28 僕たちは一生懸命フーフーした。

 僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ハロー アイボー! キョウモ シッカリ ミツギナァッ!』


 形作ったメタリックレッドの宝箱が、要求を出した。進化したくせに相変わらず口の悪いミミック。


「ン・シーはこれがいいと思ってる」

「エェ? そうですかあ?」


 僕には分かんないな。ン・シーはあらくれが好きってことなんだろうか?

 ま、いいや。チョット試したいことがあるから、聞いてみるか。


「ねえ、34個投入しますが、17個ずつの2分割で、2つのアイテムって可能です?」

『オレサマ テンサイ カノウダゼー』

「じゃあそれで」

『スキナノ エラビナァ!』


 住 食 衣 薬 乗が2段になって、タッチパネルに表示された。どっちも乗を選ぶ。


「マウンテンバイクよ、私のために現れるのです!」

『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現するため、ガタガタと揺れる僕の能力。


「だだだだだだだだだだ──」


 今回はン・シーも参戦だ。うんうんってなる僕。いつの間にかガタガタうるさいミミックが気にならなくなってたよ。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! テメェラガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 塵になって消えるミミックが残したもの。

 それは大きなダンボール箱と、中くらい? のダンボール箱。


「当たってるかなっ?」

「……マウンテンバイクには小さい気がします。私は外れましたね」


 なにかな? って思いながら開封すると、BMXだったっ!


「見て見てパイアお姉ちゃんっ!」

「当たってるじゃないですかン・シー!」

「やったっ」


 ン・シーはインラインスケート。車輪が大型で、悪路も走行可能なタイプだ。なんというか流れが来てる気がする!


「提出した核宝石を回収するべきでしょうか!?」

「パイアお姉ちゃん、それは浅はかな思考。めっ」

「で、でも今なら欲しいものが、当たりそうじゃないですかあ」

「ダメ」


 ダメ? ダメ。どうしても? ダメダメのダメ。

 そんなアホな会話をする僕たち。


「ダメですか……」

「そうそう当たるものじゃない。今回、たまたまのはず」


 諦めるかあ。ン・シーのガードは硬いのだ。


「それよりBMX組み立てよ?」

「ですね!」


 工具がないけど、まあ操血で問題ないか。でも空気入れがないの困る。


「アレッ!? 空気どうしましょ」


 ン・シーを見たらサッと視線を外される僕……。え、と、どうすれば?

 え? 乗れないの?

 いや、まて、パワーだ。世の中、パワーでなんとかなるはず。サバイバルの時だってパワーで解決したじゃあないか!


「操血でチューブを繋いで、人力で頑張ります!」

「ン・シーは後輪を担当するっ!」

「ありがとっ!」


 僕たちは一生懸命フーフーした。

 アンデッドのパワーには感謝しかない。


「パンクしたりすると乗れなくなっちゃいますが……」

「前の電動自転車、簡単でもいいから再現されて欲しいね」

「空気入れる所のゴムも劣化しますし、お早い開発を願うしかありません」


 なんて言ってっけな、確か……えーっと?


「虫ゴム」

「それです!」


 ブツクサ言ってたらン・シーから答えが出た。ありがと。しかしこんなパーツまでガチャで引くのはキツくない? 教会行った時に神様にお祈りしてみよう。せめて交換用部品くらいは選べるようにしてってさ。


 2人して訓練場で走りまくる。このBMXはたぶん街乗り用のもの。ブレーキ付いてるし、ペダルのところのギアが大きいし。だけどアンデッドパワーですよ。パワー。僕たちなら相当な悪路も超えることができるだろう。

 ぱわああああっ!


「パイアお姉ちゃんが飛べることに気付いて欲しいと、ン・シーは思ってる」

「知ってますー! 知ってますー!!」


 テクニックで乗り越えるのが、カッコいいんじゃないかあっ!


