36 知的なパイアちゃん、只今見参ッ。

「お宝を目の前にして持って帰れないの、みなさんは平気なんですか? 心がざわつきませんか?」


 欲しいけど、僕ほどじゃないって……そんなバカな。


「パイアお姉ちゃんは欲深いの、ン・シーは知ってるからダイジョブ」

「なにが大丈夫なのかよく分かんないけど!?」

「ン・シーに任せるといい」

「は、はぁ……そうですか? じゃあ任せます」

「相変わらずだな、お前ら」


 なんか呆れと嫉妬の気配を感じた。だが諦めて欲しい。性格は変わらないし、僕もン・シーもお互いが大事なのだ。他人にはなびかないんだぜー。

 というか知らない間に、頭脳担当風優男のホファンさんが頭脳担当っぷりを発揮して、ザルデルさんに報告をしてくれてたみたいだ。


「完全にお任せしてしまったみたいで、申し訳ありません」

「いや、交渉事はホファンに任せるのが1番いい。責任は俺が取るって感じだがな」

「やはり見た目通りの頭脳担当ってことですね」

「知性があふれてるっ!」


 メガネか?

 やはりメガネのせいか?

 僕もメガネを掛けたら知性的になりそうだな。


「どうですか?」


 操血で、見た目だけ課金メガネを構築。知的なパイアちゃん、只今見参ッ。レンズなしの伊達メガネになっちゃうのは仕方なし。


「知的。見た目だけだけどっ!」

「お、おう」

「やはりメガネもいいですね。ガチャで狙うべきかもしれません」


 次の冒険のことをン・シーと相談してたら、ザルデルさんとホファンさんの話し合いも終わったようだ。


「パイアさん、地下通路のマップとか覚えてらっしゃいますか?」

「大丈夫ですよ。血の糸を残して来てるので」


 覚えて帰るより楽かなーって思ったしね。報告も必要だろうってことで、残していたのだ。


「おお、助かるよパイアちゃん。教えてくれないかい?」

「ハーイ」


 少しスペースを空けてもらって、そこに血でマップを構築すると「おおっ」と声が上がった。便利でしょ? 実は今思いついただけなんだけど。最初は僕が書くつもりだったからね。

 でも書くより血で作ったほうが楽って気付いた。


「メガネ掛けて知力が上がったようです」

「ン・シーもスクショ撮りたくなったっ!」


 ン・シーは知的な僕が、お気に入りのようだ。


「そういえば家電が使えるかもしれませんね。もしかしたら、ですけど」

「そうなの?」

「電池だって消耗品ですし」

「耗のカテゴリーっ!」


 それにさ、人力の発電機が当たれば、スマホとかも充電できる可能性があるしな。発電機とセットでusbハブも入ってたらいいんだけど、どうかなあ。

 人力の発電機は大変らしいけど、僕らのアンデッドパワーなら可能性は無限大だよね。でもできれば足漕ぎタイプを願うっ。


「しばらくは核宝石コアジェム稼ぎに精を出しましょう」

「うんっ。スマホ欲しい」

「タブレットでもオッケーです」


 でもネットがないと起動もできないのかな? どうなんだろう……スマホゲットできてもゴミになる可能性もあるか。

 そうなるとデジカメがベター? うーん、出たうえで試さないと分かんないな。

 まだ可能性だけ、だな。


「よし、写し終わったようだね。ありがとうパイアちゃん」

「どういたしまして」

「報酬のことだけど──」


 冒険者ギルドに入金してくれるそうだ。すっかり忘れてたけど、預けてたらギルドカードで買い物とかできるんだった。金のインゴットとか大金貨なんかは、額が額だし預けておいたほうがいいな。

 ベルグレさんらもギルドで祝杯をーとか言ってるし、その時に預けちゃおーっと。


「じゃあ兄貴、俺たちはもういいよな?」

「ああ。残念なことに、あとはこっちの仕事だね」

「では私たちもこれで。お先でーす」

「ザルデル、ガンバっ」


 まあ明日には解放されるだろうってさ。そしたら改めて祝杯を上げようと誘われたので、参加はすることにした。さすがにスルーだと、人でなしな気がするし。

 通信機を返して、ギルドに向かいまーす。


 白み始めた空の下、動き始めるエダの街。結構みんな早起きなんだね。お店とか、もう準備を始めてるよ。これは活気があるってことだよな。ここらは戦闘職とかギルドの従業員向けだから、まだ動きが少ないのかも?

