21 アッチで転がってる。

「ボスはいねがぁ~?」

「いないみたいだよ、パイアお姉ちゃん」

「いねぇですかぁ」


 ションボリングシンドロームです。でもこれ以上、ダンジョンの奥地に進んじゃうと、明日の帰還すら怪しくなっちゃう。


「星2は諦めよう?」

「そうですね、仕方ありません」


 一応ゴールドラッシュを狙う分だけの、核宝石コアジェムは確保した。モヤモヤを晴らしたかったせいもあって、僕らは暴れ散らかしたので。村クラスの群れは、結局見つからなかったけど、3~5匹のオークパーティをいくつか。2人の索敵を使って効率的に。


 41の動かないオークを、さっきのオーク村まで引きずって帰る。20体分はガチャのお試し用に使おう。


「気分を切り替えましょう。アプグレなんですからね!」

「パイアお姉ちゃんエライ!」

「えっへん!」


 宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ、起動ッ!

 そして大量のオークの死体と、55個の星1核宝石を投入する。


『イエェェェェスッ! ヤルジャネーカ アイボウッ オレサマ アップグレードガ カイシサレまス 電源ヲ切らズにソノまま しばらくお待チください。実行中です。…… …… ……・・ ・・ ・ ・  ・   ・』

「来たっ」「おーっ!」

『インストールができる状態になりました。選択可能カテゴリーリストが新規作成されるため、再起動には時間が掛かることがあります。再起動のタイミングは、ご自身で設定可能です。今すぐ再起動 時間を設定 再通知 から、ご都合の良いものを指定してください』

「今すぐ再起動ですね」

『再起動は複数回繰り返されます。しばらくお待ちください』

「パイアお姉ちゃん聞いた? カテゴリーリストって言ってたっ!」

「き、聞いてませんでした……」


 マジかー。これは今後、カテゴリーで選べるようになるってことなのか?

 これはかなりありがたいアップグレードッ!


「ダイジョブなの、これ?」


 悲鳴を上げながら、塵と再生を繰り返すミミックを心配してるン・シー。優しみがあるよ。でもなあ。


「ウギャウギャ言ってるだけですし」


 待ってたら疲れた雰囲気を出しながら再起動は終わるよ、ってン・シーに伝える。そのあとにボスの核宝石を与えたらン・シーが生まれたとも。

 あ、終わったっぽい。


『ハロー アイボー オレサマ ヒロウ コンパイ ウメェノ クレェ』

「ハデハデだねっ!」

「ええ!」


 メタリックレッドに黄金の装飾っ。メッチャ豪華っぽい宝箱になった。そしてン・シーの鑑定結果で判明。これが最終進化形態だそうだ。

 クッ、選べるのはカテゴリーまでか。どうしてもガチャは入れておく算段なんだな、遊戯の神様は。


 僕たちが20個の星1核宝石を投入すると、タッチパネルが現れた。


『スキナノ エラビナァ!』


 カテゴリーは──

 住 食 衣 薬 乗

 ──の5つ。


 かなり大雑把に分けられてるみたいだね。化粧品が欲しい場合なんかは薬なのか? 石鹸は住なの? これは試していくしかないなあ。


「難しくなったね、パイアお姉ちゃん」

「ねー。でも選べるようになったのは嬉しいです!」


 なににするかン・シーと相談して、乗にした。星1核宝石コアジェム20個は6万円相当。これくらいなら、エンジン付きは出てこないと思うんだけど。どうかなあ? マウンテンバイクなら移動も楽になる。


『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現するため、ガタガタと揺れる僕の能力。ン・シーも今回は出てくるものに集中しているのか、未参加だった。

 チョット寂しい僕がいる。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! コンヤ テメェラガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 塵になって消える、ゴージャスミミック。


「ゴールドラッシュは確定じゃなかったみたいです……」

「残念だったね」


 出てきた大きなダンボール箱を開封すると、そこには電動自転車が入っていた。う、うーん……。悪路を走るには向かない街乗り用のもの。お買い物には便利だよ系の自転車だった。


「充電できないね……」

「でもまあ……乗れることは乗れます」


 飛べるからいらないけど……。悪路走るとすぐに壊れそうだし、ダンジョンでは乗れないかな。これならン・シーが提案した、インラインスケートのほうが良かったような?


