第2話 討伐

わたし女神さまから好きにしていいよとお墨付きをもらっているのに、なんでこんなにあちこち飛び回って浄化しているんだろう。


 好きにしていいからこそなんだよね…たぶん。


 好き勝手に自由に思いつきでアレコレやってるのは強制じゃないからできるのだと思う。


 そうでなきゃ、休み無しの社畜みたいに警報が鳴るたびに駆けつけたりしない。自主的だからこんなに身体が軽いのかなぁ?


 ほんとにどうしてこんなことに!



 街と森との二重生活は意外に快適だ。森は静かで、生活空間を頑張って整えたから暮らすには充分だ。


 早朝の空気を感じながら散歩して、洞穴で簡単に朝食を摂る。煮込んであるスープとパン、散歩しながら摘んだ野草のサラダ。パンくずは、友人のごはんになる。


 今日も友人は来ているだろうか?洞穴の入り口近くに目つきのよくない小鳥がいる。鳴き声も聴いたことないなぁと今更ながら思う。パンくずをつついている姿にほっこりしながら、もっと仲良くなれたらいいなと思う。


 食事が終われば、借りているギルドの宿舎に転移する。今日の予定は、午前ダンジョンの3階層まで雛鳥のメンバーの引率、午後はフリー。明日は、午前フリーで、午後ダンジョンアタックでソロで行けるところまで行く。これは活動資金調達のため、っとよし、予定は確認したから待ち合わせ場所へ移動しよう。


 ギルド前の広場にはわたしと同じ引率役の人たちが待っていた。駆け寄ると元気に挨拶されてしまった。


 「おはようございます、お待たせしました。今日はよろしくお願いします。」とわたしも挨拶する。


 若鳥所属の冒険者で、10階層までなら問題ないレベルの人たちだ。若鳥というクランが出来て助かったことの中に、雛鳥の指導役や引率役を頼んで連携できるようになったことがある。


 ちなみに、指導役も引率役も手当てはちゃんと支払っている。彼らにも生活があるのだからそこはキッチリしておかないとね。


 このお役目は、ギルドの依頼の形式をとっている。準常設依頼扱いで、あまり高くはない。危険が少ないこと、冒険者たちのアタックとアタックの合間の休みの日などに軽く小遣い稼ぎする程度の負担感。かつ、後進育成に積極的に参加することで、ギルドの貢献ポイントも貯まる仕組みだ。


 わたしもいつもみんなを見ていられるわけじゃないから、協力してくれる大人がいるのはとても心強い。


 引率はいつも3人体制だ。何かあった時、すぐ動ける人と残って守る人。午前中の狩りも子供たちの連携が上手くとれて、なかなかの収穫があった。帰りたくないという雰囲気を子供たちははじめ出していたが、そこはみな慣れた引率役、子供たちに引き時の大切さをしっかり伝えてくれて助かる。今日の引率役はなかなか将来有望な人たちだ。


 あと少しで出口という時警報が鳴った。この警報は、わたしが設置したわたし専用のものだから、ほかの人には聞こえない。


 すぐに引率役の二人と子供たちに警報のことを伝えて離れる。雛鳥と若鳥の人たちは、わたしが巡回というか、呼び出されるのに慣れているし、理解があって助かっている。


 一応、加護を祈ってから離れる。この祈りは、気やすめに近いが効果はあるのできっとみんなを家まで守ってくれるだろう。


 人目につかない場所まで移動し転移する。


 そこはかなり混乱していた。盗賊と魔獣?使役獣!


 とにかく襲われている人と馬にシールドを張ってまず守る。つぎに、わたしの姿が見えないことを確認してから掃除をはじめる。


 討伐をはじめた頃は試行錯誤だった。魔法も使いはじめたばかりで、毎回試しながら討伐していた。


 正直グロいのは苦手だ。ホラーもスプラッタもダメなのに自分でスプラッタしてたら話にならない。


 というわけで目下この方法を使うことが多い。まだまだ工夫の余地はあるのだろうが。


 黒いモヤモヤが少しあるから、そこにはまず浄化の魔法を使う。その間にも盗賊と使役獣を拘束する。拘束する方法も、はじめは植物を使っていたが、土地というか場所に合わせて土魔法にしたり、氷魔法にしたりと魔法の練習も兼ねていろいろやった。


 ちなみに今日は空気の固定化だ。魔力制御のいい練習だね。


 使役獣と魔法使いの絆をわたしが上書きして解除する。すると使役獣たちは森に帰って行った。かなり傷だらけなのが頭にくる。随分とひどく扱われていたのだろう。そっと回復魔法を掛けておく。


