30 待ってン・シー、それは私が傷付きます
「オークかゴブリン、できれば動物系がいっぱいいるダンジョンを、紹介してください。種族的な問題が起きました」
まだ大丈夫だけど、血が足りない感じがしてきたんだ。パイアちゃんの身体は、ご飯だけじゃ維持できないみたい。
「マフィアの血を抜いたくらいでは、役に立たなかったようです」
「動物系は人気があるんですよね」
僕たちが狩りまくると、問題になりそうだと言われてしまった。でも下のランクで狩りまくるのもダメだからって、ゴブダンジョン禁止されちゃったんですがー?
「オークダンジョンなら許可されるかもしれません。少々お待ちください」
「ゴブリンもそうだけど、オークはチョット問題あるね、パイアお姉ちゃん」
「ええ……」
エッチになっちゃう問題……。ブラッドスライムという外部ユニットを、持ち歩けるなら問題ないんだけど。
「許可が下りました。むしろあそこなら、積極的に入ってもらってもいいそうです」
「う、うーん……」
「ン・シー的にチャンプ肉が恋しい」
「ン・シーは行きたい派閥でしたかあ」
「なにか問題がございますか?」
チョイチョイって1番嬢を呼んで、彼女の耳をお借りする。
「ゴブリンとオークの血のせいで……その、エ、エッチな……気分に…………」
「真っ赤っかになるくらいなら、内緒で良かったとン・シーは思う。あと声おっきかった。たぶんみんなにバレた。パイアお姉ちゃんはポンコツやめるべきっ!」
「えっ!?」
ニヨニヨ見られる僕。
「そっ、想像したら食いちぎりますからねっ!」
血の鞭の先っちょをトラバサミにして、ガキンガキンさせながら僕は逃げ出した。
ン・シーが報告する声が聞こえた。オークダンジョンに行ってくるってさ。エッチな気分確定じゃん……。
そして儲かりそうなロボの国とか、アンデッドの国ばかり行ってられないということも確定です。
それにさ、ここ最近は僕らがオークの国に行く頻度が高かったし、ガーディアンが減ってきてる可能性もあるよね。
あそこはリスポーンが早かったりするのかな?
「そういえば、オークダンジョンって名前はないんですかねえ」
「ハフスクとか機械仕掛けとかヨクソベとかみたいなの?」
「ですです。それー。ここら辺の地名とは系統がちがうっぽいですし。なんの意味があるんでしょうね」
神様の趣味~? とか話し合いながら、お馴染みのお爺さんにオークダンジョンまで飛んでもらった。ちなみにお爺さんもダンジョンの名前については、知らないってさ。
「パイアお姉ちゃんっ」
「ええ。それじゃあ行って来まーす。お迎えは例によってなしで」
「毎度ありがとうございます。ではお気を付けて」
ダンジョンに入り、小部屋のオークを始末する。4つの
「パイアお姉ちゃん、あのまま帰ってもらってよかったの?」
「伝えないほうが、お爺さんも普段通りの行動ができるでしょうし」
「そっか、前のよりチョット強そうだから、そのほうがいいかもねっ」
なんと僕らには尾行が付いているのだ。高速馬車でここまで飛んで来たのに、もうここにいるってことは、そういう能力者がいたのかな? 追跡と移動に長けたヤツというか。
事前に察知できたのは、ン・シーがスレイプニル馬車の上から、敵らしきものを検知したから。ハンドサインで15人って教えてくれたよ。
僕が馬車から飛んだら、動き始めたってさ。
相手はまだダンジョン内には入って来てない。敵かどうかは、確定してないからいきなり攻撃するのはマズイ。
なので広めの範囲に、血の糸でトラップを仕掛けまーす。3体分は使っちゃおー。1体分は栄養補給に。
あと1個、ン・シーの索敵に追加情報。ダンジョンの内外は区切られた空間なのか、外にいるであろう追跡者の臭いが一切しなくなったそうだ。
ドアの有無は関係なさそうだね。ここは洞穴が入口だし。
そして待ち構えてはみるものの、入って来てまでは尾行しないようだ。
「来ませんねえ」
「来ないねー」
「追加のオークを狩りに行きましょうか」
「そだね」
血のストックが多いほうが安心できるし。これは僕らがダンジョンから、出るタイミングで仕掛けてくるパターンかもしれないな。ダンジョンの中じゃオークが邪魔になる可能性もあるし、出るタイミングだと油断してる可能性もあるし。
こっちも把握してるから、油断なんてしてあげませーん。コツコツと、僕の戦力強化をして行きましょう。追加で3パ、13体のオークを狩って、血と核宝石をゲットした。
BMXとインラインスケートのお陰で、移動速度が速いのもいいね。さすがに倒木で道がふさがってたりすると、飛ぶしかないけど。でもいずれはテクニックで越えてみたい所存。
「こっちから仕掛けましょうか」
血の残弾も十分にできた。待ってても仕方ないしなあ。気にしなきゃなんないのも面倒だしさ。
「索敵はできないよ?」
「血の糸でできるか、試してみましょう」
入り口近くに戻って、仕掛けてあるトラップを使って外を調べてみる作戦。
でも、やっぱりというか、血だけでは外を調べられないようだ。拾った枯れ木を投げてみたら、入口辺りで跳ね返る。
「ダメみたいですね」
「身体ごとでないとダメなのかー」
なんでだろ?
