31 にょこりじぇんぶしゃしあげましゅじょ!

「そういえば、なんで私がマフィアに狙われてるんでしょうね?」

「んー、やっぱりガチャじゃないかな?」

「いいものは、なかなか出ませんが」

「ガチャマシーンと、えっちマシーンにするっ」

「そ、そんなことになったら、ン・シーはエッチマシーンだけになりますよっ!?」

「ムッ? 確かに。鑑定は他にもいる……やっぱりマフィアは殲滅が正しいと、ン・シーは結論を出す」

「さんせーい!」


 ガチャとエッチだけのための、マシーンにされるのは御免だっ。

 殲滅は正しい判断だ。っていうか簡単に人攫いを実行しようとするんだなあ。すぐに発覚しそうなのにね?


「貴族絡みだったりするんでしょうか」

「そうなると面倒だね」

「ベルグレさんの依頼主のほうが、立場が上だといいんですが」

「領主様より上がいるかな?」

「他所の街に売るでしょうし、可能性はありです」


 たぶん……。


「そうなってくると王都って線が高くなりそうだねっ」

「ねー…………相手は到着したみたいですね。動きが遅くなりました」

「はやー」

「こっちはまだ半分くらいです。まあここまで来ると、血の残量は心配無用になるので、殲滅決行は今日じゃなくてもいいかもですね」

「ザルデル案件にするの?」

「う、うーん。文句言われそうですねえ」


 幸か不幸か、門のところの憲兵隊詰め所には、ザルデルさんの姿はなかった。一応、マフィアにまた襲われたと伝えておく。調べてないからアジトかどうかは分からないけど、逃がしたヤツらが向かった先は判明していると言っておく。


 ベルグレさんにも伝えたほうが良さそうなんだよなあ。彼のは領主案件だしさ。ギルドに居ればいいけど、どうかな?


 オークの核宝石コアジェムを15個売って、2個は食べ物でガチャすることにした。ラーメン狙いです。なので1個ずつ分けて出してもらう。安いほうが出やすいだろうしね。


「醤油! 醤油!」

「カ・レ・エ! カ・レ・エ!」

『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!

 トレジャー! オア! トラァァッシュ! コンヤ テメェラガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 残されたダンボール箱に飛び付く、醤油を求める僕とカレー狙いのン・シー。中身は残念ながらラーメンじゃなかった。

 陸自レーションモデルの煮込みハンバーグ4個セット。それから缶ビール350ml24本入り。

 なんか飲兵衛セットっぽく出てきたなあ。


「冷やせる能力のかたはいませんかねえ」

「ここで飲み食いするの?」

「ベルグレさんにも伝えておいたほうが良さそうですし、少し待ってみようかと」


 ダメでした。

 訓練場だと邪魔になるってさ。大人しくイートインスペースで、飲み食いする。冷えたビールは最高ですー。


「冷えたビールは最高でしゅ~」

「パイアお姉ちゃん、お酒弱いっ」


 そうかな?


