18 オークの屍を生贄に、

「今日から数日、オークダンジョンに泊まりこもうかと思います」

「ン・シーは賛成っ」


 まだほとんど回ってないしね。不人気だからオークもたっぷり残ってそうだし。僕らなら手早くオークも処理できるし、核宝石コアジェムも稼げそうだと判断した。


 素材がお肉だけなのが、残念なところなんだけどね。宝箱なんかもあるらしいから、探してみるのも手だろう。

 なので宿のフロントにその旨を伝え、ン・シーの服が届いたら保管しておいてもらう。


「お願いします」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

「ン・シーがいる。ダイジョブ~」


 さて、スレイプニルの高速馬車を使うかどうか。僕は乗ったけど、ン・シーはまだだしな。乗って行くか。あれはゲームでも経験したことのないものだし。


「お~、スレイプニル、カッコいいっ」

「オークダンジョンまで、よろしくお願いします。今回も片道で」

「この短期間で再度あそこに向かわれるのは、珍しいですな」


 銀貨2枚を支払って乗り込む。

 楽しみそうにしてるン・シーにキュンキュンしながら、出発を待つ。


「それでは出発いたします」

「「ハーイ」」


 やっぱり速いなあ。僕にブースターユニットとか、付かないもんだろうか。ワンチャン、ガチャならなんとかしてくれるんじゃないかという、そんな考えが浮かんでくるよ。


 神様仕様だし。


「いい眺めだねっ」

「ねー。やはり空はいいですねえ」

「分かっておられますな」


 空の旅は怖がる人が多いんだって。あー、まあ、仕方ないかも? 僕らは飛ぶってことに慣れ親しんでるからねえ。僕に至っては今じゃ自前で飛べちゃうし。


「夕日に染まる雲海なんて見たら、流行するかもしれませんね」

「あれは感動で泣けるっ!」

「それはなんですかな?」


 夕方に雲の上に出ると、見ることができる絶景だと説明する。そしたら今日試してみるってさ。


「見えてきましたぞ。そろそろ到着です」

「あ、ならここでいいです。ン・シー、行きましょう」

「お爺ちゃん、ありがとう! またねっ」

「は? え!? ま、待ちなさい!!」


 ぴょーんと飛び降りて、ヴァンパイアウィーーングッ!

 ン・シーがちゃんと掴まったのを確認して、降下していく。


「「行って来まーす!」」

「こりゃーーー!!」


 わざわざ地面に下りるのは手間だろうからね。離陸にはエナジーも必要だろうしさ。そもそも森の中だと馬車の離着陸は難しいだろうし、ってことで飛べる僕らは自前で着陸しまーす。前回の経験を踏まえての選択だったが、お爺ちゃんはなんか怒ってた。

 峡谷の秘密航空基地に飛行機が入るように、スポっとダンジョンに侵入。


「殲滅する勢いでやっちゃいますか」

「やっちゃおうよっ」

「できればですが、群れを襲いたいと思います」

「分かったっ」


 群れのボスは核宝石コアジェムが、いいのだったりするかもだしね。だから徘徊してるオークパーティは、全滅させずに数匹は逃がしたほうがアタリを引くかもしれない。


 ン・シーにも共有して、いざ!

 なんて意気込んでみたものの、初日は成果なし。群れのって意味ではだけど。そして気付いた。


「ファイアスターターを買っておけば良かったのに、気付きませんでした……」

「ン・シーも。でもン・シーがパワーで解決するっ」

「実は私もサバイバルしてた時に、パワーで解決してました」

「お揃い~」

「お揃いです~」


 キャッキャキャッキャ。

 小部屋を使って、本日の休憩所にする。このダンジョンは迷宮型だけど、樹に浸食されたりしてる場所もある。以前来た時にオークが群れを作って生活してた、そんな活動拠点になるような、水場なんかもあったりするよ。


 ン・シーが火起こししてる内に、僕はある程度のオークを集めていく。ン・シーが食べる用に切って、血のお皿にどんどん乗せる。操血を使えば刃物もお皿も汚れない。そもそも持ってないんだけど。


