32 そこっ! うんうんするな!

「ギルマスが呼んでるわよ」

「私、なにも悪いことしてませんけどっ!?」

「うん。パイアお姉ちゃんは恥を晒しただけっ」


 ン・シー、それは僕が傷付く。やめて。


 話を聞くと、別に叱られるわけじゃないみたい。ザル&ベルの兄弟もいるってさ。これはつまり、マフィア案件ってことだろう。4番ナーテさんに誘われるまま、マスター部屋に。


「パイアさんとン・シーさんは、なに飲む? お酒はダメよ?」

「それくらい分かりますよ。仕事中にー」

「ン・シーも分かる。でも分かってない人、1人。おそらくギルマスであろう人っ! ン・シーの鼻はごまかせない」

「義母上……」「ギルマス……」「母ちゃん……」

「バレてしまっては仕方がないな。そうだ、私が冒険者ギルドエダ支部のギルドマスターだよ」

「そこじゃないですー! そこじゃないですーっ!」

「ねっ! ベルグレとザルデルの母。そこに驚きがあるとン・シーは分析っ!」

「「ねー」」

「今の流れはお酒を咎めるところでしょ」

「うむ、まあなんだ、とりあえずパイアとン・シーは掛けなさい。飲み物は適当に──」


 話の内容は、やっぱりマフィアに関して。なので僕は昨日あったことを、3人に改めて伝えた。15人で攻めてきたとか、移動と尾行の能力者は逃がしてアジトを見つけるために使ったとか。


「ただ、想定外のお酒の弱さに気付いたのも昨日でして……付けてた糸が外れてしまったので、今夜探しに行こうと思ってました」

「うん。だいたいの位置が分かってるから、あとはン・シーの鼻で見つけれるっ」

「たった2人でかい? それは危険だろう」

「いえ、義母上。前回も2人で終わらせておりましたので」

「だなあ。この2人、ムチャクチャなんだよ。気にしなくていいぜ?」

「話題のルーキーには、話題になるだけの力があるってことか」


 僕的には血のある生物ならカモだしね。そして前回のマフィア戦、制圧班に応援を頼んだのは正解だったみたい。そのお陰で、僕らだけならどうとでもなると思われてるようで、マフィアもたいした警戒をせずに動いてるようだ。


 僕らを攫うためにね。


「私のなにがそんなに魅力なんでしょうねえ」

「そりゃあ能力だろうよ。ガチャだよガチャ。あたしも酒を当てたいね」

「そんなにですかあ?」


 そんなに、らしい。それこそ僕の能力なんて手足なくても発動可能だし、搾り取れるだけ搾るつもりなんじゃないかってさ。

 携帯食や自転車なんかは、特に需要が出そうだとのこと。他にも色々ありそうな能力だしってことみたい。


「パイアちゃんは金のなる木ってことだよ」

「なら根こそぎ潰しちゃっていいですね」

「そこでだが──」


 ベルグレさん曰く、残ってる2つのマフィアを同時に殲滅してしまえ、ってことになったらしい。1極集中しちゃうと、それはそれで面倒なことになるだろうからなあ。残党も集まりそうだし。


「制圧班と冒険者チームに分かれて駆除することになった」

「勝手に話を決めてきやがって、このバカ息子が」

「まあ大丈夫ですよ、義母上。パイアちゃんは強い」

「だよな兄貴! 俺らはパイアちゃんのムチャクチャぶりを知ってっからよ」


 えー他の冒険者と共同戦線するのかあ。


「儲けが減るね、パイアお姉ちゃん」

「ですよねえ。他の人はいりませんよ?」

「ほらみろ母ちゃん、こんなんだぞ?」

「そこまでなのかい?」

「ラッツォのところの上位陣は、全員瀕死で発見されました。制圧班への協力要請は、誘拐された人の──」


 ザルデルさんの説明で、僕らのやり口がバレてしまった。


「そうでしたっ! お金もらってもいいですよね?」


 まだ使ってないけど、返せって言われても返したくないのだー!

