ボクハニンゲンヲヤメタイ【Bメロ】


 そもそも人は「お前は動物だ!」と言われたら動物になる生き物。人のDNAには『ドウブツニナーレー』という成分が刻まれており、これが刺激されることで頭から煙が発生。全身を包み込み、肉体そのものを別のものに変える。

 この煙のことを『顔面吐出スモーカー』という。実はこの白い煙、霊感が高まった状態でも見られることがあり、スピリチュアル的な意味も持つ。ユーレイとドウブツニナーレー、顔面吐出スモーカー、これらがどのような関係性にあるのかは分からないが、人間の生態系は実に奥深く、『動物になったよ。やったー現象』はこれからも驚きと発見を与えてくれることだろう。


 ――文――ソノザキシロウ――。


 コジカは走り去っていた。エドナンスは彼を追いかけることはせず、スマホで『動物になったよ。やったー現象』を調べていた。

 ソノザキシロウ? 確か聞いたことがある。自分の家族が全員フラミンゴになって、現在、片足立ち教室を東京で開いている人だ。

 スミンスの車で送ってもらう手はずがもうかなわない。コジカが車を運転できるわけがないからだ。いやそもそもスミンスは酒を飲んでいたからどっちにしろ無理だ。

 とエドナンスが思っていた時、タクシーがいい感じに通りかかり、手を挙げる。

 バタッ。ドスンッ。

 タクシーに乗り込んでからも、エドナンスはスマホを凝視していた。タクシーのおっちゃんは咳払いして、エドナンスがこちらを見るのを待つ。でも全然見ない。ならばこっちからアクションを起こすのみ。

 

「あの、お客様さん。目的地は……」

「ハウス!」

「はい?」

「ハウス!ハウス!ハウス!ハウス!レッツゴーハウス!」

「冷やかしなら降りてください。まともな人と話がしたいんですよ」

「私は人ですか?チンパンジーですか?ゴリラですか?」

「まともじゃない人です。そもそもあなたは人間以上の存在にはなれませんよ」


 放り出されるエドナンス。タクシーの運転手は見向きもせずに次なる客を探す旅に出る。分からなかった。動物に例えられなかったのがエドナンス自身でも分からなかった。

 ――あなたは人間以上の存在にはなれませんよ――。

 猿やチンパンジーが人間よりも上位の生物とでも言いたいのだろうか。知能? 人間には到底及ばない。人がこの世界を作った。文明を築き上げた。地球という星に色を与えた。

 でも他は……あれ? 水中で長く息ができるか? 限度がある。空を飛べるか? 飛べない。寒さを耐えしのげるか? 耐えしのげない。

 人には知能しかない。この頭があるから、今まで生き残ってきた。異論は認める。

 その結論に至ったとき初めてエドナンスは、スミンスのあの台詞の意味を理解した。そしてエドナンスは決意した。人間以上の存在になりたい。記念すべき初変身の舞台はあそこしかないとも。


 エドナンスは数キロ離れたコンビニに猛ダッシュし、メモ用紙とペンを購入。速攻でペンの包装を破り捨て、コンビニの窓ガラスを下敷きにして、ものすごいスピードでメモ用紙に何かを書き始めた。コンビニの店員がこちらを変な目で見ている。


 瞳がまん丸で猫に――。エドナンスは自分のほっぺたをぶったたいて、その考えを改めた。


「ITSUSEIESSFORSOMEONEOTHERTHANMYSELFTOBECOMEANANIMAL!」

 

 気分がHIGHになっているため、日本語がとっさに出てこない。運よく他人から動物に例えられることもなく、出勤前までコンビニの窓ガラスに張り付いていた。

 

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