 過食部分はン・シーが鑑定したので大丈夫だ。死んだから鑑定できるんだって。他の部分はミミックのご飯です。核宝石はおあずけ。今日の成果は42個で全部星1だった。


「生きてるとダメなんですか?」

「うん。ン・シーのは物品鑑定」


 条件付きの鑑定だったのか。つまりミミックも物だったってことだね。ウギャーとか言って塵になるけど。今のところは物であれば、なんでもイケてるそうだ。


「現時点では、パイアお姉ちゃんのミミックが最高。星5」

「えーーっ!? ……ご?」

「うん。ご」

「さ、さすが神様製品。ということはン・シーと一緒に出てきた女神像も、神様製品ということだったんでしょうねえ」

「夢と希望が詰まってるね!」

「今日のガチャ、核宝石コアジェム10個くらいは、あげちゃおうかなって気になりました」

「んふふ、ご褒美は嬉しくなると、ン・シーは思う」


 ミミックのディナーは、オーク肉と核宝石だね。


「あぁ……調味料がないです。ごめんね、ン・シー」

「んーん、気にしなくていい。味わう必要ない時は、どんどんン・シーのどこかにストックされていく」

「私の血みたいなものですかあ」

「たぶん? 火も通さなくて平気かもしれない」


 いやあ、でもさすがに焼いたほうが匂いもいいでしょ。ってことで、僕は肉焼きロボと化すのだ。僕は僕で血のストックがたっぷりできた。オークは大柄だから、僕らにとっては都合がいいなー。


 さて──やるか。★★★★★の力を見せてくれっ!

 僕はフォースの密度を上げていく。

 塊になるように。

 そこに宝箱があるかのように。

 想いと力が形となるように。


「開け──宝物かゴミくずかトレジャー・オア・トラッシュ──」

『ヘイヨゥ オレニモ シャレタ ディナーヲ クワセロ ヨー!』


 形作った鋼の宝箱の要求に応えてあげYO。


「本日のメニューは、オークトライプの核宝石添えでございます」


 ただの生臓物と核宝石だけど。核宝石10個追加だし、オークのゴミもいっぱいあるからな。


「さあ、アタリを出してください。フランス料理の雰囲気もあげたんですから」

『ハッハー! ケッカハ カミノミゾ シルッテ ヤツサー!』


 ドラムロールを表現するために、ガタガタと揺れる僕の能力。

 今日のン・シーはモグモグ中なので、モグモグで参戦。

 モグモグモグモグモグモグーってしてる。小動物っぽくてカワイイ。


『トレジャー! オア! トラァァッシュ! コンヤ テメェラガ カクトク スルノハ コレダウギャァァァァァァ』


 塵になって消えるミミックに、もはや憐憫は感じない。mimizonから届いた比較的大きなダンボール箱を開封する。

 出てきたものを、2人して冷めた目で見てしまった。


「星2のアイテム。電気を利用して調理などに使うもの」

「皆まで言うでない」


 使えないんだよ。

 電子レンジは。

 役立たずなんだよっ。


「シャンプーだったら2年分くらいには……なりそうなお値段のものですのに」

「ねー」


 なんか無駄に、そう、ホント~~~に、無駄に、高性能なタイプの電子レンジが出てきたよ。


「邪魔です」

「捨てるのももったいないよ?」

「ですよねえ」


 とりあえずここに放置しておいて、帰還時に持って行けるなら回収するかなあ。凄く邪魔だよ。山盛りオーク肉の処分に、ミミックは必要なんだけどさ、せめて消費可能なものであって欲しい。


「冒険してると、こういうことも増えていくでしょうし……」

「困ったね」

「インベントリ系の能力が欲しいですね」

「マジックアイテムもありっ」


 ゲームでは当然のように使うものだから、現実となるとキビシイな。他の冒険者たちは、取捨選択してるってことなんだろうけどさ。僕らは、全部持って帰るムーブに慣れ過ぎてるのが、ダメなところってことになっちゃうぞ。


「せめてカートくらいは、持ち運ぶべきなんですかねえ」

「2人で1個ずつ持ったら、チョットは運搬も楽」

「必要なものがどんどん出てきます」

「パイアお姉ちゃん、それも楽しいよっ!」

「充実してるってことです!」

「「ねー」」


 キャッキャキャッキャ。

 オークの屍を生贄に、アンデッド女子たちがキャッキャの宴を開くという、世にも恐ろしいダンジョンがあるようです~。

 オークダンジョン初日はこうして幕を下ろすのだった。


 でも一言で言うとぉ。

 微妙って言葉がピッタシ。

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