33 頭使っちゃダメェ。

「俺らも作戦を決めとこうぜ」


 ザルデルさんは制圧班チームなので、憲兵隊詰め所に帰って行った。冒険者チームの僕らは、まだギルマス部屋にいる。


「そう、ですね」

「作戦? パイアお姉ちゃんが暗殺。終わりってなるだけっ」

「そうでしたね」

「物騒な話をここでするんじゃないよ!?」

「相手は麻薬に誘拐、殺人もやってますよね? 遠慮することはありません」


 それこそ駆逐したって問題ないでしょ。


「それで、実際はどう動くんだ? パイアちゃんたちは」


 んー、そうだねえ。マフィアのアジトが判明してるし、中にいるヤツはほぼ壊滅させていいよね。ほぼっていうのは、チョットだけ逃がせば他のも釣れるんじゃないかという思いがあるからだよ。


「そうしたら末端まで駆除可能じゃないかと」

「その糸ってのはどの程度使えるんだい?」

「どうでしょ? 今まで尾行は発覚したことはないですけど、ベルグレさんたちだけはトラップを抜け出しましたね」


 実際に血の糸を使って見せた。


「これは……確かに見つけるのは難しい」

「この程度のフォースじゃ、紛れちまうしな」

「あとはこのまま対象の血を抜いて終わりです」

「10人ずつだから効率もいいよっ!」

「ベルグレ、アンタは本当に要らないんじゃないか?」

「俺もそんな気がしてきた」


 でもまあ誘拐された人たちが、いる可能性もあるので不要ってこともないと思う。あ、待てよ?


「ベルグレさんたちが、マフィアをアジトに集めてくれると、更に効率が爆上がりしそうな予感がします」

「なるほどな。だったらよ──」


 わざと取り逃がすのは末端じゃなく、ある程度は上の方のヤツらがいいんじゃないか、という案が出た。

 確かにそれなら、悪事の繋がりが深いヤツらにも届くか。


「でも他の街や国に行こうとしたらどうします? 商売の先が他国なんてありそうじゃないですか」

「それは始末していいそうだ。あくまでこの街の安泰ってことだな」


 やはり貴族社会でもあるし、領主より上位が関わってると擦り付けられる可能性も出てくるってさ。


「了解です」

「とりあえずはこんなもんか? 糸付けて尾行可能な状態になったら、教えてくれ」


 追い立てるのに使えそうだからだって。早いほうがいいらしく、夜でもいいから連絡してくれとのこと。これから帰って休むそうだ。今夜からは動きっぱなしになるかもしれないから。


「私たちも寝ておきましょうか、ン・シー」

「そうだね。夜の集合はここでいいの?」

「いいですか?」

「地図もあるしな! いいだろ母ちゃん」

「……会議室を開けておくよ」


 ここはダメらしい。

 じゃ、本番に備えて宿に戻ろっか。ギルマスに挨拶をして宿に向かった。対毒装備がないとはなあ。なってないっ。なってないファンタジー世界だね!

 回復ポーションが万能という線もあり。正常な状態に戻す作用がある、って感じの効能なのかもしれない。聞いておくべきだったが、まあ今夜にでもベルグレさんに聞こう。


「寝れますかねえ」

「お風呂入ればワンチャン?」

「そうですね。そうしましょっか」


 そして発揮されるこの身体の高性能っぷり。寝ようと思えば寝れるし、起きようと思ってる時間になればスッキリ目覚める。


「神様ありがとっ、だね。パイアお姉ちゃん」

「ホントホント。また教会に行ってお礼しましょう」


 僕らは愛し子って存在らしいが、実感を伴ってるとね。いかに無宗教の日本人だって、これはお礼は言いたくなるし、言うべきだ。今回は儲かると思うし、寄付も多めでいいかもしれないなあ。


「新しい人生は楽しいです~」

「ン・シーも~」


 というか、僕って死んだのかな? 全く覚えがないんだけど。


「ン・シーは私のログイン履歴とか分かります?」

「……分かる、けど……知らなくてもいいと、ン・シーは考える」

「んーー……それもそうですね。今更どうしようもないことですし」


 推しキャラ転生という豪運を、謳歌したほうが建設的ってヤツだ。


「ン・シーの準備は完了」

「おっけー。じゃあ行きますかっ」

「おー」


 僕らも見張られてる可能性があるので、闇に閉ざされた細道から空に。高度を取れば分からなくなるでしょう。目的地であるマフィアのアジトへ向かって進めば、10分程度で到着した。

