第20話
センリョウ・テック本社ビル、その正門。戦闘ドローンに加えて生身の兵士たちが守衛にあたるそこは、本社で各社首脳級会合が行われることもあり、厳重な警戒態勢が敷かれていた。
最初に異変に気づいたのは、戦闘ドローンの1基であった。本社ビル内にある守衛本部へと情報を送信しつつ、隣に立つ兵士に向けて音声を発する。
「11時方向、不審な音を検知。光学センサー異常なし。熱源探知、解析中……」
センリョウ・テックの戦闘ドローンは、万一ヴェロニカが反乱したときに備えて対吸血鬼探知能力が付与されていた。と言っても、聴音センサーとカメラ情報の不一致を検知し、大まかな位置を特定する程度のものであるが。しかし一度命令があればサブマシンガンの弾をばら撒き、吸血鬼を面制圧することが可能だ。
正門に立つ4人の兵士たちは緊張した。彼らのうち3人の両目はカメラアイに置換されており、吸血鬼は映らない。片目が生身のままの兵士は、注意深く周囲を見渡した。そして安堵のため息をついた。
「……異常なし」
正門前の道路は封鎖されており、通行人も排除されている。人影があればすぐに気付ける。周囲の兵士たちも肩から力を抜いた。
「まーた誤作動か、このクソドローンは」
「ビビらせやがって」
彼らはゲラゲラと笑い、ドローンを小突いた。ドローンの吸血鬼検知機能の誤作動は、今日だけで既に3回起きていた。どうにも遠方で行われている戦闘の振動による共振や、地下道を走るトラックからの振動を「足音だ」と認識してしまうらしい。
だが戦闘ドローンはこの時、さらに続けて警告を発した。
「1時方向、上方、不審な音を検知――修正、後方」
その瞬間、兵士たちの後方でズシンという、何かが落下――否、着地したような音が響いた。それと同時、片目が生身の兵士が悲鳴をあげた。
「うっ!?」
周囲の兵士たちが狼狽する。
「なんだ今の音は!? がっ」
「ぎゃっ」
「ッ……」
続けて、男の声が響いた。
「――嘘の報告をしろ」
兵士たちはこくこくと頷いた。ちょうど、守衛本部の管制から通信が入っていた。
『第6班、どうした。悲鳴が聞こえたぞ』
「……いえ、すみません。川島上等兵が屁をこいただけです。あまりにも臭かったので狼狽しました」
『……。川島上等兵、ガス兵器の使用許可は出していない』
「失礼致しました」
通信はそこで途切れた。
戦闘ドローンだけが警告を発していた。
「警告、警告、吸血鬼接近の可能性大」
「誤検知だ、黙れ」
兵士がそう命令すると、戦闘ドローンは黙り込んだ。
――今や、片目だけ生身の兵士の目には彼の姿が見えていた。外骨格を纏った男が、本社の中に歩いてゆく、その後ろ姿が。彼はヘルメットを着けていなかった。彼はちらりと兵士たちを振り返ると、その赤い瞳で兵士たちを見渡した。
「ちゃんと道路を見張っておけ」
「「「「了解」」」」
兵士たちは正門正面、道路のほうを向いた。
サムライの外骨格を身に纏い、レジスタンス兵の死体から拝借したアサルトライフルとショットガンを両手に持ち、腰に高振動刀を佩いたアスターは、ST本社ビルのエントランスへと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます