16 心に勇気を。

 何人かに聞き込みをした結果、ドワーフのお店は冒険者ギルドの裏手にあるということが判明した。


「ギルドで聞いておけば」

「パイアお姉ちゃんが、ションボリしてたタイミング。あと、ご飯も必要だった。ン・シーの判断では無理と結論が出た」

「身体は高性能なのに、頭の出来は人間だった頃のままです」


 ションボリィ。でもン・シーにヨシヨシしてもらったら、すぐに機嫌がよくなる切替の良さは美点だと思う。


「パイアお姉ちゃんが幼児化している」


 ン・シーの評価は違ったみたいだが、お店に着いたので切り替えていきましょう。


「メイス1本ください。硬くて重いのがいいです」


 僕らをチラ見して、鼻で笑うドワーフ。

 おぉん?

 やんのか?

 おおん?


「なかなかの2人が来たもんじゃな! 秘めたるエナジーが尋常ではないのう」


 できる男でした。「どっちのエモノじゃ?」って言うので、ン・シーが手を上げる。じっくり見られるン・シーは、ちょっと居心地が悪そうだよ。

 でもドワーフのおっちゃんは全く気にせず、手のサイズとか腕の長さ、身長とかもチェックしてるみたいだ。


「予算は?」

「金貨3枚がギリギリです」

「え? 2枚って言ってた」

「さっきのガチャで少し余裕ができましたので」

「なるほどのお、お主らが噂の2人か」


 どうやら僕らのことが噂になってるそうだ。アンデッド女子の夜明けは近い。おっちゃんは陳列されている内の、2本のメイスをン・シーに持たせどっちがしっくりくるか質問してる。


「分かった。調整しておくから夕方にでも取りに来い。金2、銀3枚じゃ。置いていけ」

「ハーイ。お願いします」

「えと、ン・シーはこっちの黒いほうがいい」

「分かっておる。じゃから調整するんじゃ」

「おー! さすがっ。ン・シーはよろしくお願いする」

「任せておけぃ」


 じゃあ次はバッグと靴を買いに行こうって相談してたところで、おっちゃんからオススメのお店を教わった。弟がやってるお店だそうだ。

 5秒で到着。お隣です。


 ここで買うのは、僕とン・シーのブーツとショルダーバッグ。ン・シーのバックパックと小っちゃいバッグ。

 バッグ類のデザインはカワイイ系と武骨系。補強してある縁の部分で分かれてる。系統の中での差はないから、カワイイ系でポケットが多めなのを選んだ。


 で、小っちゃいバッグは、普段持ち歩くものと、素材入れる用のを購入することに。普段用のは僕のも買うことにした。血のバッグは赤1色だしさ。

 素材用のはゴムみたいな素材で作られてて、洗うのが簡単なんだそう。4個買っておく。


 ブーツは僕が普段履き用と、ダンジョン用のを1つずつ。ン・シーはダンジョン用のを購入する。


 普段用は買うつもりなかったんだけど、ン・シーと意見が割れたので買うことにした。ダンジョン用だから着脱の簡単なのを選んだら、カッコいいヤツにするべきって譲らなかったのだ。


「ガマンしてましたのに」

「カッコいいほうがいいと、ン・シーは判断したっ」


 普段用ブーツが銀貨1枚、ダンジョン用が銅貨5枚。頑丈さは同じだそうだ。デザインというかパーツのせいで高くなってるんだね。

 それからバックパックが銅貨8枚、ショルダーバッグは銅貨3枚。小っちゃいバッグは、全部銅貨1枚と小銅貨5枚だった。


 合計で銀貨4枚のお会計。


「ブーツはさっそく履いていきます!」

「次は服。血のドレス、色が単調っ」

「私も、そこが気に入らないんですよ」


 この世界に来て6ヶ月目だけど、普通の服を着てたのって1週間もないような……。村でもらって、翌日にエダに来て、その翌日にオークダンジョン?

 アレ?

 ふ、2日?


「私はどうやら単調女子だったようです」

「んー、話聞くと、人前には出てない。ン・シーはダイジョブのたいこ判を押す」


 色々ありすぎて血のドレス状態が長い気がするけど、それで人前に出てるのは少なかったか。それならまあ良かった。

 じゃあ今日の本命を買いに行こう。


 ドレスが手に入ればいいけどなー、なんて軽い気持ちだったんだ。ドレスなんて貴族しか着ないらしく売ってなかったよ。完全にオーダーメイドで、最低でも金貨1枚くらいは必要なんじゃないかって言われた。


「パイアお姉ちゃんは、現代っ子ヴァンパイアになるしかないね」

「そうします。それもいいものですし」


 オシャレ着なんかはデザインの差はあるけど、地球と比べて劣ってるわけじゃない。もらった町娘の服は作業服のカテゴリーみたいだ。あれはあれでゲームというか、ファンタジー世界って感じでいいものだったけど。

 見てるとアレもコレもと買ってしまいそうになる。


「5着までというルールを厳守しましょうか」

「分かったっ」

「私はワンピース3着とブラウス&ロングスカート、チュニック&パンツで」


 ワンピースは清楚系を2着、もう1着は冒険に使える感じの渋め。ブラウス、スカート、チュニック、パンツは、トップスは明るい色、ボトムスは濃い色のものにした。チュニック&パンツは冒険に使う用だよ。


「パイアお姉ちゃん、ルール厳守は?」

「セットですから! セットで1着ですから!」

「仕方ない。ン・シーの分を、パイアお姉ちゃんに回してあげる」

「そっ、それは……ダメなヤツですし……」

「ン・シーはそもそも、カンフーマスターの服がいい。作って欲しい。2着欲しいなっ」


 ゲームの時も着てたやつだよね。今着てるのはカワイイ系だけど、戦闘する時はカンフーマスターの服だった。


「お願いします。色は赤ベースで金の装飾、青ベースで金の装飾のでいい?」

「うん。あとゆったりしたパンツで、足首は締められるように作って欲しい」

「色は黒でしたよね?」

「そう。できる?」


 僕はデザインを見せるために操血で着替えた。えっとぉ、課金服なのでぇ、スッと作れるよー。白ベースの金装飾はまだ買ってなかった。無念。


「金を装飾に致しますとウチでは難しいです」

「ン・シーはこだわってない。明るい黄色でいいよ?」

「でしたらお引き受けいたします!」

「良かった。あとは──」


 下着だ。下着コーナーは……元男なのでチョット勇気がいる場所になる。なんにも悪いことしてないのに、いたたまれないっ。

 だがしかし、異世界からの転生者には勇者の資質があるはずなのだ。


 心に勇気を。


「白4、黒1ぃ? パイアお姉ちゃんダメダメなの?」

「だ……て…………恥ずかしいですしぃ」


 赤の誘惑1、青の挑発1、黒の大人が2、白の清楚はたった1。

 い、いくらなんでもっ!

 アウアウアウってなってる間に、ン・シーがカウンターに提出してしまった。


「あの、よろしいのですか?」

「うん。パイアお姉ちゃんは動きが雑。えっちなの履かせないと、みんなに見られる。スカートの中は大事にするべき」

「エッ!?」

「ダイジョブ。今のところン・シーガードは完璧のはず」

「そ、そんなに……も?」

「うん」

「そう……でしたか」


 僕から財布をむしり取ったン・シーが、お会計を済ませてしまった。勇気は1個も必要なかったよ……。

 そして諸々で金貨案件だった。

 支払いは1番多く持ってた銀貨で13枚。あっという間にお金が減っちゃったなあ。


「オーダーの服は3日後にお届けします」

「お願いします」


 宿と僕の名前を言ったらそれでオッケーだった。いない場合は宿のカウンターで預かってくれるってさ。それなら安心だね。僕はお店で着替えさせてもらって、雑貨屋さんに向かうことにした。テキパキやっていかないと夕方になっちゃう。


「服屋さんは楽しい。時間が掛かるの当たり前」

「お金、いっぱい稼いで、また散策しましょう。ね、ン・シー」

「うんっ」


 ン・シーの歯ブラシ1本と、核宝石コアジェム血油を拭くためのタオルを4枚を雑貨屋で購入して、最後の場所へと向かう。マイナス小銅貨5。


「まだなにか必要? パイアお姉ちゃん」


 コソッと伝える言葉は、除毛ポーションです。


「今日120%ン・シーが誕生します」

「ン・シー的にお断り~」

「ダメ~」


 2人部屋には洗面所があるからね。軽く洗い物なんかも可能なので、お風呂上りに部屋で実行するのだ。


「見るの私だけですから我慢してください。私の時も我慢します」


 2人の顔が赤いのは、夕日のせいだけじゃあなかった。そんな僕らを街の人たちは微笑ましそうに見てるよ。恋人つなぎで歩いてるしなあ。

 まさかムダ毛処理が恥ずかしくて、赤くなってるなんて思うまいの、マイナス銅貨3枚。


 ン・シーのメイスを受け取った僕らは、宿に帰ってお食事タイムです。

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