35 いや、つ、ついっ、急だったから、つい同意しちゃったんですっ!
ダッシュで地下へ向かうと、足止めのつもりか10人が通せんぼしていた。もしかしてこの先に出口があるのかもな。
「ボス、幹部、共になし」
「なにが嬉しいんでしょう? ニヤついちゃって」
「好きにしていいと、お墨付きが出たからなぁ」
そんなようなことを口々に、近づいてくる。
フム。
「ン・シーがやるっ」
ニュルっと敵に接近したン・シーが、蛇拳特有の尖らせた指先で軽く突いていく。
「じゃ、見てますね」
まず3人が昏倒した。不思議だ。漫画とかアニメの世界に生きてるなあ。とか思いながら、順次血抜きする。次々と転がって来るので。
「チョットだけカワイソウな気分になりました」
「えっちが目的。容赦なしでオッケーとン・シーは判断。可能な限り痛くしたっ」
すごく弱かった。中ボスの、取り巻きの、子飼いの下っ端的なヤツらだったんだろうか?
その隙にボスたちは先に進んでいる。ジワジワと吸血してるから、経験から判断するとそろそろ体調不良になる頃だと思う。
「追いかけましょう」
「うん」
ベルグレパーティもコッチに来ると連絡があったので、地下通路の分岐点には向かう先に印をつけておく。どこに向かってるんだろうね?
隠しアジトとは違う場所に、ボスたちは向かってるようだ。
「ボス専用の隠れ家があるのかもしれません」
「ボスなら1つや2つ、持ってるべきっ」
「ふふっ、なんですか、ソレ~」
「ボスの嗜み~」
悪趣味なソファとか持ってるんだよーとか、ン・シーが立派な悪役のボス像を語ってくれた。まあ、確かに変な黄金細工とか持ってそうだけどさ。
「もう近いですね」
「うん。ちゃんとボスもいる」
苦しそうな息遣いも聞こえてきた。
「ボスッ、先に行ってください!」
「チィ……追い付けよ」
「必ず」
「えーっと、雰囲気台無しにして申し訳ありませんけど、逃げられるとお思いですか?」
逃がす予定ではあるんだけど。さらなる財宝を求めてェ!
視認できたので、ボスにくっ付いていきそうな4人に向かって、血のナイフを投げつける。もちろん、細い糸で接続したままなので外す心配もない。
「まずは4体、成敗完了です」
「おのれッ」
「殺せ!」
激高するボスと中ボス。
「仲良しこよしですか? 悪事を散々働いておいて? 自分たちだけは許されると考えてるんでしょうか?」
「パイアお姉ちゃん、とりあえず手前からやっちゃおうよ!」
「そうですね!」
あんまり煽ると逃げ出さなくなりそう。仲間想いだもの。「ボスは逃げてください」「だがッ」とかやってるんだよな。そんなのいいから、さっさと行けばいいのに。僕とン・シーは圧倒的な力の差を見せるべく、手前にいる戦闘員を蹂躙することにした。
悪鬼のごとく立ち回る。
僕の周りに、血の鞭を螺旋状に回転させてカッコいい盾にする。そして4本のブラッドウィップ・ヘッジホッグモードで惨劇を生み出すのだ。
にこやかにね!
ン・シーは虎拳で圧倒的な破壊力を壁や床に与えて、ビビらせる作戦のようだ。もちろんニッコニコの笑顔。
「クソッ、クソオォッ! 絶対に通すなっ!!」
「残念ですがこのパイア、まかり通ります」
「後詰として俺たちも参上!」
しかし諦めることなく、行く手を妨げようと奮闘する幹部と、その取り巻き。忠誠心が高いな。謎のカリスマが、あのボスにはあったということなんだろうけど……僕には分かんないところかな。
「パイアお姉ちゃん、終わったよー」
「ン・シー、ナイファイっ! ボスもどうやら目的地に、たどり着いたみたいですね。この先がボスの隠れ家かな?」
「どこだ? パイアちゃん」
広げられた地図と、血の糸を照らし合わせる。
「川、ですか」
「街からの逃亡を選んだみたいだな。足止めを頼んでいいか?」
「拘束と瀕死がメニューにありますよ」
「瀕死で」
「では早々に」
僕は入り組んだ地下道を道案内をしながら、ボスの血を奪って昏倒させた。
いっぱいやったので、コントロールはバッチリです。図らずもマフィア戦は、血抜きの練習になってしまったようだ。
「ここです」
地上へ続く階段の手前に、いくつかの部屋が設けられていた。中を見ると、荷物が満載だったよ。箱や袋を開けて中身を確認すれば、硬貨や食料、ポーションや粉薬に武器などが満載。
地上に出てみれば、頻繁に使っていたであろう様子がうかがえた。船もちゃんと整備されてるし。商売の相手は別の街だったみたいだね。
ベルグレさんは、ザルデルさんに連絡を入れてた。
「向こうも終わったそうだ。ボスと幹部を詰め所まで運んでくれとさ」
「漁りたいですねえ」
「やめとけ……」
ちぇー。ダンジョンに潜るほうが冒険って感じだなあ。儲けという面では、たぶん貴族からの依頼がオイシイんだろうけど……目の前のお宝を持ち帰れないなんて、心がざわついちゃうじゃん?