 盗賊たちを一応鑑定し、残留思念を読んでやろうとしていたことなんかをザックリ確認する。救いようのないクズしかいなかったので心置きなく成敗する。


 はじめてのときは切り刻んだ。つぎの時は考えて頭だけ落としてみた。しかし結局、身体を始末しないといけなくて意味がなかった。


 そのつぎは、生命エネルギーを抜き取ってみた。抜いたエネルギーは大地に戻したが、残った盗賊の身体がなんだかアンデッドみたいになってしまい、これまた失敗を悟った。悲鳴を堪えて魔法をブチかまし爆散した。あれはダメだ。


 とにかく上手いことチリにしたいのだ。そこでつぎは、時間の加速か生命エネルギーの暴走を試すことにした。時間をいじるのはなんとなく怖かったので、盗賊たち自身の生命を一気に燃やし尽くしたら体だけ灰になってくれた。


 これはいいと思う。見た目がグロくないところがとにかく素晴らしい!あとに残った灰も大地になじみ土となる。還る場所としては上等だろう。盗賊たちの後始末も楽にできる。


 装備やなんだかんだは、クリーンと浄化を掛けて回収する。その後は魔力の痕跡などから盗賊のアジトを特定して確認する。たいてい何かあるのだ。見張りだったり、囚われている人たちだったり、強奪した金品やアイテムだったり。


 ただ今回は助けた人たちのフォローをしてからアジトに向かおう。


 今までのケースだとすぐに逃げてくれるパターンが多かったのだが、どうやら怪我人が多いため動けなかったようだ。


 周囲をザッと確認し、軽い目眩しを掛ける。目眩しにもいろいろあると思うが、今回のは周囲が薄暗くなり視認しにくくなる効果を狙っている。


 襲われていた人たちのことも一応鑑定し、特に問題がなかったので怪我人に回復魔法を掛けながら風魔法で盗賊の装備などを回収してから何も告げずにアジトに向かう。  


 アジトには見張りが二人。さっさと土に還して、中の様子を探査。もう盗賊は残っていないと思う。クリーンと浄化を掛けながら部屋を確認していく。


 金品や食糧は回収していく。書類や何かはギルドにこっそり提出している。わたしには判断がつかないものも多いから。


 奥に囚われている人たちがいたので、助けだしたのだが今までにないパターンだ。


 まず全員獣人のようだ。はじめて会ったかも。そういえばサンドルには獣人がいない?気がする。


 そして五体満足な者が1人もいない。ひどい、これはない。このままでは遠からずみな死んでしまいそうだ。


 ここには40人ほどいるのだが、もうわたしは心を決めた。


 エリアハイヒール、広域上級回復魔法。いきなり使ってどうなるか心配ではあるが時間に余裕はなさそうだからやる。  


 でもこれでは欠損は治らないはず。ひとりづつ回復魔法を掛けて修復していく。全員の治療が終わると呆然としている彼らをその場に残し、必要なことをしていく。


 まず消えた火をおこし食事の用意をする。


 人数分の服をかき集める。それでも不足している分は、過去に集めた盗賊の品物からだした。なにしろみなひどい格好なのだ。幸いクリーンでさっきまでの悪臭はもうないからそのまま着替えてもらう。


 武器が使えるか確認して、それぞれに男女関係なく装備を渡す。盗賊を討伐したこと。誰かがアジトに確認に来るかもしれないことを話しどうするか聞く。


 この国は獣人蔑視がキツいようで、みなすぐ逃げたいとのこと。ここから1ヶ月ほどかければ彼らの国に行けるらしい。


 わたしは彼らに食糧と水、あとは盗賊が奪った金品から必要に十分と思われる金額を渡して逃げるのを手伝うことにした。


 といってもずっと張りついているわけではない。きけば森を突っ切る方が祖国に近いというので森を勧めた。はじめは土地感もなく危険とされる大森林地帯に難色を示していたが、早く帰ることを優先したようだ。


 わたしも、何の当てもなく勧めたわけではない。森の中だと、頼み事をすると魔力と引き換えに手助けしてもらえるのだ。


 今回も彼らを送ってほしいと魔力を渡して頼むと受けてくれたので多分これで大丈夫だろう。


 欠損の回復、これはやらかしている自覚はある。


 でもあんなむごい目に遭うのは、罪を犯した罪人ならまだしも彼らはなにもしていないのだ。


 さすがにこれはこのままにはできなかった。そして治せるなら治してあげたい。


 もちろん世界全部を救うとか、聖女さまとかではないって知っている。わたしは自分の好きなようにする。わたしのチートは使い放題。


 まだまだわたしは自分の力をきっと使いこなせていないと思う。だから練習が必要だ。


 毎日練習して、もっと上達したいな。


 きっともっといろいろできるはずだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る