第4話 辺境伯

side ある辺境伯???


 「その子供は7歳なのか?いや、年齢はもうよい。そんなに強いのか。いやそれも問題ではないのだな、そなたが来る時点で強いのだろう。


 ではこの件の問題は、その子供の力と存在、これから起こる現象への対処と影響か。


 しかしこう言ってはなんだが、まだ盗賊を退治しているだけであろう?」


 「お気持ちはよくわかります。しかし知り合ってそろそろ1年、しかもそれ以前から討伐していておそらくその数70件以上と思われます。


 駆除された盗賊はおそらく3000人近くにはなるはず。討伐記録を確認すると賞金のかかっていた首もあります。かなりの規模の盗賊でも退治されているのです。


 にも関わらず夕方にはギルドの宿舎に戻っており、朝もギルドで姿を確認しております。衣服も清潔で、怪我などの様子もなく、つまり非常に規則正しく生活しているのです。」


 わたしはつい呆れてしまった。いやいや、規則正しくって何だよそれ。


 「そうか、子供が規則正しく生活することは健全な成長のためにも重要だな。良いことではないか?」


 自分で言っててそうじゃないことはわかっている。

 「あぁいい、言うな!わかっている。つまりその子供は、長距離の移動手段を持ち自在に使いこなしていると。というか使い放題なのか?しかもたぶん時間があまりかからない移動手段で、もしかしたら瞬間的に国さえ超えて移動できるのではないか?ということか。その上、おそらく3000人規模の(死体)掃除もこなし、魔獣退治もやっていて、子供たちの面倒もみていると…どうやってだ!忙しすぎるだろう。」

 思わず吠えてしまった。頭が痛い。


 「そうです。普通の子供ではありません。考えれば考えるほど恐ろしいです。調べたところ、盗賊の被害者に話を聴けた場合と、被害者がはっきりしない場合があるのです。話ができた相手は比較的被害が軽微で逃げるように指示されてことなきをえています。


 被害者がはっきりしないというのは、詳細事態がはっきり分からずただ討伐の事実のみがある、といった感じで!盗賊のアジトまで確認するほどの念の入れようなら、捕らわれている人間を発見することもあるはずなのです。人を攫う輩も多い、70組以上の討伐をこなして1件も捕らわれた人間を発見していないとは思えません。


 助けられた人たちは何処へ行ったのか?まさか、まさかと思うのですがみな亡くなっていたり…。そんなことはないと思いますがこわくて聞いていないのです。」


 「何を情けないことを申しておる。問いただせば良い。なにか手助けできることがあるかもしれぬ。」


 もう謁見するしかないではないか!


side ある護衛隊長???


 はじめの話し合いでは謁見する案を検討していたが、なんだかもう全部見せちゃえ!みたいなギルマスのノリのせいで新人冒険者の合同討伐実践訓練を視察される運びとなった。


 なんだかすごい名前だ。はじめは大袈裟だなぁと思っていたが、まったく大袈裟ではなかった。ギルマスが頭を抱えるのも無理はない。


 その日は、雛鳥と若鳥を中心に新人冒険者が街の広場に集まった。雛鳥と新人たち、引率役の若鳥やギルド職員やクランに興味がある若手冒険者など。2000人近い参加者に警護も気を抜けない。なぜか広場周辺には屋台が出ており呼び込みをしている。


 「お弁当はいかがぁー!お弁当だよー!見物するにも腹は減る!腹持ちするよー!」


 「持ち運びしやすいパンはいかがぁー!焼きたてだよー!」


 「串焼きだよー!串焼き!サンドル名物じばしりの柔らか〜い串焼きはいかがぁー!」


 いったいなぜこんなに屋台が?見物?この訓練か?