 中央区とか、居住区の近くだとゴチャついてるかもね。朝市的なさ。


「あれ? パイアさんたちじゃん。オハヨー」


 シャーっとキックボードで爽やかに登場したのは、ナーテさん。こんな時間に出勤しても4番目とか、冒険者ギルド……ブラックなのでは。


「おはようございます」

「ホントに早いっ」


 まだ夜明け直後だよ。この前も思ったけど、やはりデキル女と言うヤツだったか。ナーテさんはエリート。エリートブラックだ。それを証拠に、彼女はお先にーって行ってしまった。身体には気を付けて欲しい。


 僕らは仕事終わりなので、のんびり歩いた。程なくして到着すると、冒険者ギルドには人が増え始めてる様子。冒険者肉の塊も、すぐに出来上がるだろうといったところ。


「どうせ混雑するし、俺らはメシにしようぜ」

「賛成っ!」


 夜通し働いてたので、さすがにお腹も空くだろうな。僕はつまみ食いの1日だったので平気だけど。まあ血の補給だったし、ご飯にしたい気分ではある。美味しいを堪能したい。


「すぐ満腹になるのが残念です」

「ン・シーのをチョットずつ食べるといい」

「あ、ナイスアイデア! お願いしますね、ン・シー」


 甲斐甲斐しくあーんしてくれるので、甘えてしまおう。人前だと少々恥ずかしいけども。


「ククッ、知的だったパイアちゃんは消えちまったな」

「もう1回知的モードになりましょうか?」

「新鮮だったから、ン・シーは知的モード好きー」


 では要望に応えて、知力アップメガネ(見た目だけ)を装備しましょう。


「お似合いですね」「ああ」


 ホファンさんと、サムネイさんにも好評のようだ。まあ分かる。僕も好きだから課金したんだし。ただ、現実になった今は、鏡がないと見れないのが残念だよ。


「パイアさん、イイじゃないのソレ!」

「でしょう?」


 ナーテさんが来た。


「俺らになにか用事か?」

「ええ。ギルマスが呼んでるわよ」

「依頼完了報告のあとにしようと思ってたんだけどな」

「じゃあ呼んでくるわ。徹夜したみたいだし、ギルマスもなにかお腹に入れたほうがいいでしょ」

「そうだな、そうしてくれ」


 僕の中でエリートブラックのナーテさんが、彼女の株価を上昇させていく。気遣いもできたのかあ。


「4番さんの印象が、最初とはかなり変わってきましたねえ」

「ねー。家でもポンコツ臭出してたけど、実はデキル女っ」


 なお、株を下げ続けてるのは僕です……。メガネの重要度が上がってきたな。せめて見た目だけでも、知的になろう。そのためには、やはりダンジョンだ。

 核宝石コアジェムの稼げるダンジョンに籠るのがいいだろう。


 ただ、現実となったことで、お風呂問題があるんだけどね。そこも含めて狩場に籠るとなると、今のところはオークダンジョン1拓かな。他の場所は行った回数が少ないからさ。水場の場所とか把握できてないんだ。


 稼ぐだけってなると、ロボのところが良さそうではある。だけど血の補給ができないっていう、デメリットがあるから除外するしかないよ。たまに稼ぐならいい場所ってことだな。


「や、お疲れだったね、アンタたち。滞りなく処理できたようで良かった」


 テーブルに乗ってるチキンを、ヒョイパクしたギルマスが席に着いた。ベルグレさんら、サンセットの頭脳担当であるホファンさんが、ここでも活躍し始めた。分かりやすい報告だなあ。


 聞いているとどうやら、現場では僕の操血が鍵だったみたい。だけどそれまでの下準備(僕らが潰したマフィアの時のも含め)があったお陰で、マフィアがそれぞれのところに集結しつつあったようだ。


「私たちは脳筋戦法でしたね」

「ねっ」


 ン・シーとボショボショ会話する。これが知力の差かあ。行き当たりばったりだもんね、僕らって。

 でもそれでいい。驚きと感動があるはずだよ!


 それでいいのだっ!

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