第3話 ギルド
side ある獣人???
奇跡だ。
俺たちは帰ってきた。帰ってこられたんだ。みんな泣いていた。そりゃそうだ、もう一度この国を見ることはできないとそう思っていたんだから。
こわかった。痛かった。言葉にできないほどひどい思いをして、絶望して弱っていたのに。もう死ぬんだと。やっと終われると思って、楽になれると思っていたのに。
生きていることを後悔しているかのようなことをいっているが、そんなことはない!
思い出したくもない目に遭った。忘れてしまいたい日々だった。できるならなかったことになってほしい。
でもなかったことにはできない、無理矢理にでもあの辛い日々のことは心の奥底にしまって2度と思い出したくないのは本当だ。
仲間の中には心が壊れてしまった者もいる。
それでも俺たちは帰ってこられた。あの日救われた者たちは誰ひとりかけることなく共に、もう一度祖国の土を踏めるのだ。
助けられてからも、本当に帰れるのか不安だった日々。
涙が溢れてとまらない。みんな歩くんだ!やっと帰ってこれたんだ。
side 主人公
地図に今回得た情報を書き込む。
獣人に会ったこと、あの国は獣人蔑視が強いこと。獣人の国のこと。
地図にはわかっている範囲の地形や国の名前は載っていたが、獣人の国とかはわからなかった。
もしかしてエルフの国もあるのかなぁ。とりあえずギルドに行こう。討伐してアジトを確認しに行くと、たまにあやしげな何かの書類とかが残されていたりする。
ちなみに魔法の腕前が上がったおかげか、現場保存の魔法が使えるようになった。指定した鍵がないと入れない仕様である。そんな魔法はない、とギルドマスターにいわれたが現にあるじゃん!できちゃったよ!それに保存は必要だろうし。とにかくもうあるんだから仕方ない。
あの日ギルドで再鑑定した日から、討伐したらちゃんと報告するようにしている。わたしはどうやら盗賊の討伐ペースが早いらしく文句?をいわれる。なぜだ!と思っていたら、わたしの活動領域が広範囲にも関わらず、いつもサンドルのギルドに話を持ち込むので忙しいらしい。
一応気を使って他のギルドにも行った方がいいか訊いたが、ややこしくなるだけだと却下された。
ええー、ならそれで!
また警報がきこえた。
side あるギルドマスター
このところ忙しい。理由はわかっている。あいつのせいだ。仕方ないのもわかっている。しかしそろそろ限界だ。
ギルド内ではおさまらない。でも滅多な相手には話せない。そこが悩ましい。以前少しだけご領主さまにお話ししたことがあるが、そろそろ本格的にご領主さまにあいつを拝謁させないとまずいだろう。
商業ギルドや職人ギルドはあまり関わりがないから今のところはただの大きなクランですむだろうが、活動範囲が広すぎて一国どころか大陸の半分くらいで戦果をあげている。こうなると、冒険者ギルド内で話を通していても目立たない訳がない。
現に魔獣と盗賊の被害が週単位で劇的に減少しているのだ。その中心がここサンドルだと調べればわかってしまう。
こうなると国を巻き込むのは必然で、あとはどこまで巻き込むか?やばいなぁ。これって、ただのギルマスの悩みじゃないよな!
どうして俺がこんな目に!ヒドイ!ただの小市民なのにィ。
side ある辺境伯???
この街はいい街だ。辺境だが比較的治安もいい。魔獣の被害もギルドのおかげで抑えられている。
近頃新しいクランがいくつか頑張っているらしく、景気も上向いている。
驚いたのはクランのひとつが、子供達のクランだということだ。冒険者になる子供が多いのは、親がいなかったり貧しかったりと厳しい現状の表れな気がするが幸いスラムに流れずにすんでいるようだ。
この街のスラムは他所よりも秩序が保たれているが、人の流れ次第で悪化することもあるから管理が必要だ。この後もしっかり報告させよう。
ともあれこの街は見習い制度が機能しているおかげで、基本的にはしっかりと手に職を持つ者たちが多いのはありがたい。領地が安定している要因だ。だが医療関係の人手不足は問題だ。聖属性はもちろん少ない上に、他の属性でも回復魔法に適正のある人材は目立たないせいか、育成はおろか発掘も難しいのが現状だ。冒険者の中の魔法使いの中に回復魔法を使える者が一定数いるのは、危険が多い職業だけに支援能力の高いサポーターは人気だからだろう。
そういえば今日は冒険者ギルドのギルドマスターが来る予定になっていたか。さて今回は何の話だろう。
side ある家令???
今日は、冒険者ギルドのギルドマスターが内密のお話をされたいとご相談がありました。
内密とはいえお相手は辺境伯、わたくしや騎士団長、護衛の隊長も立ち会います。
内密だからこそ知っておくべき立場の人間の中でも最上位のメンバーです。
いったい何事でしょう。近頃活発な魔石の取引と関係があるのでしょうか?魔石は例年一定数の取引がありますが、この1年ほどは量も等級も上位の魔石がかなり出回っています。素材も合わせて市場が賑わっており、いつまで続くのかあまり情報が集まっていないのが気掛かりでした。
それに治安が良いのはいいのですが、盗賊の討伐がかなり報告されているわりに怪我人の報告が少ない気がします。治安維持のための戦闘行為では、一定数の死者や負傷者の報告と対応におわれるものです。やむを得ないこととはいえ、残された遺族への補償などかなりの必要経費が掛かるものですからそのための予算もしっかり組んで備えているのです。
兵士たちに被害が少ないのは城で働く仲間として純粋に嬉しいことです。
side ある騎士団長???
冒険者ギルドのギルマスとは顔見知りだ。腕に覚えのある者同士、ある程度信頼もできると踏んでいる。
しかし今回の話はよくわからない。いったいどういうことなのか。ご領主さまの背後に護衛とともに立って控えつつ話を注意深く聞きながら様子を観察する。
「確認なのだがつまり今後も魔獣や盗賊の被害は減少する見通しで、それに伴い素材などの取引が発生すると見られる。
この辺りの治安が落ち着いた場合、今度は討伐の対象地域が拡大され最悪は大陸全土におよぶ可能性がある、というのか?しかもその窓口にこのサンドルが、ほぼ決まり?
そんな…まさか!」
ご領主さまが唖然として呟いた。
「ご領主さま、まことに畏れながらどうにもならない状況でして、どうか腹を括っていただけますか!無礼は承知の上。このサンドルは、台風の目になってしまったのです。それも知らない内に。どうか諦めていただくしかありません。」
「ギルドマスター、いくらなんでも言葉が過ぎるぞ。それほどまでのことならば、それ相応の覚悟もあるのだろうな!」思わずわたしも口を挟んでしまいました。
「もちろんです、騎士団長殿。あいつには止めることも諭すことも必要のないこと。すべてはあいつの好きにするだろうということ。そういう意味では天災にも匹敵するのです。
悪意はない、ただ規格外であり、常識の外であり、政治は受け付けず、悪意には死を持って報いるのみ。しかもまさにチリとなって消えるといいます。あいつがいうには、散々悪事を働いて報いがない訳ないだろう。手始めにまずは、育まれた大地に最期に感謝を表して土に還り大地を潤すのがただしい仕舞いのつけかただろうと」
言葉もないとはまさにこのこと。ほんとうにそんなことがあり得るのか?
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