25 帳簿と照らし合わせて、計算ミスかなって思われる程度だけですよぉ。

 ガチャ収入で追加の銀貨16枚をせしめた僕たちは、意気揚々と足取りも軽く宿へと向かう。


「パイアお姉ちゃん、朝のがまた来るよー」

「面倒ですから飛んで帰りましょ」


 でもここまでしつこいと、宿にも来そうな気がしなくもないな? 飛行ルートを宿とは反対方向にして、撒いたあとで帰るか。

 それでも来るようなら、一応話を聞いてあげよう。


「どう思います?」

「うん、それでいいとン・シーは思う。ワンチャン貴族狙いっ」

「ああ、なるほどー。貴族なら傲慢な可能性もありますねえ」


 はた迷惑な傲慢貴族だったら、トンズラしよう。そしてアチコチで迷惑な貴族のせいで、旅をする羽目になったって声高に広めちゃう。社会的に逝ってしまえ。

 でもとりあえず、血の糸を付けておいてどこに帰るのか尾行しておいてあげる。


「マフィアでも可。というか、この際マフィアのほうが楽かもしれませんね」

「とっ捕まえて売るの? パイアお姉ちゃん」

「壊滅させたら貴族街に入れそうですし~」

「うんっ、イケそう!」

「「ね~」」


 キャッキャキャッキャ。

 お風呂入って、ご飯食べて、夜。血の糸の行き先は貴族街じゃあなく、スラムだった。


「マフィアの線が強くなってきたかもしれません」

「じゃああんまり遠慮しなくていいね!」

「なるべく貧血で倒れてもらいましょう」


 一応憲兵に聞いたほうがいいのだろうか? 問答無用で殺しはマズい気はするから、貧血状態にして捕まえるつもりなんだけども。

 そんなことを考える自分に驚いた。


「人を殺すことに対する忌避感が……薄いです」


 アンデッド成分なんだろうか?

 遊戯の神様が調整してくれたはずだけど、全部は取っ払ってない?


「仕方ないとン・シーは考える。この世界は人の命が軽い」

「いいことではありませんが、そうじゃないとリタイヤしちゃうということですか」

「ニュー人生は楽しむべき。邪魔は排除する」

「強くてニュー人生だったら良かったですのに」


 カンストキャラだったのにー。


「あ、そういえば神経毒系は効くので、対マフィア戦までになんとかしたいです」


 カンストキャラのままだったら平気だったからね。対毒装備を考えなくちゃ。憲兵の詰め所に行った時にでも聞いてみようかな。


「それは分かった。アジトのほうはどうする? 今夜確認しに行く?」

「そうですね。場所は分っても見えてるわけじゃありませんし」


 尾行してたヤツが、今いる場所には全部で12人いる。ここがアジトなのかどうかも分かんないからな。ただの酒場の可能性もあるし。まあ酒場の奥がアジトってのは、定番中の定番。ついでなので周囲の人間にも糸を巻き付けておいた。


 しばらくすると、何人かが移動して同じ場所で動きを止めたね。うーん、これ以上は見ないで探るの難しいかなあ。


「ということで行ってみます。ン・シーは?」

「ン・シーも当然付いて行く」

「了解。今日は見るだけですよ」

「うん」


 幸いにも僕たちは夜の住人。暗闇にまぎれて動くのは得意だし、視界も良好。さあ、なんのために近付いてきたのか、探っていきましょー!


 ってことで、こちら現場上空のパイアです。ご覧いただけますでしょうか。荒くれ、荒くれ、荒くれが吸い込まれております!


「えっと、全部悪者なんですかね?」

「いい人には見えない」


 どうやらここは僕たちに接触してきた、マフィアであろうヤツらのアジトで間違いはなさそう。結構な人数が入って行ったよ。顔は割れてるので潜入は難しいな。ヴァンパイアイヤーで聞くってのが1番いいかも?