「だって自転車乗れてないもん」

「……はい」


 正直言うと、自転車に乗れません。ノットテクニシャン。そんなんでよく自転車を組み上げたなって思われるかもだけど、ものを作ったりするのは得意だよ。でもそれを使えない僕。


 ゆえにインラインスケートは、履こうとも思わないのだ。絶対に足がグネる。僕には未来が見えているのだー。


「ン・シーが教える。誰でも自転車に乗れる魔法があるっ」

「ホントですか!?」

「ン・シーに任せるべきっ」


 え? ペダル外すの? ふむふむ、そして足で地面を蹴って進む、と。

 ほうほう? え? 後ろ押さえてくれないの? あ、でもイケるかも。

 しばし練習。そしたらホントに乗れるようになった。不思議すぎる。


「漕ぐことに集中するから乗れない」

「へぇ~。ありがとね、ン・シー」

「う、ん」


 ?


「どうかしましたか?」

「破壊力満点の笑顔だったっ!」


 あ、分かる。それ。ン・シーがふとした拍子に見せる笑顔が、たまらなくたまらない時ってあるし。パイアちゃんの笑顔も満点だしね。キュン度が高いタイミングは攻撃力も高し。


「この幸せの感謝もありますし、そろそろ教会に行きましょう」

「うんっ」


 もちろん自転車に乗って行くのだ。ン・シーはインラインスケートを、履いたままだしね。楽しかったみたいだよ。

 受付で報酬の35万円をもらって、教会に向かう。


「うーん、金貨3、銀貨5枚……ン・シーは少なく感じたりしませんか?」

「しないよーパイアお姉ちゃん。大金っ」


 僕がオカシイのかあ。ロボの国では100万越えの収入。そしてマフィアのとこでウン千万を見ちゃったせいだろうなあ。


 教会は、ギルド通りから中央区へ向かう途中にある、大きな公園の中にある。公園は緑も多くて憩いの場ってヤツだね。湖もあって涼しげだよ。露天なんかも出てたりするし、僕らはつまみ食いしながらのんびり向かった。

 もう1台自転車があったら、サイクリングもいいな。


 教会に入ると正面に、ギルドカードの血を登録する部分と、同じものが掲げられていた。切ったバームクーヘンで円形の迷路を作った感じのヤツ。中心の玉がゴール。神様のシンボル的なものなのかな。


 神様も色々いるみたいだし、誰か1人の神様をってわけじゃないのかも。

 僕に能力をくれたのは男神だったし、ン・シーは女神からだったもんね。

 神様にお祈りするのは、このシンボルの前で膝をついてやればいいみたいだ。金貨1枚寄付して、他の人にならって僕らもお祈りする。


 出てきた地球産アイテムの、消耗品は選ばせてくださいってね。


『良かろう』

「!!」


 良かろうかろうかろうろうろうろぅぅぅぅぅぅって、フェードアウトしていく遊戯の神様。


「ン・シー! いいって神様が!」

「あ、起きたっ」

「エッ?」


 ビカーって光って寝ちゃったんだって。僕。

 しかも勝手に宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュが起動して、アップグレードが始まったそうだ。


「それはご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、どこか体調に異変はございませんか?」

「大丈夫です」


 10分程度だったらしく、神父さん以外に礼拝してた他の人にも声を掛けてもらったよ。優しい世界だね。

 といっても能力の進化が珍しくて、ワイワイしてただけみたいだけど。

 1週間程度でカンストした僕の能力とは……?


「まさかの不具合修正の可能性あり、なのではないでしょうか」

「どうなんだろうね」

「なんにせよ、消耗品のパーツが手に入るなら助かります」


 今のところは使い道がないけどね。でもBMXもン・シーのインラインスケートも、ダンジョンで使ってたらすぐに痛む可能性は高い。お祈りして良かったよ。僕らはもう1回神様にお礼を言って、買い物に向かうことにした。


「お化粧はどうしましょう。自信ないですし」

「そこまでしなくてもいいと、ン・シーは思う。パイアお姉ちゃんがお化粧すると、えっちな顔になりそう」


 言えてるかも……。ン・シーは似合いそうだけどなって思ったけど、臭いが邪魔になりそうだからってさ。


「ではスキンケアということで」


 ツルぷにスベつやを目指すのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る