第26話

 一週間ぶりの本社だ。結局ドライバーの話は纏まらないまま電車で来たが、まぁいいだろう。今日は何か大きなものを持って帰るわけでもなさそうだし。

 

「あ、天野さん!今日もいらっしゃったんですね」


「はい、いつもどおりお願いします」


 いつもどおり受付の佐川さんにお願いして通してもらう。最近は佐川さんとも仲良く話せるようになってきたし、そろそろ学生の頃のように冗談の言い合える仲ぐらいの人がほしい。

 ほむらに連絡してみるか..?いや、あいつは俺のことを恨んでる可能性が高いな、なんかテレビで一回言及されたし。やめておこう。


「あそこのエレベーターからお願いします」


「はーい」


 いつも同じエレベーターを紹介されるが、いつも人が居ない。シャイな俺にはありがたいのだが、ここだけ人が居ないのは少し不安だ。本当に使っていいのかわからなくなる。恐らく男が使っている間は使用禁止とかビルの規則であるのだろうが。


『14階です』


 っと、ついたか。


「天野さん、お、お待ちしておりました」


 月見さんが迎えに来てくれた。いつも迎えに来てくれるがわざわざ手間かけさせたくはないなぁ。


「あの、月見さん」


「はい?」


「無理に僕なんか迎えに来てくれなくても大丈夫ですよ?」


 月見さんは一瞬固まって言った。


「私がしたくてしてるので大丈夫です。あとそんな自分を卑下なさらず!」


 なんて優しい人なんだこの人は...泣いちゃう。

 冗談は程々に、本当にこの人がマネージャーでよかったと二週間程で感じる。そんないい人が俺に付いてくれるなんて...俺よりもっといい人がお似合いだと思うが、残念ながらこれが会社か。


「いつもの会議室でしますね」


「はい」


 てか会議室ってこんな二人とかで使っていいものなのか?普通4人以上で使うものだと思っていたが。前世との感覚の違いかなぁ。いや俺は社会人じゃなかったからそもそもわからんけど。


「じゃあ今日は前回の配信の振り返りからしていきますね」


「はい」


 出されたコーヒーはいつも飲めない。猫舌なのとブラックが飲めないからだ。かと言ってそんなことを言うわけにもいかないのでずっとそのままである。


「っていう感じで、概ねイイ感じです。ただ視聴者のコメントをしっかり読まず答えちゃってたりするのを直していってほしいのと、距離感をもうちょっと近づけたほうがいいかなと。姉妹が居るというのが分かっているので姉妹と同じくらいに!」


「は、はい」


 なんか圧を感じたが気のせいだろう。月見さんに限ってそんな圧なんてかけないはず。


「もう少し細かな部分を言っていくと―――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る