「どこかに穴を開けて聞く~?」

「そうします」


 接触してきたヤツには、まだ糸がくくり付けてあるしね。だいたいの場所は判明している。ラッキーなことに2階にいるようで、屋根の上から天井裏に侵入できるだろう。


 まずはターゲットに近い場所の屋根に穴を開け、糸で屋根裏を調べる。人影はなし。血で屋根裏にシート状のものを作って、屋根を切り取った際に出るゴミを落とさないようにする。


 フォースを込めたキレッキレの聖剣(見た目だけ)で、屋根を切り取って侵入口を作った。マンガやアニメの世界の住人ムーブが可能です。シィ~ってジェスチャをしながら、2人で静かにお邪魔するマフィアのアジト。

 こっそり情報収集開始だ。


「──うか」

「すいません、頭。今日は帰還したみたいなんですが、ギルドを出たあとの足取りは追えませんでした」

「チェイサーのお前が追えないなら、飛んでんだろうよ」


 そういう能力者だったか。飛ばれるとダメで、ここにいる僕らに気付けないなら、単純に足跡を追う能力ということかな?

 だとすると──


「ヤサは分かってんでしょ? 攫っちまえばいいじゃねぇですか」


 ──デスヨネ~。でもそうしない理由が、コイツらにもあったみたいだ。静に聞いてると、お話してくれました。なんでも女将も大将も、元々はトリプルスターの探索者シーカー。凄腕だったみたい。


「そもそもあんな場所で、騒ぎなんか起こせるかってんだ」


 大通りだしギルドがいっぱいあるしね。街の入り口に近いし、憲兵の詰め所も近い。そりゃあ人攫いなんてできないだろうよ。

 つまり平気な場所なら、僕らを攫ってオッケーとは考えてるみたい。


 やっちゃう? やっちゃおうよって、合図しまくりのプンプンン・シー。僕は静かに首を振る。

 縦にね。


 でもやるのは僕だからねって、念を押してから行動開始。といっても気付かれない太さの血の糸で、血管に侵入させるくらいだ。あとは徐々に血を奪って、具合が悪くなってくれるまで操血操血~。


 みんな座ってるから倒れて音が出ることもない。昏倒するまで奪って、残りのマフィアもお片付けしていくことにする。

 10人ずつ適当に具合を悪くしていけば、バレることもない。


 だいたい30分くらいで、お片付けは完了しました。

 ついでなので、お掃除代も徴収しちゃおーっと。


「家探しします!」

「了解っ!」


 パイア警部とン・シー警部補になった僕たちは、まず1番なにかを隠してありそうなボス部屋からチェックしていく。


「パイアお姉ちゃん、人攫いのリストっぽいのがあったよ。日付が近いのも書いてある」

「こっちは薬関係ですかね? 結構マメな性格なのか、効力とか時間とかメモってあります」


 地下に行ったら攫われた人もいそうだな。人数にもよるけど、スラム街を護送するのは厄介だよねえ。ここにいるマフィアは無力化してるから、直近での危険は少なそうだし憲兵に伝えるか。


「もらうものももらいましたし、地下を確認したら憲兵に協力してもらいましょう」

「うん!」


 地下への通路は隠し階段になっているようで、発見するのに手間取ってしまった。そのお陰というか、おかわりマフィアが何人か現れたので、1人だけ残して教えてもらったよ。


 僕の身体の色んなところから血を流しつつ、ケタケタ笑いながら問いかけるムーブ。アンデッドの不気味さを視覚で伝えたのだ。

 僕の血が腕に刺さったから怖くなったのかもだけど。


「正直者は良いことです」

「とぅっ!」

「あっ……血を抜くから、別にトウッしなくてもいいですよ」


 でも念のために血は抜いておきます。ン・シーのトウッで、もう気絶してるから加減が分からないけど、失敗したら諦めてくれ。誘拐とか麻薬とかでお金稼いでるヤツらなので、別にどうなってもいいし。


 地下はソコソコ広くて、調剤室みたいなのとか拷問部屋なんかもあった。


「「おぉー」」


 金庫もあったので、チョロまかす。全部は取らないほうがいいよね? たぶんだけど。憲兵にバレない程度だけ~。ちょっぴりだけ~。帳簿と照らし合わせて、計算ミスかなって思われる程度だけですよぉ。


 誘拐された人たちに見られると、逃がしてって言われそうだし、糸で人数を調べる。1人2人程度なら連れて帰れるけど。


「13人ですか」

「多いね」

「やはり憲兵に知らせてからのほうがいいですね」


 他の連中が入って来られないように、窓には血のトラップ、ドアは開かないように血で固定しておく。

 じゃ、報告に行きましょー。

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