20 泣きそうです

「残り8っ」


 右側に突入したン・シーが、1番手前のオークに突きを放つ。弾き飛ばされたオークは、他のを巻き込みながら大きな音を立てて転がった。機先を制するのは大事なことだね。


 じゃ、僕は左を担当しよう。お食事処で大騒ぎすれば様子をうかがうために、おかわりオークがやって来るだろう。

 アタリの場所だね。


 オークが生活しているであろう場所に、ヒットしたよ。


「パイアお姉ちゃん、こっちも終わったよ」

「血抜きして次の準備ですね」


 吸収し過ぎると精神に変調をきたす可能性があると知ったので、ブラッディ・スライムを作っちゃおーっと。操血の負荷も少ないし、血だまりがあれば防具にも武器にも使いやすいし。


 いいアイデアかも~。


「あっちから追加5」

「ハーイ。入口辺りで処理します」


 さっそくブラッディ・スライムを使ってみよう。入り口脇に待機させて、順番に捕らえていくと同時にブラスラを成長させる。


「おー、便利」

「単純な思い付きでしたけど、これって素晴らしいアイデアだったかもしれません」

「うん。このままどんどん行こーっ」

「おー」


 結構広い居住区を作り上げてるみたいだな、このオークの群れは。これはボスに期待できるよ。食堂での戦闘音が、オークには聞こえなかったであろう距離まで侵入。


 僕らは物陰に隠れて様子をうかがう。広場の中央には水場があるね。お酒を飲んで宴でもしたりするのか、喰い散らかされたなにかの残骸やらがある。その広場を囲むように部屋が6。ダンジョンの小部屋でも利用してるんだろう。


 今いる場所の対面にある通路の先がボス部屋かな。歩哨がいるし。その先に、まだ通路があるかどうかは分かんないな。血の糸で探るか。


 臭いで索敵してたン・シーから合図。3、4、2、5、と部屋を指しながら、中にいるオークの数をお知らせしてきた。僕は対面の通路が行き止まりかどうかを、調べてると伝える。


 どうやら奥まった場所にも部屋があるっぽいな。ドアと床の隙間に糸をくぐらせて、内部も探索。糸の索敵は目をつむったまま、どこまでも伸びる指で探ってる感じだよ。僕と繋がっていれば、糸に感覚があるから巻きついたりすれば大きさも分かるのだ。


 やはりこの部屋がボス部屋だな。大1と普通4。この広場周囲には32匹とボスがいるってことだ。食事中ではないだろうし、大立ち回りはするべきじゃないね。

 ン・シーとハンドサインでやり取りして、ボス部屋以外を静かに無力化することにした。


 近場から実行していきましょー。部屋の中にいるのは10匹以下なので、問題なく処理できる。最後に歩哨の2匹を倒して、残りはボス部屋のみ。


「普通にやる?」

「いいですよ。ボス部屋は広かったですし」


 ただ机とか椅子とかもあるから、多少は邪魔なものもあると伝えておく。


「私は魔法の代わりに、これで」


 と、血の鞭を5本出してウニョらせる。あとついでに見た目だけの課金勇者剣を構築。


「了解っ」


 僕もン・シーもフォースを展開してパワーアップ。ボスのお部屋に堂々とお邪魔する。


「ウゴウッ!」


 お邪魔したと同時に振られた棍棒が、血の盾に激しく叩きつけられゴバッっと音を立てた。コイツらの中にもソコソコな索敵キャラがいたみたいで、待ち構える動きをしてた。


 僕らもそれには気付いてたから、ブラッディ・スライム盾を先行させたんだ。そのブラスラ盾の陰から、ン・シーが飛び出す。僕は即座にブラッドウィップを振るい、ボスと取り巻きを分断した。

 んー、ブラッディ・ウィップって言ってたっけ?


「ボスはン・シーがもらう~」

「もー、ズルいっ」


 仕方ないなあ。僕は取り巻きを相手にするか。多数相手なら僕のほうが相性がいいだろうし。魔法剣士ムーブで行きますか!


