているのだそうだ。


 弟が起きたので話を聞いてみると、扉の魔法は収納とは違う気がするそうだ。収納は仕舞う。扉は入る。ある時、かくれんぼをしていたら隠れ場所がないところに入り込んでしまい、なんとか隙間に入ろうとしていたら入っていた?という。


 それで、アイテムボックスの魔法や魔力の多いメンバーに試しにやらせてみたら、出来る者がいた。またはじめ出来なくても手応えがあったらしく、後日出来ましたと報告があった。


 リーダーも試してみて出来るのを確認し、そこから部屋数を増やす魔法を思いついたらしい。


 それで、相談の内容はいくつか魔法ができたのだが、そういう場合はどうするのがいいか?と…。


 とりあえずご領主さまに報告と、あとは魔法魔術技能研究所に登録のことなども含めて相談しないといけないだろう。


 やれやれ、しかし1人用の隠れ家?旅には便利だ。パーティではなくソロの連中だったら飛びつきそうな魔法だ。魔法が使えればの話だが。

 

 なに!魔導具に出来るかも?いやいや…勘弁してくれ!もうお腹いっぱいだよ!

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