38 ニャンコの獣人さんと仲良くなれそうです!

「んっ。ン・シーはアップグレードっ!」


 シャキーンとポーズを決めるン・シー。ベンチの上でそれは、お行儀が悪いですわよー。まあテンションが上がるのは分かるっ。アプグレだしな。


「どうなったんですか?」

「より深い情報が閲覧可能になったっ」

「例えば?」


 チャンプ肉のどの部位を使えば、より美味しくなるのかとか。

 ハンバーグにするならなにが最適かとか。

 ケーキに使われてる材料が、どこ産なのかとかも分かるらしい。


「つまり私のレシピに載ってるものが、どこにあるかも分かりそうですね!」

「分かる。見たら……」

「見たら……」


 どこにあるのか分からないから、産地が知りたいのにね? 気まずさがあったのか、キョロキョロするン・シー。ハッとした表情を浮かべ、教会の人も知らない情報を口にした。


「神様のシンボル、天地海を司る原初の3神様。創世の陣っ」

「真ですか!?」


 最初の3人の神様が世界を創ったというのは、知られていたそうだ。でも長らく謎だった、シンボルの意味が発覚したっぽい。陣っていうくらいだから、神様の魔法陣なのかもね。


 神話時代には魔法があったとか?

 ロマン成分が増えたな。こっそり使えるようにならないかなあ、魔法。やっぱりサンダー系魔法が使いたいよね。勇者力の雰囲気が上がるし。カッコいいし。

 血を抜かなくても、痺れて行動阻害できるのもいいんだよな、サンダー系ってさ。


 ン・シーがもみくちゃになってるけど、これ以上の情報はないようで解放されるのはすぐだった。それでも研究は進むだろうということで、凄い感謝のされかたをしてて困ってるよ。


「まあまあ、みなさん。ン・シーが困ってるから、それくらいで許してあげてください」

「そ、そうですな。お恥ずかしい限り」


 神父さんも落ち着いた。

 でも大発見なら仕方がないって、僕もン・シーも分かってるからね。


「うん、ダイジョブ。チョット恥ずかしかっただけ」


 そろそろ夕ご飯の時間なので帰ることにする。「またお2人でいらしてください」とのことだけど、言われなくてもまた来ると思うので、イエスの挨拶を返して教会を出た。


「ビックリしたっ」

「ねっ。鑑定結果のことは、あんまり口に出さないほうがいいのかもしれません」

「そうするー」


 変なところに大発見が潜んでるかもしれないよ、この世界。ダンジョンコアとか、核宝石コアジェムとかさ。

 そうなるとガーディアンからも、なにか分かるかもしれないよね。


 ン・シーとのんびり3日ほど過ごして、そろそろオークダンジョンへ狩りに出かけるか~、となった日。冒険者ギルドでギルマスに呼ばれた。マフィア退治の報酬が決まったそうだ。


「インゴット1個と大金貨5枚か、新区画での家、どちらかですかあ」

「そうだね。家にすると条件も付くし、少なくとも2~3ヶ月は時間も掛かるだろう」

「庭付き1戸建てを買うとなると、どれくらい必要ですか?」

「購入は……難しいよ? ほとんど埋まっちまってるんじゃないかね」


 中古物件なんかも、リフォーム必須で結局は大金が必要だろうとのこと。住めるところには、既に住人がいるだろうってさ。

 だからスラム潰して新区画ということなのか。外壁を新たに作って、更に新区画ってよりは楽なのかな?


 報酬をもらって宿暮らし継続か、しばらく待ち状態か。アパートみたいな所に引っ越すなら、宿暮らしのほうが楽だしなあ。それくらいの収入はあるから、アパート暮らしで節約することもないよねえ。


「家をもらえる条件ってどんなことなんでしょう?」

「領主が言うには、なにか商売をやって欲しいそうだ」

「私たちが?」

「そ。異世界人であるアンタたちが、だね。違う発想や目新しいものが、アイツは欲しいらしい」


 できれば、それ目当てでの観光客というか、他の街からの客も増やしたいそうだ。エダの街は都会ではあるものの、推しがないんだって。カッサの街には異世界情緒あふれる、アイテムが出るダンジョンがあるから観光客も割といるらしい。


 道に迷わなければ、もっとパイアちゃんを着飾れたかもしれなかったのかあ。でもそうなったら、異世界人の僕は埋もれてたかな? ガチャも盛況じゃない可能性だってあるよね。エダの街が正解だったということか。


「どうするの? パイアお姉ちゃん。サロン開く?」

「家欲しいですもんね」


 この前、話の流れで出たネイルサロン。実行するには人も足りないよなあ。僕らはダンジョンにも行きたいんだし、店となると結構困る。


「しかし店を開くというのがネックです……」

「アイデアがあるなら、人を雇うって手段もアリだよ」


 働き手はいくらでもいるさ、だって。スラム潰すんだから、そりゃあいそうだけどねえ。でも人を雇うのはイヤかなー。

 新婚気分を味わうのに邪魔なのだよ!


