23 ごきげんよー

 3日ほど休んだ僕らは冒険に出ることにしたんだけど、休んでる内にランクアップの申請が通ってたみたいでダブルスターに上がってた。


核宝石コアジェム的に言えば星2~3が出る所に行ける、と」

「願ったり叶ったりだねっ!」


 受付嬢にオススメを聞いて僕らが向かうダンジョンは、機械仕掛けの神殿。なにやら金属の身体を持つガーディアンや、人を感知して無人なのに連射してくるクロスボウがある場所らしい。難易度は★★。


 ロボ系か。そんなのまであるんだね。クロスボウも話を聞いてみれば、どうやら銃のようだった。連射って言ってるから機関銃ってことかあ。まさかファンタジー世界でロボと戦うことになるとは。


「パイアさんのガチャと一緒で、現代技術を上回ったアイテムが色々ありますので、できるだけお持ち帰りしてくださいね」

「ハーイ」


 他にも色々な素材が取れるらしく、冊子が貸し出されるようだ。破損させると弁償することになるそうだけど。でもコレはありがたいサービスなので、借りていきましょー。


「空の上だそうなので、またスレイプニルの高速馬車に乗せてもらいましょう」

「プニルちゃんカワイイからン・シーは好きっ」

「えーっと、忘れ物はないですか?」

「ダイジョブ。塩胡椒もあるし火打石も入ってる」

「ン・シー……向かうダンジョンはロボの国です」

「サクッと稼いでササっと帰る!」

「ふふっ、りょーかい」


 僕の吸血も役に立たないから、本番って感じになってきたね。イージーモードは卒業さ。今日からはノーマルモードでお仕事です。そんな気合十分で馬車乗り場に向かう僕たちに、通せんぼする誰かさんたち。


「パイアとン・シーだな? 一緒に来てもらおう」

「ナンパは全てお断りしています。悪しからずご了承くださいませ~。ン・シー」

「分かったっ」

「「ごきげんよー」」

「ま、待てっ!」


 飛んで馬車乗り場に向かうよ。さすがにナンパが鬱陶しいからって、人をぶっ飛ばすのはダメな気がするし。スルーがベターな回答かと。テキパキ手続きを終えて、僕らは空の旅と相成りました。


「あらー、しつこいですねえ。ワチャワチャしてますよ、ほら、あそこ」

「フラれたのにね!」

「良かったのですかな? お嬢さんがた」

「高圧的なナンパ野郎なんて、捨ておけぃ! ってヤツです」

「女子をアレで口説き落とせると思ってるの、カワイソウとン・シーは思う。未来なしっ」

「や、やめたげてよぉ……ホントに可哀想になって来るじゃないですかっ」


 なんか僕に被ダメ。スリップダメージのごとく、心にチクチク来るよ?


「朝っぱらからナンパ。頭がオカシイとしか言いようがない」

「それもそうですね。救う必要性はありませんでした」


 スッキリ!


「口説こうとしてるようには、見えませんでしたがな」


 どっちにしたって邪魔だし、いいのいいの。と機械仕掛けの神殿まで飛んでもらった。なんたってロボと出会える不思議な神殿らしいしさ。


「見えてきましたぞ。あれが機械仕掛けの神殿です」

「「おおーっ」」


 ガワはロボ関係ないみたい。普通に雰囲気のある神殿が空に浮いてるよ。ゲームで見るように、切り取った山を逆さまにして、そこに乗ってる感じというか。


 あれ、欲しいなあ。当然ダメなんだけどさ。空飛ぶ拠点は便利だからなあ。ダンジョンの管理ってどこがやってるんだろうか? 個人はないだろうけど、やっぱ国とか領主、ギルド辺りになっちゃうかなあ。


 ダンジョンコアは発見した場合、自由にできるって聞いたけど……ダンジョンを生かす場合は個人じゃキツイか。氾濫とかしちゃうし。

 やはり欲しくてもムリか。


「お戻りはどうしますかな? 必要ですか?」

「いえ。今回も片道切符ですいませんが、帰りは自前で」

「いやいや、構いませんとも。それではお気をつけて」

「ありがとっ、お爺ちゃん!」


 御者のお爺さんに手を振って、僕らはまたしても不人気ダンジョンへと突入する。神殿は山の上空にあって、人が近辺に住んでない。そして氾濫しても落っこちて壊れたロボがあるだけらしいので、あんまり来る人はいないそうだ。