「しょうかにゃ? うー? しょうかもぉ?」


 ろれつが回らない。しかもなんかあっつい。


「りょれ……りょれ、りょれちゅ……あちゅい。ンーーーー、あにゃた! しょう、あにゃたれしゅ! おれーのビールをしゃしあげましゅお~」


 冷やしてくれたからね! お礼はちゃんとしないと。


「ほりゃあっ、もってけドリョボー。んん。あんまりにょまにゃいしぃ、にょこりじぇんぶしゃしあげましゅじょ!」

「うん。ン・シーも構わない」


 遠慮しなくても良し! ほら持ってけー。箱で出てきたけど全部売るで良かったかもなー。


「おしゃけ弱い、分かってたりゃじぇんぶ売ってたあ! かえしぇっ!」

「パイアお姉ちゃんがダメになった。今日は帰る。ガチャはなし。バイバイー」


 待てー、ビールを返してもらって売るんだから! 待てー、ン・シー。



「時が飛んだと思える状態だったら、良かったんですけど……」

「昨日の、覚えてる?」

「ええ。バッチリ」


 ゆえに! 朝から顔がポッポポッポしてるよ。


「パイアお姉ちゃんのおねだりは、破壊力満点だった」

「ぅぅ」

「お酒は飲まないほうがいいね」

「そうします」


 決定だね。まさかビールをちょこっと飲んだだけで、あんな酔っ払いになってしまうとは思わなかったっ。

 ギルドではフニャフニャ言っちゃったしなあ。なんというか、恥を撒き散らして生きてる気がする。


 そして酔っぱらった僕は、オークの血でできたブラッドスライムを、全部体内に……。エッチな気分で酔っぱらったまま。

 つまり…………自分の痴態を全部覚えてるのって、JI★GO★KUッ。


 気を付ける。口にするのはとっても簡単。だがしかし、僕には難しい行動のようだ。ちくしょー。

 諦めて、今日の予定を決めるため、朝ご飯を食堂で取りながら相談することにしたよ。


 せめて活力を。


「一番問題なのが、付けてた糸が外れてしまっていることです」

「予感はあったっ。昨晩はフニャフニャだったもん」

「アジトらしき場所は覚えてるので、夜になったら行ってみましょうか」

「ベルグレがザルデルに協力してもらう案は?」

「確定してからでもいいような? ン・シーなら臭いで判別できますよね」

「うん」


 大まかな場所は僕が分かるし、そこからはン・シーが追跡可能だ。見つけ次第、もう1回糸を付けちゃえばいいだけだしね。

 夜からの行動はこれでいいとして、今からどうしようか。


 血の補給ができるダンジョンで、日帰りがベストなんだけどな。オークダンジョンは遠いしねえ。

 あ、そうだ、対毒装備のこと聞いて買いに行くのがいいかな。


「対毒の指輪みたいなのがあったら便利そうですけど」

フォースで解決してそうな雰囲気」

「……確かに」


 でもそれだと、空気中に散布するタイプだったら困っちゃうんだよなー。塗られるとか刺されて、みたいなのはフォースで防御可能だけどさ。


「ちょっと休憩してから、ギルドに行きましょっか」


 頑張って解毒薬を飲む、っていう方向性じゃありませんように!


「りょーかーい」


 装備の手入れなんかをやって、程々の時間にギルドへと向かう。早起きすると時間が余るなー。アンデッドなのに健康的過ぎる身体だね。ン・シーも僕も、毎日元気いっぱいである。


「パイアお姉ちゃん、まだ早かったんじゃない?」

「そうかもですね。お店の開く時間まで3時間くらいありそう」


 5時頃に起きて、6時頃に朝ごはん食べて、なんやかんやまだ7時くらい。新しいアンデッドでの人生が、爽やかすぎる件。


「生き急いでるんですかねえ」

「欲しいものだらけなんでしょ?」

「うん」

「じゃあ仕方ないと、ン・シーは思う」

「そうですよね! そうですよねっ!」


 僕の今の目標は、ン・シーと新婚さんみたいな生活なのです。

 なので家が欲しい。お風呂付で、庭もあって、ペットも飼うのだ。休みの日なんかは念願のサイクリング、ピクニックもいいじゃん?


 家庭菜園なんかで収穫してる時にさ、ン・シーが洗濯もの干してたりするんだよ。そんでさ、たまに目が合ったりして、ニコッてお互い微笑み合う感じのヤツ!

 いい。

 凄くいい。


「パイアお姉ちゃん、顔引き締めて。ギルド着いた」

「了解」


 自転車もインラインスケートも時短にピッタシだね。ニヨニヨしてる時間すらないじゃないか。


「おはようございます」

「はよーっ」

「失敗ですン・シー。よく考えたら、この時間はみんな忙しい」

「ン・シーは知ってたつもりだったっ」


 依頼があれば早い者勝ちだしね。かなり混雑してるよ。まさに冒険者肉の塊といった感じ。とても暑苦しい現場だ。しかしこれは、みんながちゃんと真面目に仕事している証。良いことである! 冒険者肉の塊……我ながらいい表現だと思うっ。


 対毒装備のことを聞くなら、もっと暇な時間だったなあ。訓練でもしてよっかー、なんてン・シーと相談をしていると、4番嬢のナーテさんからお呼びがかかった。


 ……遅刻魔の4番嬢とか思ってたけど、よく考えたらこの時間にはもう働いている。パイアちゃんボディじゃないと、僕にはムリな時間から働いてるじゃん!

 実は凄い人だったということに、今さら気が付いてしまったよ。




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 今日から1話更新になりますが、引き続きよろしくお願いします!

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