「サンダーアローッ」


 サンダーもアローもないけど、ブラッドウィップを同じように使う。敵と同数の4本を射出して、動きを阻害しつつ孤立したオークに接近戦を仕掛ける。

 駆け抜けながら勇者の剣を振るい、傷を負わせた。

 コイツを盾にしつつ、再び4本の鞭を射出する。


「ライトニング!」


 今度は上からの攻撃。迂闊にも目で鞭を追って上を見てしまったヤツを狙い、突撃型の剣技。


「クラッシュボーンッ」


 深く刺さった剣をそのままに、壁際まで押し込む。凄いな。ゲームキャラの動きを実際にやって、できるなんて。ちゃんと確認しておいて良かったかも。

 この身体──高性能なり!


 チラッとン・シーを確認したら、ボスはもう死に体だった。じゃあコッチも終わらせよう。手っ取り早く、血の鞭を操って残りの3体を屠った。近距離戦しかできない相手だと、どうとでもなっちゃうのだ。


「パイアお姉ちゃん、ン・シーも終わったよっ」

「練習になりましたか?」

「うん!」


 ン・シーには重量のある武器が合ってるってさ。軽い武器使うくらいなら徒手空拳のほうがやりやすいんだって。


「じゃあ2本使うのもアリっぽいですね」

「うん。でもン・シーはどっちでもいいかなー。武器はお高いのでっ」

「ええ……お高いです」


 でも今回は結構稼げたのでは? この群は55匹にボスという大きさだったし、昨日の分も合わせると核宝石コアジェムは80個オーバー。しかもボスの分は星1じゃないかもしれないし~。


「剥ぎ剥ぎタ~イム、です!」

「今回のボス肉も、ン・シーは持って帰るを提案っ」

「いいですよー」


 だって僕たち、乙女だもんねっ。オシャレにはお金が掛かるんだ。仕方なし。誰にも見られてない所では、がめつく生きるのだ。広場に死体を集めて、まずは血抜きだ。ここなら水もあるしね。

 取り込み過ぎないように、ブラッドスライムで調整しながら処理していく。


「パイアお姉ちゃん、ブラッディ・スライムって言ってなかった?」

「……そうでしたっけ?」

「……ン・シーも自信ない」

「まあどっちでもいいので、気分次第で名を呼びます」

「ノリは大切~」

「です~」


 火種を食堂から持って来て、肉を焼きながら解体していく。僕なら手を汚さないで済むからね。焼き加減はン・シーがバッチリ鑑定するよ。


「その使い方、なんかもったいない気がしますが」

「ン・シーは正しい使い方だと信じているっ」


 料理人なら分からなくもないけどさ。

 まあ、少しでも美味しいほうがいいだろうし、言われるがままお肉をひっくり返すよ。それは調味料を忘れた僕の罪。


「大量過ぎて帰還は明日になりそうですねえ」

「儲かったからいいの!」


 そうなのだ。ボスから出た核宝石は、星2のものだった。だからチョット今日のガチャは期待できるよね! お試しに使うのはもったいないのだけど、ミミックの進化ポイントを調べておかないといけないからな。


 ささ、ガチャガチャっとー、僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ヘイヘイヘーイ イイモノ クワセロヨォォ?』


 形作った鋼の宝箱が、いつもの要求を出してくる。でもキミに捧げるのはゴミなのです。


「パイアお姉ちゃん、待って」

「どうしたのですか?」


 ミミックと今日の成果の間に、何度も視線を移すン・シー。これはもしかしてのアプグレ案件が?


「進化できそう」

「やっぱり! やりましたねーっ」

「うーん……」


 アレ?


「儲け、全部」

「全部」


 うん、全部。全部? そう全部。と凄くアホっぽい会話を続ける、アンデッド女子の夜明けメンバー。

 仕方ないじゃないかっ!

 全部なんだから。


「ここで逃すと、他の人にゴールドラッシュを取られる可能性があります」

「ボスもう1体探すっ!」

「おー!」

『ソンナノハ イイカラ ハヤク クワセロォォ!』


 星2のチェックをするために、これだけ投入することにした。

 そしたらさ、ビニールで梱包されたおっきなものが出てきたよ!


「……」

「えっと、これは、宅配ボックス。大型、屋外用のもので防塵防水防錆仕様、のもの、だよ、パイア……お姉ちゃん…………」

「泣きそうです」


 電子レンジも宅配ボックスも使えないよ?

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