「売りましょうか。これは」

「街で使わない?」

「いらないと思います」


 持って帰るものも自転車とボスオークだけにした。あと未使用の核宝石21個。


 宅配ボックスは大きいし、破壊力満点のこの世界じゃすぐ壊されそうだし。電子レンジもさあ、よく話し合ったら再現は非常に厳しいんじゃないかってなったし。


 だって稼働させられないのに、食品や飲料を中に入れてボタン押したら温まるんです! なんて言っても仕組みとか説明できないしさ。僕もなんで温まるのか知らないしぃ。


「自転車が高く売れることを願いましょう」

「便利だしイケると、ン・シーは思う!」

「うん」


 今日はもう休んで、明日の朝早くに街へ帰還することにしたよ。なんか今回の冒険は、色々あって疲れちゃった。血の取りすぎは身体に影響があるとか、アップグレードとかさ。ゴールドラッシュは確定じゃなかったのも、残念だったしね。


 そしてアプグレのせいで、ガッツリ稼いだ核宝石がほぼなくなったというカナシイ現実……。くたびれ損とまではいかないけど、生活費のためにはなるべく早めに次の冒険に出勤しなくちゃいけなくなったんだ。


「今回は頑張ったのに、ランクアップも遠のいちゃってガックリです」

「でももうアップグレード気にしなくていい。あとは稼ぐだけっ!」

「できればゴールドラッシュも、私たちが当てたいですよねー」

「ねー」


 ン・シーが生まれてくれたのは、神様のサービスと考えておこう。

 そんな僕たちに、残酷な現実が突き付けられたのが、街に帰還してガチャ商売をした時のこと。


『トレジャー! オブ! ゴォォォルドラァァッシュ! ベルグレェッ テメェガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』

「あああああっ、ズルいーーーーッ!」


 ゴールドラッシュのことを教えた直後にっ。


「うおおおおおお! 来い! 来い! 酒ぇっ!!」


 ベルグレさんが「食」のカテゴリーで引き当てやがったっ!

 ギフト用のブランデー3本セットに、試飲用のミニボトルで同社のブランデーやウィスキーが10本付いてるお得でいいヤツ。


 が、3セット……。ズルい。たぶん買うと75000円くらいになると思う。それを3万相当の核宝石コアジェムで当てるとはッ。星1を10個だよ? たったそれだけでぇ……ずーるーいー。


 ちなみに狂喜乱舞したベルグレさんは、興奮のあまり僕にチューしようとして、ン・シーにぶっ飛ばされた。

 アッチで転がってる。


「今の内に転売したくなりました。お酒を」

「パイアお姉ちゃん、それはパイアお姉ちゃんを下げる行為。めッ!」

「だって私には役立たずのしか出ないんですもんっ」


 ぐやじいっ!


「今度、衣、でやろ? ね?」

「ん」


 ってところで、グズってる自分に恥ずかしくなってしまった。ここ、ギルドなのに。顔がポーって赤くなっていく。パイアお姉ちゃんのはずなのに、妹分のン・シーにヨシヨシされてる。


「恥を晒したパイアさんに朗報です。ジテンシャは高価買取が決定しました!」


 たまたま早起きできた日に2番嬢になれた、自由で大らかな4番が定位置の受付嬢がやって来た。僕を私物化したがる危険人物でもある。


「おいくらですか?」

「あれは革命をもたらしそうとのことで、金貨10枚でーす」

「エェェェェーーー!?」

「やったっ! ね、パイアお姉ちゃんっ!」


 ハイタッチ~!


 自転車金貨10枚、星1核宝石21個で銀貨6銅貨3、オークチャンプの肉が金貨3枚。終わってみれば大儲けした冒険だった。

 追加でガチャ料金が銀貨10枚入ったしね。


 カテゴリーを選べるようになったおかげか、ベルグレさんを含め5組とも満足いく結果だったようだ。毎度ありー!


「そういえば、ランクアップって試験とかあるんですか?」

「うん、ン・シーたち、ランクアップ狙い」

「えーっと……あなたたちはねえ、評価が分かれてるんだよね」


 あれぇ? 悪いことなにもしてないよ?

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