 お店はあくまでオマケで、僕たちが欲しいのは家なんだし。


「ン・シーはどう思いますか? 流行すると思います?」

「ン・シーはイケると思う。だって見たことないキレイがあったら、欲しいもんっ」

「何事もチャレンジですかね。分かりました! お店を開きましょう」

「ならあとは商業ギルドの領分だね。これ持って行きな」


 と、書類を渡された。


「ダンジョン行く予定だったんですけどー」

「こういうことは早いほうがいいんだよ」


 うぬーっ。


「サロン開くなら錬金術ギルドとも相談がいるよっ!」

「そうですね。盛るタイプの素材とか、人体に影響ない素材とか。そういえば脱着関連も必要ですね……訓練もですか。確かにやること多いですし、テキパキ行動を目指しましょう」

「楽しそうだし、いい方向に向かうだろうさ」


 ってギルマスに言われた。だといいけどねえ。僕は商業ギルドと錬金術ギルドの場所を聞いて、さっそく行くことにした。まずは商業ギルドでお店に関することを決めなきゃね。どうやらこの書類によれば、お店の場所は指定されてるみたいだし、そこは問題なさそう。


「おはようございまーす」「たのもー」

「おはようございます。本日はどのようなご用向きでしょうか」

「えっと、私たち──」


 新区画でお店をと言おうとしたら「新区」の辺りで止められた。こちらにどうぞと、奥へ通される。VIP待遇な気分になる~。

 あと秘密なのかな? 新区画のことって。


「お手間を取らせてしまって申し訳ございません。スラムについての一般開示は、もう少し先のことになりますので」

「あ、そうなんですね。書類を先に出すべきでしたか。これ、お願いします」

「確認させていただきますので、少々お待ちください」


 お茶でも飲んでてって、ケーキまでセットで出てきた。


「あ、これあそこのケーキだっ」

「相変わらず美味しいですよねえ。また予約入れておきますか?」

「毎日でもいい」

「だーめ、ン・シーの量は迷惑になりますよ」

「あら、もしかしていつも大量にご予約される?」

「え、商業ギルドにまで知られてるんですか?」

「直営店ですので報告は受けておりますよ。いつもありがとうございます」


 なるほどー、直営店ゆえに材料の確保が容易なのかもしれないね。僕が食べてた日本のより美味しかったからなあ。日本の1級品と同等か、それ以上の可能性ありだよ。

 僕は高いの食べたことないので、定かではないが。深夜バイトの時の廃棄で食べるくらいだったし。


 確認も終わったようで、店の規模を聞かれる。


「ン・シーたち初めてのこと。分からないことだらけっ」

「たぶん2~3人がテーブルをはさんで対面に座る程度の場所と、材料のストックを置く場所くらいで平気ですよね?」

「たぶんっ!」

「あ、ネイルチップに盛る作業場も必要でした」

「それ、一番大事っ」


 まだ爪に直書きは、まだなしで。慣れ親しんだあとのほうがいいんじゃないかと。

 材料は、マニキュアとネイルチップ、あと筆? くらいだろうしそんなに場所は取らないはず。


 フムフム聞きながら、絵を描いている。設計士なんだろうか?

 机と椅子はもう少し高く、とか光の射す明るい空間とか、壁は白がいいよね~とか、ン・シーやギルド員さんと話し合いながらお店の絵ができていった。


「マニキュアの1歩先のオシャレですかあ。素敵ですね!」


 この人も楽しみになってきたみたいだ。


「私が担当でもよろしいですか?」

「もちろんです!」


 ド素人にも真摯に向き合ってくれたしね。むしろお願いしたいです。


「カリーチャと申します。今後ともよろしくお願いしますね!」


 ニャンコの獣人さんと仲良くなれそうです!

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