「お宝がぁぁぁ……目の前の私のお宝がぁぁぁぁ」
「パイアお姉ちゃんのじゃないしっ」
「ほら、さっさと帰ろうぜ! 祝杯をあげよう、祝杯を!」
「私、ほとんどお酒飲めませんし。ビミョーなんですけどぉ」
「ン・シーが守る。安心して酔っぱらうといい」
ぐずったところでお宝が持ち帰れるわけでもなく。ほどほどに文句を言ったところで、マフィア数人を引き連れて帰還することになった。運びやすいように簡易担架を血で作る。
この程度のものなら、未課金でもサクッと作成可能だね。
「何気に便利だな、パイアちゃんの血ってよ」
「ええ。
「真面目な話、我々のパーティに入りませんか?」
そう語り掛けてきたのは、ベルグレパーティの頭脳って感じの人。今までは「おうっ」とか「おおっ!?」みたいなのしか聞いたことなかったけど。
彼、ホファンさんの言うところ、僕らのパーティは運搬能力に難があるのではないか。ということだった。それは確かにそうなんだけど、僕らは特に他人を求めてないからねえ。
「ウチのサムネイなら運搬力もあるしよぉ、もっと稼げると思うんだがな」
「確かにムキムキさんですけど、パワーという面でなら私たちも異常ですよ?」
「いえ、サムネイは運搬系の能力者ですから」
ニカッ、ムキッ、としたあと、不自然な感じで5体のマフィアを運び始めた。なんにもないのに、まるで台車に乗せているかのように。
「不思議っ!!」
「どうなってるんですか、それ!?」
「俺たちのパーティ、サンセットに入ってくれんだったら教えるぜ!」
「いや、入りませんよ?」
「うん、入る必要性ない」
「ハハハ、やはり駄目ですか」
「まあ分かってたけどなあ。残念だ」
本気ではなかったようだけど、ワンチャン狙っていたみたい。しかし今更僕らが入っても、動きづらくなりそうだけどね?
野良だったらまだしもさ、パーティの方針なんかも絡むし。パーティを組むのはなかなか難しいものだよ。今はゲームじゃないしな。
「今回みたいに野良パーティを組むなら、参加することもあるでしょうね」
「んー? ホントにぃ? パイアお姉ちゃんなら、出し抜いて全部ゲットとか狙いそうと、ン・シーは考察したっ」
僕もベルグレさんも、ン・シーに同意した。
いや、つ、ついっ、急だったから、つい同意しちゃったんですっ!
僕の推しであるパイアちゃんが、僕のせいでどんどんポンコツになっていくカナシイセカイ。
「パイアお姉ちゃんは、昔からこんなのだよ?」
「オカシナ話ですね?」
運営の用意した設定では、もっとできる女の子の設定だったのにな? この摩訶不思議な事態を吟味していたら、憲兵隊の詰め所に到着していた。
「や、お疲れさま」
「おう、兄貴もな」「お疲れさまでーす」
「そっちはどうだった?」
「パイアちゃんのお陰で、だいぶ楽に進んだな」
「マフィアには強いのいませんでしたしね」
貧血状態にしたら、更に戦闘力ダウンだよ。デバフは怖いのだ。
「へえ、それは有事の際に協力を仰ぎたいね」
「あんまりしたくありません……お宝スルーがこれほどまでにツライとはっ」
「まだ言ってるっ、パイアお姉ちゃん、めっ!」
「ムー」
みんなは平気なんだろうか?
僕なんて断腸の思いだったというのにさ。
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あとがき
読んでいただきありがとうございました!
私に乗り移る予定だった異世界人様とつくる妖精郷 ~万能作業台はチートだそうです~
https://kakuyomu.jp/works/16818023212806311871
コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)
https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380
こちらも読んでいただけると嬉しいです!
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