使い道 【サビ】
結局シロエに何も言えない。ああ、本当に私の頭って馬鹿なんだなって思った。あと社長の秘書として会議に出席したのに、右腕だとちやほやされたのも結局シロエ。私のことなんか見てもなかった。おかげでカプレーゼがクソまずかった。
ごめんなさい。本当はこんなこと言いたくない。でも周りの環境で普段食べてるご飯がまずく感じるのはよくある話だと思う。別に作ってくれた人に感謝してないとかそんなことはない。
でもトマト何年ぶりに食べただろうとは思った。多分味のない食事ばかり続けてきて急にあんなもの食べたから、舌がどうかしちゃったのかもしれない。クソまずいは言い過ぎた。かなり言い過ぎた。反省する。
家に帰って暗い目でこちらを見る祖母さんに「ただいま」を言って二階にあがる。今日もその辺で取れた虫を食べている。どうせだったらカプレーゼを食べさせてやりたかった。
……まだ間に合うかもしれない。
私は何を思ったのか叔母さんに今日のことを話す。喉がチクチクするけど我慢する。
「叔母さん、今日シロエさんと一緒に仕事して、凄い久しぶりに豪華な料理がでてきたの。カプレーゼっていうんだけど」
「バカなの……」
おばさんの冷たい一言で私の喉が一瞬にして凍り付いた。
「自慢話をしにきたの?」
「違う、の。会食でいい、りょうり、が、あえっと……でてきて。もしかしたら余っているかもしれなくて」
「かも?余っているわけないじゃない。もう口きかないでくれる?これ以上馬鹿がうつりたくないから」
私は小さく、ごめん、とだけ呟くと二階に上がって自室に閉じこもる。書いてる途中の自作のミステリー小説を薙ぎ払い、頭を机にくっつける。ちょうど犯人が主人公の手によってあぶりだされるシーンが、壁にぶつかった衝撃で開かれる。
主人公は「わかったぞ」と呟くと、犯人を指さしてこう告げる。
『お前は犯行現場にわざわざ戻ってきた。つまりお前が犯人だ!』
ああ笑える。面白い、面白い。知能高めのキャラのつもりなのに逆に頭悪くなってる。面白すぎて涙出そう。
作者より頭の良いキャラクターは書けないといった人にはノーベル賞をあげたい。ほんとそのとおりすぎて。
だって原理的に無理。なんで限界超えられてるのって話。頑張って頭を良く見せようと思うと、今度はほかのキャラクターが返って馬鹿になる。永久機関の完成だ。
もしこの作品を第三者に見せたらこう言うと思う。頭大丈夫(笑)って。もちろん全然大丈夫じゃない。
※シロエ視点
今朝、胃酸菌感染者が牢屋に囚われたらしく、質問及びカウンセリングを窺おうと向かっている最中だ。もし検査に引っかからず入国してしまう危険性もあったと思うと、考えただけで恐ろしい。
「クッキーを食べさせたことがありましたね」
私からの質問にフレンはうなづいた。クッキーは、小麦粉、バター、砂糖、卵などの材料を組み合わせて作られる小さな焼き菓子。子供に人気だったお菓子のひとつだ。その時、エディナが窓を見つめたまま話に割って入ってくる。
「そういえば、ロンドさんは幾ら投資してくれたの?」
「ここで話すのはやめましょう」
病院関係者と全面協力でワクチンを作成することになった。投資金額は昨日の段階では不明瞭だったが、今朝金額がはっきりと分かった。
ここにはフレンとエディナ、運転手と三名の人間を乗せているため、簡単に情報を提示するのはまずいだろう。
「とうしって?」
「投資は見返りのありそうな人材にお金を貸すこと、かな」
フレンは投資という言葉に首を傾けていた。エディナがその質問に答えている。だがまだ疑問点は解消されないようだ。
「うーんと、みかえり?」
「例えば、友達がおいしいクッキーを作って売ってくれるとしたら、おこづかいを使ってそのクッキーを買ってみると良いでしょう。そして、その友達がクッキーをたくさん売ってお金が手に入ったら、あなたも少しのお金をもらえるかもしれません。これが投資の考え方です」
私がそう説明するとフレンは「ほっ、ほっ、ほっー」と首を上下させた。エディナはまだ景色を見つめ続けている。こちらからだと表情も分からない。数秒後エディナは一言だけ呟く。
「……なにそれ」
の太い運転手の咳払いがきこえてくる。これはとある合図だ。
「この話は終わりにしましょう。運転手さん、目的地までの所要時間はおおよそどのくらいですか?」
「あと五分程度ですかね」
「フレンちゃんごめんなさい。変な空気にさせて」
「えっと。私は大丈夫!エディナさんも元気出して!」
今回の感染者はベトナム人だということを聞いている。ベトナムの有名な料理にフォーグと呼ばれるのがある。フォーグは代表的なスープで、米麺と牛肉または鶏肉が入っている。様々なハーブやスパイスを添えて食べるのが特徴。代表的なトッピングとして、新鮮なタイバジル、コリアンダー、ミント、ライム、スプラウト、ホットソースやホイサンソースが挙げられる。
* * *
ベトナム人への質問及びカウンセリングが終わり、車に乗り込む。
「……シロエさん、どうでしたか?」
「答えてもくれませんでした。話せる状況ではなく、自殺を図っていましたから」
「……え?シロエ……」
「鉄格子に何度も頭を打ち付けて、大声を出していました。よって質問は不可能でした」
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