 食べられるものが内部にはないので、荷物がね。水だけでも大量になっちゃうらしい。不人気は仕方ない。

 廃材を漁りに来る人はいるそうだけどさ。


「そこでチートボディの私たちですよ」

「アンデッド、無敵っ」

「「ね~」」


 建物の入口を抜けた瞬間、姿の見えないなにかが僕たちを感知して、ピピピと可愛らしい警告音を発する。続けざまにキュィーンと激しく回転する音とともに、何重にも連鎖した鈍く低い炸裂音が響いた。


 ドブゥゥゥゥゥゥって。


 まさか異世界で、異世界から来たミニガンで撃たれて、それを防御することになるなんて思いもしなかったなあ。


「クロスボウのかけらもありませんでした」

「パイアお姉ちゃんの血、凄く便利」

「入口から殺意高めですねえ」


 でもフォースを込めた血の盾は抜けないようだ。異世界ミニガンも余裕があったら持って帰ろうってことで、鞭を使って根っこからもいじゃう。抱えて移動するのは邪魔だし、入り口のところにでも置いておく。


「弾も買取になるみたいだよ」

「オッケー」


 冊子を見てたン・シーが教えてくれたので、絡めとった弾丸はバッグに入れる。直径5ミリで長さは4センチくらい。コレ、地球産じゃなさそう。弾丸のお尻に4つの小っちゃい垂直尾翼っぽいのが付いてる。デフォルメしたロケットというか。詰まったりしないのかねえ?


 ま、いっか。今は謎よりお金お金。


「ミニガンもリポップが早かったら儲かるんですけどね」

「でも金貨1枚程度みたいだよ」

「チャンプ肉、3分の1ですかあ。微妙ですね」


 再利用にも技術力が必要だし、そんなものなのかなあ? というか作れたとしても役に立たないのか。みんなフォースが使えるし。なんのためにお金払って引き取るんだろう?

 そんなことを言うと、ン・シーから答えが返って来た。


「文字化けする未知の金属の合金」

「おぉ……異世界金属っ」


 文字化けってことは、神様も分かんないってことだよね。つまり……この世界と地球には、なにかしらの繋がりがあるってことなのではっ! だって地球産のものを知ってるから、神様の作った鑑定で調べられるんだろうし。


「遊戯の神様は、アノzonで買い物経験あるということが、推察できますっ!」

「ン・シーは未経験なのにっ!」


 それは仕方のないことだなあ。ゲームキャラのAIが勝手に買い物し始めたら、運営が破産しちゃいそうだし。


「ダイジョブ。FXとかで儲けるっ」

「ゲーム中に教えて欲しかったです!!」


 そしたらもっと課金できたのにー……。


「生身の身体がなかったから、ホントの理解じゃなかったけど。でもたぶんダイジョブだったはず」

「ブロックされてたのかもですね」

「運営は横暴」

「仕方ないから! 仕方ないから!」


 た、たぶんだけど。僕には難しすぎて分かんないよ。AIのルールとかは。


「待って、パイアお姉ちゃん。たぶん敵」


 臭いじゃ分かりづらいみたいだ。相手は機械だし仕方ない。僕が索敵しても、似たような索敵範囲になっちゃうからな。今回の冒険では血が有限なのだ。

 待ち構えてると、曲がり角から小型冷蔵庫みたいなのが、ゆっくり走ってきた。1ドアの冷蔵室しかないヤツ。


「敵……?」

「違ったっ。掃除機! リストには載ってなかったよっ」

「確保ー!」


 お高いかもしれない。使い方は分からないけど、お掃除ロボは便利だしね! 問題はサイズがソコソコ。これも入口辺りに置いておくしかないか。


「逆さまにすれば壊さなくて良さそうです」

「パイアお姉ちゃん、賢いっ」

「でしょっ?」


 むむっ? ピーピー言い出した。逆さまにしたからかな?


「なにか来るよ」

「血のトラップを敷いておきますね」


 曲がり角から現れたのは人型のロボ。


「戦闘タイプみたいですね」

「うんっ」


 なにかの金属でできた真空管みたいな大小の円筒形が、鉄パイプのようなもので繋がってできているロボット。なんとなくスチームパンク系に思える形状だ。

 両腕には機関銃のようなものが生えている。

 手は付いてなくて、代わりに鉄球。鉄ではないんだろうけど。


「強度もパワーも謎です。気を付けていきましょう」

「了解っ」

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