39 スイマセンッ。

 続いては商売道具の確保。これはやっぱり錬金術ギルドになるのかな?


「そうですね。基本はマニキュアのものが使えますが、立体的に塗れる塗料となりますと新規開発になります」

「ン・シーたちも練習が必要」

「ですよね。そういったものがある、って知識だけですし」

「なるほど」


 技術取得に開発となると──とかムニャムニャ言いながら、思考の海へ潜っていくカリーチャさん。正直言ってメッチャカワイイ。

 ン・シーも僕をツンツンしながら、カリーチャさんのほうに視線をチラッチラってやってる。


 ネコが2足歩行する系の、アニメ映画から出てきたような女性だよ。しかも大学卒業の時にかぶってるような帽子付きで、深刻な顔して腕組んでムニャムニャ言ってるんだもん。そりゃあカワイイさ。


 そういえばあの帽子って、なにか意味あるのかな?

 使い切りそうな消しゴムとノートがモチーフ?


「1人心当たりがありますので、そのかたにお願いしてみましょう。ネイルのデザインに関しては問題ありませんか?」


 デザインはン・シーのデータバンクに入ってると、自信満々なので問題はなさそうだ。カリーチャさんは部下に指示を出して、お店を建てるのに必要なものを手配するように言ってる。内装とか現代日本風だしな。そして僕らに向き直って、錬金術工房に行きましょうと声を掛けてきた。


 スピーディである。


 あ、はい。としか言えないようなキビキビ具合だよ。途中で美味しいお菓子屋さんとかを教えてもらいながら向かった先は、ナーテさんの実家だった。


「腕がいいんですよ」

「実は知ってます」


 スキンケア商品を買いに来たことがあるからね。


「あら? カリーチャ、いらっしゃい」

「こんにちは。ご主人はいらっしゃいますか?」


 出てきた奥様がナーテさんのママさんか。上品な感じの奥様だ。奥様っていうか、ナーテさんのお姉さんと言っても通じそう。


「あ! 出たわね~? ウチのお転婆を更にお転婆にした犯人じゃない」


 お上品ではなかったようだ。これは4番ナーテさんのママッ。


「欲しがりさんはナーテさんでしたし」

「ぐうの音も出ないわ……」


 会ったことないのに分かるんだって思ったら、どうやらよく話のネタにされてるみたいだよ。僕とン・シーは。


 カリーチャさんには意味不明な会話だったので、あらましを伝えておいた。冒険者ギルドでこ、この娘さんとはよくやり取りしてるとか、偶然買い物に来たらその娘さんちだったとかね。


「でしたら話は早いですね。ご主人へ商品に関する開発の依頼です」

「どうかしらね。最近は化粧品にも時間を取られてるから」

「パイアさんのお店は、1歩先のオシャレを追求するものなんです」


 にゅふふって笑ってるカリーチャさん。

 1歩先のオシャレという言葉に、ピクリと反応するナーテママさん。


「少なくとも、私は初めて知ったものになります」

「これはちゃんと話を聞く案件のようね! 主人も呼んでくるわ」

「奥さんを巻き込んだので、もう我々の勝利です」

「パパさんに主導権がないのは、この世界でも一緒?」


 ン・シーのそんな質問にはNOが返ってきたけど、ここのパパさんは奥さんと娘には弱いんだってさ。逆に父親に主導権がない世界なんてって、ビックリされた日本の民の僕たち。


 た、たぶん時代的なものがあるんだと思うけど、お父さんってあんまり主導権ないよね?

 たぶんだけど。


「ついでだし、あなたたちも食べていきなさい」

「あら、よろしいのですか? ありがとうございます」

「いいんですかねえ?」

「ン・シーは匂いが許可していると判断っ」


 それは匂いに釣られてるだけだよ、ン・シー。


「何事かと思えば、またお前たちか」

「ええ。商売道具の制作をお願いしようと思いまして。ここに来たのはカリーチャさんのおすすめだったからですね」


 僕のせいじゃないよー。って遠回しで言っておく。


「冒険者が、か?」

「家をもらう条件が、お店でエダのおすすめスポットを増やすことだったんです」

「うん。領主様は素人に無茶を言うっ」

「それで奥さんなら店舗経営の経験もございますし、パイアさんにレクチャーすることも可能かと判断しました」


 僕らは冒険者だしなあ。経験者だったんなら、時間の合うときに教えて欲しいと伝える。そしてパパさんにはアイテムの制作を依頼した。立体的に塗れる塗料とかネイルチップ、それから接着剤だね。


