26 トッ、トッテマセ、ンニョ?
「おや、こんな夜更けになにか用ですか? ガーディアンで女王で、アンデッドでヴァンパイアで、しかも転生者で、情報量過多のパイアちゃん」
「こんばんは。お久ですね」
エダの街に来た時、調書を取った人だった。これは幸いと言っていい気がするね。マフィアに襲われそうになったので、だいたい壊滅させたけど、誘拐された人や麻薬の研究をしてたということを伝える。
「パイアちゃんが俺を仕事地獄に落とそうとする。これはデート案件だと思うんだ」
「ダメ! パイアお姉ちゃんはン・シーのもの。手出し厳禁」
「噂は真実なのかー……残念」
なんてブツクサ言いながら、通信機らしきもので応援を頼んでた。
「案内頼めるかい?」
「はい」
少しの間、待っていると憲兵がぞろぞろとやって来る。結構来たね?
「班長」
「うん、揃ったね。3班は我々の代わりに詰め所で待機。1班2班は──」
この適当そうな憲兵、班長だったのか。
凄く適当そうなのに。
しかも女好きっぽいのに。いや。女好きは関係ないか。
「こ~らパイアちゃん、なにニヤついてんの」
「いえいえ、フフッ、すいません。なんか似合わないので、つい」
「コラコラ」
でも班員からは同意が得られましたとさ。
「改めましてこんばんは。国防陸軍憲兵隊エダ支部、特殊制圧班班長のザルデルだ。よろしくね、パイアちゃん」
「改めて。国防陸軍憲兵隊エダ支部、特殊制圧班班長のザルデルだ。よろしく。って、しておけばカッコいいのに残念な人ですねえ」
「クッ。まあいいや、さっそくだけど案内を頼むよ」
「ハーイ。ン・シー」
「うん」
地上を進んでなかったので道が分からない。なので飛んでる僕らを追ってもらうことになってるんだ。
ってか、みんな足速いね!? もっと速くてもいいらしくて、GOGOって手を振ってる。オッケー。
早く済むなら、それに越したことはない。僕も少し速度を上げる。間もなく到着といったところで異変。
これは……侵入しようとしてるヤツがいる。着地して情報を共有。
「捕らえておきましょうか? 3人ですし」
「そんな簡単に?」
「
「なら頼もう。近くなんだろう? このまま向かうよ」
「了解ー!」
この距離なら地上からでも問題ない。角を曲がればすぐだしね。班長のカウントダウンに合わせて、血のトラップを発動!
「待って! 強い!!」
しかし僕の声は遅かった。
既に制圧班の人たち何人かは、曲がり角を過ぎている。
「状況開始ッ」
「「「はっ」」」
ン・シーと頷き合って、僕らも突撃。
したところで更なる異変。
「兄貴?」「ベルグレ?」
「エッ!? きょ、兄弟?」
このテキトーでイイカゲンっぽい制圧班の班長であるザルデルさんは、ベルグレさんのお兄さんでした。
血のトラップを千切った時に、僕のだって気付いたらしい。それでそのまま表で待ってたみたいだ。
「俺たちも依頼を受けて調べてたんだ」
「ありゃあ、この場合どうなるんでしょ?」
襲われたから返り討ちにしたんだけど、ベルグレさんの依頼を邪魔したことになるからな。
「パイアちゃん、なにか持って行ったか?」
「トッ、トッテマセ、ンニョ?」
「取ってんじゃねぇか」
「パイアお姉ちゃん、下手過ぎる。ポンコツが過ぎるっ」
「それでパイアちゃんは、なにを取ったのかな? ン?」
「エヘー」
ザルとベルの兄弟圧が強い。
正直に話した。
「誤魔化そうとしてたみたいだけどね、パイアちゃん。それは発覚するよ」
「だよなぁ。大金貨はまだ可能性あったとしてもなあ……インゴットはいくらなんでもムリだろぉ」
えっとぉ、なんか僕、12,365,400円くらいチョロまかそうとしてたみたい。金のインゴット、大金貨の1つ上の価値で、1千万円……。
ちっ。失敗したか。
「そもそも私たちが処分したんですから、全部もらったっていいはずです。10分の1も取ってないんですしっ?」
「パイアお姉ちゃんが逆切れしだした」
「だっていっぱいあったじゃないですか、地下金庫にー」
全部は悪いかなって思ったから、残しておいてあげたのにねっ!?