 でも増えた。

 え? マジですか? 貴族って金持ってるんだねえ。


「貴族怖いです」

「お金持ち過ぎるねっ」

「いやいや、パイアちゃんがマフィアを絞めたから得られたお金だよ、それ」

「ああ、そっから出してるだけだな。つっても大金貨5枚はやりすぎな気もするが」

「それだと少ない気がします! もっともらえてもいいのではありませんか?」


 僕は懇切丁寧に説明を受けた。マフィアを一掃するのは資金調達と、クリーン化。なるほど、スラム街もなんとかしたいってことは分かったけど、それ以外はよく分かんなかった。貴族の権力闘争的なヤツっぽいし、関わることはなさそうだから良しとする。


「ちぇー。だったら新しくなった区画に、家を1個もらいたいかもです」

「パイアちゃん……」「欲深いなお前」「強欲だよ?」

「自転車もそうですけど、ものが増えてきたら宿だと置き場に困るんですよねー」

「まあ、領主にはあたしが聞いといてやるよ。無理言われてんのはこっちだしな」

「よろしくお願いします」

「つっても冒険者側は、俺らとパイアちゃんとこだけで済むだろうに」

「私たちだけでもいいんですよ?」


 ザルデルさんとギルマス的には、せめてもう1パーティ追加したいみたいだった。でも残念ながら今はいないんだって。ハンドレットがいたら良かったのにと、ぼやいてる。


 それはお許しください。ハンドレット先輩方の名前を、まだ憶えてないので。

 戦士女子でリーダーのアニヤさんと、騎士女子のイルジナさんだけなんだ。


「いっぺんに名前は覚えられませんので、ハンドレットの方たちが未参加はセーフです」

「パイアにもダメなところはあるんだな」

「パイアお姉ちゃんは、むしろ強ポンコツだよっ!」


 そこっ! うんうん・・・・するな! そこがいいとか言うんじゃあない、ザルベルコンビめ。僕はVじゃないぞ。うんうんが許可されるには、サブスクとスパチャが必要なのを知るべきさ。


「では作戦決行は明日の深夜ということで、これを渡しておくよ」


 おー、通信機か。さすがに耳に着けるようなサイズではなかったけど、これがあるならタイミングも合わせられるね。制圧班は残りのマフィアのアジトを把握しているそうで、僕らを襲ったほうのアジトも教えてもらった。


 今夜にでも糸をくっ付けに向かいますか。ついでだから対毒装備のことを聞こう。このメンツなら詳しいことも知ってるだろうし。


フォースだな」

「出ましたね、力業……空気中に散布されるタイプだと、どうするんですか」

フォースで覆う範囲を広げて、現場から離脱だよ」

「あとは神官か回復ポーションだね」

「撒き散らすタイプは見たことねぇなあ」


 自分で毒を喰らうからだって。それこそブレスを吐くような、大型で凶暴なガーディアンくらいしか散布型はいないんじゃないかってさ。ってことになると、あの紫オークは珍しいタイプだったのかもね。


「武器じゃなく、手のひらから出した毒を塗られましたし」

「なにぃ? パイア、詳しく話せ。難易度の変更もあり得るぞ」


 ギルマスが険しい顔して詰め寄って来るので、詳しく話した。


「エサになったってお前……」

「パイアちゃん、なにやってんだよ」

「なあ、俺らのパーティに入らないか? アブネェよ!」

「なにも問題はありませんでしたので」


 問題があったのは僕の行動、油断ですー。


「うん。今はン・シーもいる。ダイジョブ」

「「ねー」」

「そいつ1体だけか?」

「今のところは」

「しかし義母上、危険度は増していますよ」

「そうだな。40体程度のコロニーで生まれるなら、もっといてもおかしくはない」


 難易度の上昇が決まった。難易度が★でも行く人が少なかったのに、★★になるとますます人は遠のきそうだな。


「人がこないなら、私たちが独占できますね」

「うん。美味しい狩場。チャンプ肉も美味。買った調味料が猛威を振るうっ」

「「「がめつい」」」


 動物系じゃないのが難点だけど、血の問題もあるし仕方ないことは伝えた。

 ちゃんとね!


「あっはっは、受付嬢から話は聞いてるよ。エッチな気分だろ? まあ気を付けるんだな!」

「ちょっとおっ!」

「パイアちゃん、もう有名だぜ? ギルドではな」


 ザルデルさん曰く、憲兵のほうにまで流れて来てるってさ、この話……。なんということだぁ。


「話題に事欠かないよね、パイアちゃんって」


 親子でうんうんするな!




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あとがき

読んでいただきありがとうございました!


私に乗り移る予定だった異世界人様とつくる妖精郷 ~万能作業台はチートだそうです~

https://kakuyomu.jp/works/16818023212806311871

コロロの森のフィアフィアスー ~子エルフちゃんは容赦なし~(完結済み)

https://kakuyomu.jp/works/16817330652626485380


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