「そんな緩くてもいいのかしら?」

「時間の合うとき、ですか?」

「そうよ。普通はもっと貪欲に行くものでしょう?」


 それはそうなんだけど、開店はしばらく後のことになるんだし。冒険者である必要性というか。


「それはまあ、私の種族的な制限といいますか──」


 ガーディアンの血液じゃないと、エネルギーの補給が足りないことを伝える。


「最低でも週1ですね。戦闘行動を取ると4日ほどで足りなくなります。マフィアの血じゃどれだけ取っても、たいして役に立ちませんでしたし」


 って余計なことを追加してしまったせいで、ドン引きされました……スイマセンッ。


「ま、まあそういうことで、ダンジョンには定期的に潜らなくてはいけませんので、お店の経営に集中できないんです」

「ガーディアンの血液のほうが、人より高エネルギーということなのか」

「ご主人、今そこは重要ではありませんから」


 ピシャリと言い放つカリーチャさん。

 おつよい。

 研究の方向性を元に戻した。


 で、結局どんなオシャレをするのかってことを見せるわけなんだけど、ネイルに関しては課金する項目なんてなかったので、僕自身が頑張ってやるしかなかった。

 色々と鍛えてきた操血ではあるけど、爪を盛るのはなかなか難しかったよ。


「今は私の血だけなので赤1色ですけど、実際はカラフルなものになります」


 ラメってたりメタルってたりね。キャラのネイルなんてのも見たことあるな、そういえば。


「普通の塗料に関しては問題ないだろう。マニキュアのものが使える」

「立体的にするほうよね」

「乾燥すると固まるものじゃないとダメなんです」


 じゃないと彫刻みたいに削ることになっちゃうし。それに立体的にといっても、若干こんもりさせるくらいだしね。


「レリーフのようなものでしょうか?」

「あ、それかもです、カリーチャさん」


 話を煮詰めていく段階で問題になるのが、やっぱり盛り塗料だった。ネイルチップと接着剤は問題ないそうだ。


「時間をもらうことになるかもしれんな」

「最初はなくてもいいかもしれませんし、大丈夫ですよ」

「ですが、できることならオープン初日には用意したいと、私は考えています」


 カリーチャさんは容赦しないようです。これはお任せしたほうがいいかもね。一応、領主絡みの案件でもあるしな。流行しないと家を取り上げられるという、可能性だってあるかあ。


「あと小っちゃい子供にも注意する。ン・シーは最優先事項として議題に乗せる」

「そうですね。販売時の注意としておきませんと」


 赤ちゃんの誤飲とか危ない。店内に注意事項として、ポスターみたいなのでも貼っておくのもいいかな。口頭で伝えるだけじゃなくてさ。


「ではまずご主人にはネイルチップ、マニキュア、接着剤を用意していただきましょう。そして──」


 僕とン・シーは練習と、ママさんから店舗経営のことを勉強するように言われた。あとデザインもかな。


「場所はどうしましょうか?」

「ここでやればいいだろう? 工房の空き部屋を用意する」


 厚意に甘えることにした。日時は今日からでいいかとカリーチャさんに聞かれたが、それはなしの方向で。


「すいませんが後日にさせてもらいます。そろそろ血が足りませんので、今日からオークダンジョンに行きますので」

「それは致し方ありませんね」


 ダンジョンから帰って来たら、いつでもいいから来なさいと言われたので厚意に甘えることにしたよ。

 ただ──


「凄く楽しそうねえ。私も参加したいわ? ね? ねっ?」


 ──ママさんの参加も決定した。僕らが戻ってくるまで、ネイルのデザインをしてくれるそうだよ。ン・シーがどんなものがあるか教えようとしたら、ここはあえて自分のセンスでやってみるってさ。


「ふっふっふ、ママさんの実力を見せてもらいましょう」

「恐れおののくがいいわっ」


 ノリノリだなー。3日くらい潜る予定なので、4日後にまた来ると約束した。では僕たちはダンジョンへ行くとしましょう。



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次話はすぐに公開します。

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