「そうだな、話を聞くとパイアちゃんは被害者だしなあ。領主様に聞いてみるか」
ベルグレさんの依頼主は領主だったみたい。応援しておこう。
「ガンバレ、ベルグレさん!」
「おう、任しとけって」
「それにしてもザルデルさんと、兄弟というのが驚きです」
「あー、まあ、な」
んん? もしかして、お複雑な?
「腹違いってヤツだ。俺ぁ庶子だしよぉ、あんま似てねえんだ」
なるほどぉ。別に家族と仲が悪いわけじゃないそうだけど、貴族ってのが合わなくて冒険者やってんだって。
「ハイッ、先生! 紹介状をお願いしたいです! ドレスを買いに貴族街に入りたいですっ!」
「んんん……まあ、ついでに頼んでみるかあ」
「やったっ」
「良かったね、パイアお姉ちゃんっ!」
ということで我々も調査に協力しますか。ザルデルさんら制圧班の人たちは、もう現場検証してるし。
「隠し通路はこっちです」
地下への入口は閉じてきたからね。もう1回手順を踏んで開けてあげるのだ。金庫や調剤室の場所を教えて、っと。あとは……お任せ? かな?
もう僕らは、やることがなさそう。
「ありがとう、パイアちゃん。あとはこっちがやっておくから、帰ってもいいよ」
「はい。じゃあザルデルさん、お先でーす」
ベルグレさんも帰ろうとしてたけど、兄ちゃんに捕まってた。お疲れさんでーす。なんか今日解決するとは思ってなかったけど、流れでマフィア1個消えちゃったね。
平和になってなによりです。
制圧班とベルグレさんたちに手を振って、僕らは宿に飛んで帰った。
「お風呂ってまだ入れますか?」
「そろそろ閉める時間だけど、サッと入るくらいならいいわよ」
「では電光石火で入ってきます」
「はいよー」
キャッキャウフフはせずに、ホコリを落とすくらいで済ませる。屋根裏に入ったからね。わりとホコリっぽいんだよな。入れてラッキー。お礼を言ってから部屋に戻った。
「1000万手に入るといいね、パイアお姉ちゃん」
「ねー。何十本もインゴットあったし、もらいたいです」
当面の活動資金にもなるから、
除毛ポーションの経験からすると、スキンケアとかヘアケアなんかは、この世界の錬金薬のほうが効果は高いと思うんだ。だけど石鹸とかシャンプーみたいなものは、地球産のほうがいい匂いがするんだよね。
だけどこの世界の石鹸の、あの匂いが効果を高めるもの、っていう可能性もあるからなあ。一概にダメとは言えないかな。でも地球産のほうが、単純に容器が使いやすいというメリットもある。広まって欲しいから1回卸すのもアリ。
なんてことを考えてる内に眠ってた。
時計はないから分かんないけど、多分寝たのは夜中の2時頃。でも朝日でスッキリ目覚めちゃう、高性能っぷりを発揮するパイアちゃんボディ。
「アンデッドなのに健康的です」
「神様の調整はパーフェクトっ!」
「神様ですもん」
「「ねー」」
お祈りくらいしておくべきかもだね。グヌヌることは多い能力だけど、それも踏まえて楽しい人生を過ごしてるし。
「今日は教会に行って、それからお買い物にしましょう」
「買うものある?」
「石鹸とヘアオイル、あと除毛ポーションが減ってきましたからね」
「あー、2人で使うからかー」
「そそ」
この際、シャンプーがあるか見てみるべきだな。化粧水とか乳液とかも。スキンケアに関しては……ふんわりとしか分かんないから、ちゃんと身に付けたほうがいい気がする。
まず栄養を取ります。少し待って完了ですーっていう、アンデッドスキンケアだけじゃダメな気がする。
再生するからといって。
「ダイジョブな気がするよ? アンデッドの力、グレートっ!」
ダメな気がする。
女子として。
だって僕のせいでパイアちゃんがポンコツになってるんだ。しかもエッチで巨乳好きで女の子好きな、っていうのまでくっ付いてるよ。
凄く、ダメな気が、します。
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