 見ていると何人か屋台に向かう者たちがいる。そうなるとさらに屋台に向かう者が増えていく。ご領主さまから少し話を聞いてこいと目配せされて部下を向かわせる。


 なんでも雛鳥のリーダーから、当日参加人数が急に増えるかもしれない、すると飛び込みの者たちには食い物が売れるかもしれないから屋台を出せば売れるかもしれないと話があったらしい。余っても雛鳥で全て買うから気にするなということだった。


 さすがでかいクランだけあって気前がいい。しかしその指示を出しているのが若干7歳の女の子だと思うと背中がヒヤリとする。


 だが屋台を出している者たちは慣れているのか、さすがリーダー。当たったよ、と機嫌がいいようで話もはずむ。思っていたより売れているらしい。見送りに来ている親のなかにも屋台に行く者たちがいる。子供が手を引いてどこが自分のおすすめか話しているようだ。しかも金まで出している。たしかにあまり裕福ではなさそうだが!


 それにしても広場の中央に集まっている子供たちは、ほんとうに子供とはとても侮れない気配を放っている。広場に整然と並び騒ぎもしない。一様に真剣な面持ちでしずかに?(その割には闘気が漲り過ぎでは?)待っている。


 「お待たせして申し訳ありません。みなさん今日はご足労いただきありがとうございます。あと少しで点呼を始めますのでもう少しお待ちください。」


 挨拶のため近づいてくるのはとても可愛らしい女の子だった。ギルマスやギルドの職員たちに丁寧に挨拶をしていく。ギルマスがその子を連れてご領主さまのところにやってきた。


 畏まって挨拶をするがまったく怯えを感じない。身分が分かっていない類の無礼さや粗野なところもない。緊張はしていても慌ててはいない。不思議な女の子だ。


 まずギルマスから今回の訓練についてと、ご領主さまが視察されていることに御礼と諸注意があった。続いてギルド職員から訓練にあたっての注意と警告があった。


 点呼などもおわり事前にあった参加申し込みと照らし合わせ、現地で班分けなど行う予定。場所は街から歩いて1時間の森の外周部分だ。近頃ゴブリンの目撃情報もある。


 基本は雛鳥と新人のみで討伐を行う。日頃ダンジョンで活動することが多い子供たちに、街の外で闘う心得や注意を実体験させるのが目的だ。ダンジョンも危険だが外も当然危険である。規則性がない分ふいをつかれる危険が増し、疲労や油断、未熟さが命取りになりかねないフィールドでの戦闘訓練。


 こんなに幼い子供たちにやらせていいのかと実は思っていた。だが集まった子供たちの顔は、わたしのそんな思いが甘やかしではないかと反省してしまいそうなほど厳しく引き締まっていた。


 しかしリーダーがいよいよ前に出て来ると子供たちは態度を一変させた。みな顔を輝かせ、信頼されていると一目で分かる。そしてあの女の子の気配が一気に変わった!


 「みんな用意はいいか!準備に不足や不安のある者は帰れ!体調がよくない者、怪我が治りきっていない者もだ。確かにこの日のために訓練を積んできた!ダンジョンでも安定して闘えているし、より安全に外での戦闘を経験できる貴重な機会だ!


 だが、いつも言っていることだが今日も言おう!油断は即死だ!迷いも死だ!ためらいも死だ!やらなければやられる!二度と帰れない!お前たちは親兄弟を残して死ねるのか!」


 「否!」


 「必ず帰る!そのために必要なことはなんだ!」


 「「「気配を探ること!相手よりはやく見つけること!地形を把握すること!相手の特徴を相手より早く掴むこと!相手の強さ、はやさ、得意なこと!弱点を見つけ出すこと!相手の武器は何か!毒はあるか!空は飛ぶか!地面から攻撃はくるか!」」」


 口々に答えを返す子供たち。


 「そうだ、今いる場所、相手のこと!勝つためにはよく見て、工夫するんだ。自分のこと、パーティのメンバーのこと、強みと武器を生かせ!だがそれだけでは勝てても負ける!なぜだ!」


 「「「余力を残しておくこと!何かあったときに備えること!」」」


 「そうだ!闘って終わりじゃない!そして勝っても終わりじゃない!生き残れ!今日も!明日も!誓え!勝つために考え続けることを!誓え!生き残るために諦めないことを!誓え!」


 「「「「「誓う!今日も必ず生き残る!」」」」」

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