「能力が関係してるのかもねっ」
「というと?」
「外からなにかで一網打尽作戦とかできそう?」
「入り口入った側でも同じことできそうですけど……ダンジョン内なら、そういった能力者を排除可能なんですかねえ」
「分かんないっ」
「私もっ」
ま、ダンジョンの中から、外の索敵はできないってことで。再生可能な僕から出ることにした。ブラッドスライムもあるしな。血のドレスを纏って、肌の露出を抑える。
毒矢の警戒用。毒の空気とかだと、どうしようもないのが現状だよ。なんか聞きそびれ続けてるなあ。他のことに夢中になりすぎなんだろうけど、今日こそはギルドで聞こう。
一歩ダンジョンから出たところで、衝撃。
「ウッ!」
閃光が走った。サンダーほにゃららの攻撃だ。ブラッド装備がアースの役割を果たしたのか、被害はない。スライムに繋がったままだし。これは効いた振りをしたほうが油断を誘えるかな?
即座に血の糸を周囲に巡らせ、索敵&トラップを構築。演技開始~したら、同時に飛び出してくる悪漢A~Jの10人。残り5人は隠れたまま。
そして崩れ落ちる僕を抱えるA~Jの誰か。Aとする。
ン・シーもダンジョンから飛び出してきた。彼女にはハンドサインを小っちゃく出して問題ないことを伝える。
そして定番の御言葉をいただく僕たち。
「大人しくしろ。こいつの命が大事なのだろう?」
アレンジバージョンでした!
でもやることは一緒だ。首に当てられる短剣に加え、BとCから突き付けられた剣。
「きゃー、助けてン・シー」
「パイアお姉ちゃんは大根と、ン・シーは知った」
「な……に?」
ヘタクソな演技と、それに突っ込むン・シーに疑問を持った悪漢A。
「パイアお姉ちゃんに、人質の価値はない」
「待ってン・シー、それは私が傷付きます」
「だってほら、現に平気っ」
「バカが!」
「なに言ってやがるッ」
様子のオカシイ僕たちに焦ったのか、BとCの刺突攻撃が僕の足にヒットしてる。コンボカウントは順調に増えています。
毒塗られてなくてセーフだったぁっ!
でも毒がきたらマズいので、無力化するよ。こうなったらもう仕方ないね。グユッとか変な悲鳴を上げて倒れていく悪漢A~J。H~Lは逃げ出した。
「逃がすの?」
「糸は付けてます。一網打尽作戦開始です」
あとメッチャ速くて、僕らじゃ追い付けない。やっぱりそういう能力者だったみたいだね。
お金だけ取りながら、ポイポイと死体はダンジョンへ捨てる。その内にダンジョンが栄養化するだろう。
「終わったっ」
「じゃあ追っかけます。街までの血は多分足りる、ってくらいの距離がありますしね」
「りょーかーい」
空から追いながら、作戦を煮詰めていく。といっても大立ち回りしちゃうと目立つから、結局は血の糸を使って暗殺なんだけどね。
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