 マフィアの名前も聞いたんだけど、忘れちゃったのだ。


「前回と同じく、屋根裏からで」

「んー」


 僕らは耳も高性能だからね。会話は拾えるのだ。2階にいるのは幹部連中っぽいね。憲兵や制圧班が結構動いてるから、念のために資金を分散しておこうかみたいな話をしてる。


 それは探す手間が増えるので、明後日くらいにしてくんないかなー。明日には攻め込むからー。って考えながら、糸をくっ付けていく。


 憲兵が動きを隠してないのは、一網打尽を考えてるからだろうか。そのほうがマフィアも戦力を集中させそうだしな。こっちのマフィアは、狙ってない風を装ってるはずなので、コイツらの動きは若干緩慢なのかもしれない。


 資金の移動にも人員は必要だし、構成員を招集するようだ。


「ボス」


 ってところでボス登場。

 ボスにもペターリ。


「ジェロームんとこの噂は聞いてるな?」

「はい」

「警戒しておけよ。憲兵どもの動きが胡散臭い」

「わ、分かりました。そのことで資金の移動を考えていたのですが」

「……そうだな。資金だけじゃなく売りもんも移しておけ。早めにな」


 あちゃー。頭使っちゃダメェ。これはしばらく待って、移送先も突き止めておく必要ができちゃった。

 ン・シーもしょうがないって顔してるよ。


 これはベルグレさんらに、行ってもらうのがいいのかなあ?

 僕らのほうがいいのか……迷うね。機動力的には僕らの方が上だけど、ベルグレさんらがアジトを担当したら、逃がす調整も難しそうだしさ。


 それにアジト、めちゃくちゃになりそうだし。証拠とかも必要だと思うしね。とりあえずは待ち。幹部の部下、中ボスの取り巻きが現れるのを待って、糸を付けて上空から尾行開始。


 場所を確認したので、僕らはギルドの会議室に行くとしましょ。ベルグレさんに連絡するのは、そのあとで。なんていうか、そのぉ、通信機の使い方が分かんなかった。


「こんばんはー」「こんばんはっ」

「あ、パイアさん、ン・シーさん。話は聞いています。こちらにどうぞ」


 深夜も普通に営業してたんだな。ギルドはどこも24時間体制とかかね?

 なにかあった時のためにとか。

 案内された部屋には、ベルグレさんがもう来ていた。


「よっ、首尾は?」

「バッチリ。ただ面倒なことにですね──」


 資金とかの移送が開始されたことを伝える。しかも5か所もあるんだよねー。なので、効率的にいくなら僕とン・シーが隠しアジトを回るほうがいい。飛べるから地形を無視できるし。


 ちなみに運搬役の中ボスの取り巻きは、オークダンジョンから逃がした5人だったよ。確かにアイツらなら移動が速いしな。その他に、待機させるためか3人×5か所分の人員も移動していた。


「欲を言えば本拠地を漁りたいですけどね!」

「確かにパイアちゃんが言うように、俺たちがボス相手のほうが良さそうだな」


 さすがに5か所もあると時間が掛かるってさ。仕方ないから諦めるよ。これは僕らだけでやってる作戦じゃないしなあ。領主絡みだから、余計なことはしないほうが身のためだよね。


 ベルグレさんに隠しアジトの場所を伝える。この近辺をうろつくと、マフィアの警戒度が上がって、また余計なことをする可能性が上がるだろうし。さらに別の場所に移動とかされると……な。


「俺たちは程々に知られる感じで、聞き込みを開始すっか」

「その前に通信機の使い方を教えてください」

「普通に受け取ってたから使えるのかと思ってたぜ……」


 ポチって押したら使えると思ってましたー。

 ポチる場所がなかったんですー。

 ダイヤルだった……。余計なことをすると、繋がりそうだから弄るのやめたんだ。説明を受けてからって思ってさ。


 通信機の番号に合わせたら、相手と繋がるってさ。ザル&ベルの兄弟に、割り当てられた番号を教わった。これで相手の動きを伝えられる。

 むむ? これは追加情報で注意するヤツらを伝えておく案件発生。


「本拠地には足の速い5人が戻ってきました。追跡と運搬系の能力者がいるかもなので、明日は気を付けてください。たぶんアイツら戦闘には参加しないで、隠れてると思いますけど」


 ダンジョンのとこでも、そうだったしね。不利になったら速攻で逃げたし。


「了解だ、パイアちゃん」


 僕らは動きを監視するという、退屈な夜になりそうです。資金の移動があったからザルデルさんにも伝えておくか。無力化したあとにでも、憲兵を送ってもらったほうがいいしな。


「お話終わったなら食べ物買ってくるっ」

「あー、ずりぃぞ! ン・シーちゃん」

「ン・シーたちの任務、大事なとこ終わったっ。当然の権利~」


 ン・シーに釣られて、モグモグしながら聞き込みするなよお?



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あとがき

読んでいただきありがとうございました!


私に乗り移る予定だった異世界人様とつくる妖精郷 ~万能作業台はチートだそうです~

https://kakuyomu.jp/works/16818023212806311871

コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)

https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380


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